5月22〜23日に開催されたスーパー耐久シリーズ2021 Powered by Hankook第3戦『NAPAC富士SUPER TEC 24時間レース』。スーパー耐久のなかでもシーズンのハイライトとも言えるレースだが、このレースに世界初の水素エンジンでの参戦を果たしたORC ROOKIE Corolla H2 conceptは、国内モータースポーツ界のみならず多くの注目を集めた。実際にドライブしたドライバーたちの声を聞いた。

 世界で初めて水素を燃料とし、日本の自動車業界が培ってきた既存の内燃機関の技術を流用しながら、カーボンニュートラル、そして水素社会の実現に向けた挑戦として、ROOKIE RacingとTOYOTA GAZOO Racingが共同で参戦を実現させたORC ROOKIE Corolla H2 concept。レース前後に行われた記者会見では、ROOKIE Racingの豊田章男オーナー/ドライバー・モリゾウ、そしてGRカンパニーの佐藤恒治プレジデントとドライバーたちが出席した。

 市販のGRヤリスのエンジンを転用し、デンソーのインジェクター技術を活用したORC ROOKIE Corolla H2 conceptのエンジンだが、テールのエキゾーストから出るのはこれまで同様低いレーシーな、直噴らしいサウンド。しかしそこから発するのは匂いもない水蒸気で、カーボンニュートラルというゴールに向けた“第一歩”として、車両のトラブルこそあったものの、慎重に水素エンジンを扱いながら24時間のうち11時間54分を走り、358周=1,634kmを走破した。

 専有走行の段階から、モリゾウ自身も「GRヤリスと同じ感覚で走れていた」というが、ドライバーたちが口を揃えるのは、「言われなければ普通のエンジンと変わらない」ということだ。もちろん水素タンクや、実験段階であることから必要な計測器などをはじめとした重量増や、「今回は熱と耐久性の観点から出力を少し絞っています(GRカンパニー佐藤プレジデント)」ということから、ラップタイムは2分超だ。

■「最初からレースができたのはとんでもないこと」
 しかし開発段階から携わってきた石浦宏明は、「順位だけを見ると、誰かと競っていたわけではないように見えるかもしれませんが、ドライバーの視点からするとコーナーで他のクルマを抜いたり、ブレーキング競争をしたりしていて、今回出場していたクルマのなかでいちばん遅かったわけではありません」と語った。

 ST-5クラスの車両よりはラップタイムは速い状況だったが、それでもやはり通常のガソリンエンジンと、いきなり“戦い”ができたことは大きなことだと石浦は続ける。

「もちろん上のクラスではないのですが、いきなり水素を燃料としたエンジンのクルマで、僕たちは“水素でレースができている”んです。結果では見えないかも知れませんが、抜きつ抜かれつ、ブレーキングでインに飛び込む、良いエンジンサウンドを聞きながらHパターンでシフトをして、自分たちも気持ち良さを感じながら、レーシングな世界を見ながら24時間を戦えたんです。短期間で作り上げ、最初からレースができたということは、とんでもないことだと思います」

 また石浦同様、開発から携わってきた佐々木雅弘は、「公式予選が雨で中止になってしまったことで、しっかりとしたドライでのパフォーマンスはお預けになってしまいました。決勝レースでは、燃費だったりエンジンの状態だったり、温度だったりは、長く走ることで良いところ、悪いところとと問題が見えてきたと思います」と振り返った。

「この課題をどんどんクリアして、今回走れたからこそ見えることがたくさんあったと思うので、今回はゴールしたことでまたスタート位置に立てたと思うので、良い位置までいければと思います」

 また、佐々木はモリゾウの走りについても賞賛を送っている。今回モリゾウは石浦や井口卓人よりも多い57周を走ったが、ラップタイムも悪いものではなく、燃費は6人のドライバーのなかで最も良かったという。モリゾウ自身は「アクセルを踏んでいないから」と言うが、佐々木は「モリゾウ選手はアクセルを踏んでいないと言っていましたが、2分07秒台で走っているので、楽なタイムではないです。僕たちも必死で走って2分07秒台ということもあります」と評した。

「燃費を稼がれて、かつしっかりこういうタイムを出すのがマスタードライバーとしての凄さですし、クルマをしっかり評価し、魅力あるトヨタ車、GRのクルマを作ることができるからこそ、僕たちがこういう仕事をさせていただき、皆さんが将来楽しいクルマに乗れるチャンスができるのではないかと思います」と佐々木。

■今までとはまったく異なる可夢偉の24時間レース
 そして、蒲郡でのテストドライブで水素エンジンをトライし、「モータースポーツで使うべき」と提案したのは小林可夢偉だ。可夢偉はWEC世界耐久選手権でハイブリッドを積んだ車両をドライブしており、その中でもともとハイブリッドが持っていた“エコなイメージ”を打破し、「スポーツにも使える」とイメージづけることに苦心していたことから、水素エンジンに当初からスポーツのイメージをつけたいというのが可夢偉の願いだ。

 デイトナ24時間ウイナー、そしてWECチャンピオンでもある可夢偉も、スーパー耐久は初挑戦。初参加のドライバーが受講するミーティングに参加。レースでもスタートドライバーを務めたほか、合計で61周をドライブした。

 レース後可夢偉は、「僕たちが(海外で)今までやってきた24時間レースは、完走をして結果を出して当たり前のレースでした。でも今回は、“まだ完成していないクルマをどうやってゴールに導くか”ということを考えた24時間レースでした」とこれまでの戦いとはまったく異なるものだったと語った。当然車速もまったく違えば、取り組み方もまったく違うものだ。

「そもそも、24時間レースというものが始まったストーリーとして“24時間クルマを走らせる”ということはすごく大変なことだったということがあるんですよね。そのなかで“生き残って、ゴールさせたものが勝つ”というレースだったと思うんです」

「まさにできたばかりの、まだまだこれからやらなければならないことだらけのクルマを持ってきて、もちろんトラブルはありましたが、どうやってゴールまで持っていくかを考えて、達成できたということは、たくさんの人たちが一生懸命考えた結果だと思うんです。チームがひとつになったからこそできたことで、優勝に匹敵するものだと思います」

 また可夢偉は、初めての水素エンジンでのレースを振り返り、「こういうレースを通じて新しい技術を開発できた。チャレンジでもありますし、夢みたいな話でもある。でもチャレンジしなければ夢は叶えられませんから」と振り返った。

「みんながこうやって一生懸命やって『良かったな』と思ってもらえることが今後もさらにチャレンジの力に繋がると思いますし、観てくれた人たちも、開発してくれたエンジニアを応援してくれれば、もっと開発が進むと思います。そういう意味では、もっといろんな人たちにこのプロジェクトを応援して欲しいと思います」

ORC ROOKIE Corolla H2 concept
NAPAC富士SUPER TEC 24時間レース
ドライバー別周回数/ベストラップ
松井孝允:71周/2'04.096
佐々木雅弘:61周/2'04.059
小林可夢偉:61周/2'04.568
モリゾウ:57周/2'07.451
井口卓人:54周/2'04.521
石浦宏明:54周/2'04.416
※セーフティカーやフルコースイエローの導入タイミングにより周回数が異なる。