2021年シーズンで6年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。第2戦エミリア・ロマーニャGPは、ウエットコンディションからドライコンディションへと変わる非常に難しい状況でのレースとなった。ドライバーふたりはウエットコンディションでF1マシンを走らせるのも初めてだったが、開幕戦とはまったく異なる状況のイモラで学ぶことも多かったはずだ。そんなハースの現場の事情を、小松エンジニアがお届けします。

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2020年F1第2戦エミリア・ロマーニャGP
#9 ニキータ・マゼピン 予選19番手/決勝17位
#47 ミック・シューマッハー 予選18番手/決勝16位

 第2戦は開幕戦とはまったく状況の異なる週末になりました。もちろんニキータとミックがウエットコンディションで今年のF1に乗るのも初めてです。それに加えて今年はバーレーンでプレシーズンテストをしたので、気温や路面温度が低い状況も経験していないので初めてのこと尽くしでした。

 ニキータはバーレーンではほぼ毎セッションでクラッシュし、レースでもスタート直後にクラッシュしてリタイアと酷い週末になりましたが、その後、彼とはいろいろな話をして目標を明確にし、第2戦に臨みました。走り出しはとてもよく、今のウチの状況を考えると、FP1ではほぼ完ぺきな仕事をしてくれました、最終周までは。。。残念ながらFP1の最終ラップの最終コーナーで右リヤタイヤをグラベルに乗せてクルマのコントロールを失い、ウォールにクラッシュしてしまいました。

 結局このクラッシュがFP2、FP3、予選とすべてに影響してしまったので、あのクラッシュがなければ第2戦の週末はもう少しいい流れのままいけて、違った結果になっていたと思います。というのもバーレーンに続いてこのクラッシュがあったため、ニキータは少し自信を失い、かなり守りに入ってしまったからです。もちろん、完走しなければ何も始まりませんから、マージンをとってでも完走することが第一歩ですが、もう少し高いレベルで安定して走れるよう、いい流れを作っていかなければなりません。今の状態では一旦流れが切れると修正するのが難しいです。

 日曜日は、ピットレーンが開く30分ほど前からぽつぽつと雨が降り始めました。国際映像を見ていた方はわかると思いますが、局地的な雨で、ピットレーンではほとんど降っていなかったのに、タンブレロの方ではかなり降っていました。走行開始5分ほど前にはコースの半分ほどは濡れていましたし、所々では水も溜まってきていたのでインターミディエイトタイヤで送り出しました。

 ですが最初のコーナーをいくつか通過したとことろで、アクアプレーニング(タイヤの水はけが悪く、水の膜の上に乗ってしまって路面にタイヤがつかなくなってしまう状況)が起きてコース上に留まることも難しかったので、一度ガレージに戻ってフルウエットに履き替えました。グリッドではふたりとも路面状況にとてもナーバスになっていてフルウエットでスタートしたいと言っていたので、そう決めました。

 特にニキータはフルウエットでも自信を持てなかったようです。この路面状況ではフルウエットがそう長くは保たないことは理解していましたが、今やるべきことはまずレースを完走することなので、とにかくコース上に留まることのできる可能性を優先してフルウエットを履かせました。

 結果的には完走したのでフルウエットでスタートしてよかったのですが、やはりインターが最もコンディションに適したタイヤだったので、ニキータはセーフティカー後のタイムが悪く、30秒ほど後方にいてインターに履き替えていたミックにも追い抜かれてしまいました。それでも彼は自分からインターに変えたいとは言ってこなかったので、やはりまだまだ自信がなかったのですね。レース後にも話しましたが焦らず段階を踏んで、次はもっといい選択をできるように進めていきたいと思います。

