10月12日、ニュルブルクリンクで行われたVLNニュルブルクリンク耐久シリーズ。このレースでは、来年正式デビューとなる新型メルセデスAMG GT GT3がレースデビューした。その情報を聞きつけ、筆者は紅葉真っ盛りの美しいニュルへ駆けつけた。これまでも多くの実績を誇り、ユーザーにも評価が高いメルセデスAMG GT3だが、新型の印象と開発の狙いを聞いた。

 世界中で多くのセールスを誇るメルセデスAMG GT3のニューモデルは、6月のニュルブルクリンク24時間の会場でワールドプレミアを行い、7月末のスパ24時間のパドックでも展示。日本から参戦していたグッドスマイルレーシングの面々を含め、多くの見学者が訪れ話題となっていた。

 ワールドプレミア後は、7月のポルティマオ24時間、さらに9月にはブランパン耐久シリーズ最終戦のバレンシア等、精力的に特別枠で出場。ホモロゲーション未取得であるため、プロトタイプで参戦している。ただ、これまでテスト参戦はAMGワークスが主体だったが、このVLN8ではカスタマーチームが実際にニューマシンを購入してレースに参戦することを想定したテスト参戦であり、まずは強豪ブラックファルコンに車両が貸与されてのエントリーとなった。

 今回のVLNでは、ブラックファルコンからは現行のAMG GT3が1台参戦しており、2台が並ぶ姿はアップデートがひと目で分かって興味深い。特に、より大きくなったフロントグリルや変更されたエアロパーツが視覚的に強調されているせいか、全体的にマシンのサイズが大きくなったかのような錯覚に陥るが、実際にはサイズはほとんど変更がないという。

■ドライバーのインスピレーションは「楽しく爽快!」
 気温は低いものの、好天に恵まれたニュルでは、早朝から数多くのファンが訪れ、新顔となるメルセデスを見るべく、ピットの前にはまたたく間に人だかりができた。

 GT3のためのSP-9ではなく、SP-Xクラスから出場した54号車はホモロゲ未取得のニューモデルとあり、リストリクター装着等の性能調整は行われない。そのため、予選での成績に関わらず、グループ最後尾からのスタートとなり、さらに毎ピットインごとに30秒のストップが義務化された。十二分にハンデを背負っての参戦だ。

 このブラックファルコンの新AMG GT3には、イェルマー・ブールマンとルカ・シュトルツというふたりのメルセデスワークスドライバーが乗り込み、午前8時半からの予選を総合10位で終えた。『もうちょっと速さが欲しい』と関係者が言うものの、まずまずの走り出しだ。12時にスタートした決勝は、スタート直後にGPコース内の二カ所で起きた多重クラッシュにより1時間以上も赤旗で中断したが、ふだんからメルセデスを使い慣れているチームだけに、ニューマシンながらもトラブルやミスもなく、SP-Xのハンデがありながらも総合8位に入賞した。総合1〜3位までメルセデスが占めるなか、ベストラップも僅差と好感触だ。

 じつは初めて新型をドライブしたというブールマンは「ABSやトラクションコントロールが劇的に良くなっている。ダウンフォースがずいぶん改良されて、ハイスピードコーナーをさらに安定して走り抜けられるようになり、とても楽しく爽快だよ!」と満足そうだ。

 ジェントルマンにも人気のあるGT3マシンだけに「カスタマーレーシングにとって、ジェントルマンの存在はとても重要。ドライバビリティがさらに向上したことで、彼らがより快適に安心してレースを楽しめるようになったことは素晴らしいね」と、プロだけではなくアマチュアドライバーにとっても今回のアップデートは相当なおススメのポイントであると自信をもつ。「まだ少し改良すべき点はいくつかある」というが、新型の走りをかなり気に入った様子だ。

