【2023年3月18日 NASA】

私たちの宇宙の現在の膨張速度は「ハッブル定数H_0」で表される。ハッブル定数は「地球から遠い銀河ほど速く遠ざかっている」という「ハッブル・ルメートルの法則」の比例定数だ。

現在、ハッブル定数は観測方法によって大きく2通りの値が得られている。銀河に現れた「Ia型超新星」の明るさから距離を求めてハッブル定数を導くと、およそ73.0±1.0km/s/Mpc(距離が1メガパーセク遠くなるごとに、銀河の後退速度が73km/sずつ大きくなる)という値になる。一方、ビッグバンの熱放射の名残である「宇宙マイクロ波背景放射(CMB)」を観測したデータからハッブル定数を求めると、およそ67.4±0.5km/s/Mpcという値が得られる。

この2つの値が誤差などを考えに入れても一致していないことは「ハッブル・テンション(Hubble tension; ハッブル定数をめぐる緊張)」と呼ばれ、現在の宇宙論で最大の謎の一つになっている。

NGC 5468
渦巻銀河NGC 5468。ハッブル宇宙望遠鏡(HST)の広角カメラ「WFC3」とジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の近赤外線カメラ「NIRCam」で撮影された画像を合成したもの。HSTでケフェイドが見つかった銀河としては最も遠く、またIa型超新星も出現しているため、両方の天体を使った距離測定の校正に利用できる重要な銀河だ(提供:NASA, ESA, CSA, STScI, Adam G. Riess (JHU, STScI)、以下同)

ここで問題になるのが、銀河の距離を求める方法に未知の誤差がないかという点だ。宇宙で距離を測る方法はいくつかあり、使える範囲がそれぞれ限られている。そのため、遠い天体までの距離を測るには、近い距離を測る方法から順に複数の測定方法をつないで距離を求める。これを「宇宙距離梯子」と呼んでいる。

Ia型超新星の明るさと距離の関係は、「ケフェイド(セファイドなどとも呼ぶ)」というタイプの変光星から求めた距離を使って校正されている。ケフェイドは個々の星を見分けられるくらい近い銀河でしか見えないが、「明るいものほど変光周期が長い」という性質(周期・光度関係)があり、精度良く距離を決められる。そのため、Ia型超新星が出現し、なおかつケフェイドも含まれているような銀河を使えば、Ia型超新星という「ものさし」の精度を校正できるのだ。

この校正を行うには、Ia型超新星もケフェイドも含まれていて、しかもなるべく遠い銀河を使うことが望ましい。しかし、あまり遠い銀河だとケフェイドを分解できず、別の星の明るさが混ざってしまう可能性がある。実はハッブル・テンションの原因として、この「光の混入」があるのではという指摘がされていた。

ケフェイド
NGC 5468で見つかったケフェイドの一つ、「P42」。左がJWST、右がHSTによる近赤外線画像。JWSTの方が大幅に分解能が向上している

米・ジョンズ・ホプキンズ大学のAdam Riessさんは、Ia型超新星を使ってハッブル定数を精密に求める「SH0ES」というプロジェクトを率いている。RiessさんはIa型超新星の観測から宇宙の加速膨張を発見して、2011年にノーベル物理学賞を共同受賞した一人でもある。

今回、RiessさんたちはJWSTを使い、計8個のIa型超新星が出現した6個の銀河について、合計で1000個以上のケフェイドの光度と変光周期を高い精度で観測した。その中には、ケフェイドが見つかった銀河としては最も遠いNGC 5468(おとめ座の方向約1億3000万光年)も含まれている。

観測の結果、Riessさんたちはケフェイドの周期・光度関係の誤差を数百分の1に減らすことができたが、銀河までの距離は過去にHSTがIa型超新星を観測して求めた値とほとんど変わらなかった。そのため、ケフェイドに別の星の光が混入してハッブル・テンションが生じている可能性は否定できる、と結論した。

「JWSTとHSTの組み合わせで、両者の長所を活用できました。宇宙距離梯子をさらに上って、HSTの測定が依然として信頼できることを確かめられました」(Riessさん)。

Ia型超新星を使う方法は、いわば数千万〜数億年前という比較的新しい宇宙を観測してハッブル定数を求めている。もう一方のCMBを使う方法は、ビッグバンからわずか38万年しか経っていない時代の宇宙からハッブル定数を導いている。この2つの時代の間に宇宙の性質がどう変わったのかについては、まだ直接観測されてはいない。

「私たちは、宇宙の始まりと現在とをどうつなぐかを考える上で、何か見落としていないか、見つけ出す必要があります」(Riessさん)。