 また赤旗前に、ドライタイヤに替えた時は最も柔らかいC4(ソフト)タイヤを履きましたが、やはりタイヤの温まり方が(より硬いC3に比べて)比較的いいのでふたりとも上手くタイムを徐々に上げることができました。しかしニキータが赤旗後にC3(ミディアム)タイヤを履いた時は感触が悪く、タイムロスも大きくなり自信も持てないという悪循環になってしまいました。このようにまだまだ改善しなければいけないことが山ほどありますが、今はとにかく何をやらなければならないのかをしっかりと話しあって、彼が集中すべき事に集中できるような環境を整えている最中です。

 一方でミックは、セーフティカー中にタイヤを温めようとしてクラッシュしました。これについて言うことはありません。本人も自分に対して腹を立てていましたし、そういうこともあります。かつてはロマン(グロージャン)もハンガリーで同じようなことをしましたからね。

 ただやっぱりミックのすごいところは、ミスをした後にすぐ気を取り直して、冷静にしっかりと走れることです。バーレーンではスピンの後の第2スティントをいいペースで走りましたし、今回もインターミディエイトに履き替えた後がそうでした。このピットストップで後方まで沈んだのですぐに青旗を振られてしまい、他車を抜かせる際にラップタイムは落ちてしまいましたけど、その前まではよかったです。

また、ニキータとは反対に赤旗後にC3タイヤを履いた時のタイムがとてもよかったです。同じC3を履いていたアルファロメオとも遜色ないタイムで、前を走っていたC4のセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)にもしっかりとついていくことができました(ベッテルが苦戦していた理由はわかりませんが)。一度ミスをしてもその後崩れないというのは彼の大きな強みです。

 ミックのイモラでの反省点を挙げるならば、慎重になりすぎたFP1のドライビングと、レースでのクラッシュという2点です。もちろんニキータと同様にこの様な改善点もチーム一丸となってサポートしていますし、それに加えてミックの場合はFDA(フェラーリドライバーアカデミー)のジョック・クレアもよくサポートしてくれますので助かっています。

■赤旗前のソフトも、赤旗後のミディアムも「セオリー通りの戦略」

 レース中盤の赤旗後、タイヤ戦略が別れました。ニキータとミックをはじめほとんどのドライバーがC3を履いていましたが、これはウチとしてはセオリー通りの戦略です。C4の方が温まりがよくて最初はタイムが良いかもしれませんが、仮にタイヤが保たなくてもう1回ピットインするはめになる、というのだけは避けたかったのです。セオリー通りにC3タイヤで確実に走りきることができるば最も得ることが多いのです。

 実はレース前のブリーフィングでも、インターミディエイトからドライタイヤに交換する際は、C3を履くと決めていました。ではどうして赤旗の前に一度C4を履いたのかというと、それはウチが新人ドライバーを乗せているからです。ミックは21周目に、ニキータは23周目にそれぞれソフト(C4)に交換しましたが、あの時点で残り周回数は30周以上ありC4では最後まで走りきれるとは思っていません。

 とはいえ先にも書いたように、ウチの最大の目標はとにかくコース上に留まって、最後まで走ることです。ドライバーがそうできるよう最大のチャンスを与えるには、熱の入りやすいC4を履かせることが最善策だったのです。

 昨年のロマンとケビン(マグヌッセン)のような経験のあるドライバーを起用していたら、インターミディエイトでもう少し引っ張ってからC3に履き替えて、最後までいこうとしていたと思います。そうするとタイヤの温まりが悪くても走らざるを得ない状況にはなりますが、今はまだそんな与えなくてもいいプレッシャーをニキータとミックには与えたくないんです。彼らが自信を持って走れるように、できる限りのことをこちらでやらなければいけないので、C4を履いたのも戦略の一環でした。

 ふたりのドライバーには「目の前の1レースのことだけを考えずに、5〜6レースをひと区切りとして、その区切りを終えた時にどれだけの経験を積んでいるかが重要」だと伝えています。ちゃんと5〜6レースの間にいい経験を積み上げていくことが出来れば、次のレベルにいけるはずです。次戦はポルトガル。ここもまたバーレーンやイモラとは違ったチャレンジが待っています。しっかりと週末を通して走ってきたいと思います。