■チームとドライバーの負担を軽減させる改良
 AMGカスタマーレーシングを担当するヤン・デーレンバッハによると、車体やパーツ類が高価なGT3において、高額な出費に頭を悩ませるカスタマーチームや、オーナードライバーの金銭的負担やその修復に関する労力を少しでも軽減できたらと考え『お客様の立場に立って』新型のドラフト段階で多くの意見を出しあい、さまざまな改良を行ったという。

 特にフロントやリヤはレース中の接触により破損が多い部分だ。たとえば、新型では接触等でフロントの冷却装置を破損した場合、わずか2か所のネジを外して簡単に交換ができるようになり、チームがより早く修復作業を行えるよう改善をしたという。何度か練習をすると5分ほどで交換が可能といい、GT3のなかでも驚異的な早さで交換できるシステムを誇るそうだ。また、スパ24時間で義務化されている5分間のテクニカルストップにも対応できる時間設定とのことで、今まで多くの時間を費やしていた修理時間を短縮できるという。

 さらにリヤには新たにカメラが設置され、ドライバーはバックミラーとあわせてモニターでも後続車の接近をチェックできるほか、リヤバンパーは現在の一体型から3ピース型へ変更となり、部分的な破損ならば、バンパーをすべて取り替える必要はなくなった。修理を手掛けるメカニックの立場を考えてのパーツ設計効率化のほか、エンジンのロングライフ化にも成功し、現行2万kmでのオーバーホールも2万5千kmまでアップした。

 また、新しいヘッドライトはLMP1カーとほぼ同じレベルという明るさを誇り、暗闇に潜むブラインドコーナーが多くあるニュルやスパではよりクリアにコースを照らす。明るくなった上に、コンパクトなサイズになったヘッドライトの下の部分には、24時間レース用の補助ライトを装着できる部分が確保されている。バンピーなアスファルトを走行中のライトの揺れも極力抑え、夜間の視界を安定化させてドライバーのストレスを少しでも減らす工夫がされている。

 酷暑が厳しいアジア諸国をターゲットに、エアコンの他にシートクーラーも搭載し、熱中症予防にも対策を施すなど、数多くの箇所に改善改良を行った自信作だ。

■タイヤ、そして近代の走り方に合わせた耐久テストも
 ニューマシンを開発するうえで、より速く、パフォーマンスを向上させるという視点も忘れてはいけないが、GT3カーの場合は他のメーカーとのパフォーマンスを平等化するために、性能調整(BoP)が施される。そのため、開発ではそちらにはあまり重点は置いていなかったという。その代わりに、AMGではABSやトラクションコントロールを一新するというドライビリティの向上に注目した。

 また、ブランパンGTやADAC GTマスターズといったピレリのワンメイクタイヤで行われるレースのほかに、ニュル24時間や日本のスーパーGTではタイヤはフリーとなることから、さまざまなメーカーのタイヤのコンパウンドを研究してドライバビリティの改善を行った。それが結果としてリザルトに反映されるだろうという目論見だ。

 9月1日からニューモデルの予約が開始されたが、すでに35台もの予約が入っており、AMGとしても“嬉しい悲鳴”が上がっているという。なお現行モデルや中古車を購入予定のチーム用に、アップデートキットも45000ユーロ(約550万円)で用意されており、ABSとトラクションコントロール以外は新モデルとして一新できるうえに、アップデートキットを装着した車両も2023年までホモロゲーションが有効となる。

 デーレンバッハは「今回のVLNデビューの前に、じつはすでに昨年のVLNに、ABSのテストとして現行車に新ABSを装着したマシンを走らせていた」という裏話も語ってくれた。また、スロバキアリンクでレース実戦を想定したノンストップの35時間耐久テストを行い、ステアリングを担ったドライバーによれば、極力縁石を多く踏むことや、シケインやコーナーでできる限りハイスピードで突っ込む等、極限状態で走ることを課されたという。厳しいテストを多く経てのVLNデビューだったというわけだ。

 10月26日に開催されるVLNの2019年最終戦には、HTPモータースポーツにニューマシンが貸与され、SP-Xクラスからふたたび登場するという。