2021年F1第5戦モナコGPの決勝。マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)が事実上のポールポジションからスタートとなり、一度もトップの座を譲らずモナコ初勝利を挙げた。2位のカルロス・サインツ(フェラーリ)、3位のランド・ノリス(マクラーレン)もモナコでの初表彰台となったが、レース後にはサインツが悔しさをにじませる一面も。そんなモナコGPレース後半の様子を無線とともに振り返る。

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 アンダーカットを成功させてピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)の前に出るつもりが、セバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)にも抜かれて7番手に後退したルイス・ハミルトン(メルセデス)。そこにさらに追い討ちがかかる。

ピーター・ボニントン:どうやらペレスはきみの前でピットアウトするようだ。残念だ
ハミルトン:ペレスにも前に行かれるのか!

 ハミルトンの6周後、35周目までピットインを引っ張ったセルジオ・ペレス(レッドブル・ホンダ)が、9番グリッドスタートから4番手に上がったのだった。

ヒュー・バード:いいぞチェコ、4番手だ。僕らはセバスチャン・ベッテル、ガスリー、そしてハミルトンも抜いたんだ

 落胆の色濃いハミルトンだったが、ようやくハードタイヤに熱が入り、すぐ前のガスリーを猛追する。ガスリーの担当エンジニア、ピエール・アムランが、少し慌てた口調でこう叫んだ。

アムラン:オーバーテイクボタンを押してくれ。オーバーテイクだ

 この時点で5番手のガスリーは、前のベッテルに4秒前後引き離されていた。逆に背後のハミルトンには1秒以内まで猛追されており、オーバーテイクモードを多用して少しでも差を広げろという指示だったのだろう。

 一方3番手を走るノリスには、再びターン10のトラックリミットについての注意が飛んだ。

ジョゼフ:もうターン10でミスできないぞ。さもないと表彰台がふいになってしまう

「わかってるよ」と思っただろうが、この時のノリスは黙っていた。対照的に担当エンジニアのブラッド・ジョイスに平気で文句を言ったのがランス・ストロール(アストンマーティン)だった。ハードタイヤスタートを選択したストロールは、先行者がピットインする間に、12番手から8番手まで順位を上げていた。

ジョイス:ピットウインドウに入ってるが、予定より遅らせる。オコンとジョビナッツィをオーバーカットできるぞ
ストロール:コーナリング中に話しかけないでくれ!

 ドライビングに集中し続けないとすぐに壁にぶつかってしまうモナコなだけに、ストロールが文句を言いたくなる気持ちもわかる。しかし直線がほとんどないモナコは、無線で話しかけるタイミングが非常に難しい、エンジニア泣かせのコースでもある。

 もうひとり、ハードタイヤでスタートした角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)は、ウイリアムズの2台に前を塞がれて順位を上げることができない。

マティア・スピ二:ペースはすごくいいぞ、ユウキ。そのままプッシュだ

 担当エンジニア、マティア・スピニが懸命に励ます。角田もそれに応えて終盤66周目にはハミルトンに次ぐ総合2番手となる自己ベストを叩き出した。しかし抜けない。72周目、スピニの指示が飛んだ。

スピニ:ハミルトンを使って、ラティフィを抜くんだ

 ハミルトンが周回遅れのラティフィを抜くのに乗じて、いっしょに抜いていけという指示だった。しかしその試みもうまく行かず、角田は16位完走に終わった。

 3台にオーバーカットされ、7位がほぼ確定したハミルトン。残された道は、ファステストでの1ポイント獲得しかなかった。担当エンジニアのボニントンも当然それは考えていたはずだ。しかしハミルトンがせっついても、ボノは慎重な姿勢を崩さなかった。

ハミルトン:どんな計画でいく?
ボノ:今のところは、何もない。もう数周見よう
ハミルトン:待ってくれ。貴重なチャンスを失ったんだ。いまは1ポイントでも欲しい。タイヤがダメになる前にね

 そしてハミルトンは直後の67周目にピットに向かい、中古のソフトに履き替えた。コースアウトした時には、首位フェルスタッペンが4秒ほど後ろにいた。

ボノ:フェルスタッペンがすぐ後ろにいるけど、ファステストはまだ出さなくていい
ハミルトン:え? まだ出さなくていい? 出さないといけない? どっちだ?
ボノ:すぐ出さなくていい

 ボノの指示にもかかわらず、ハミルトンはピットインの2周後にファステストを叩き出した。ソフトタイヤのタレを心配したのだろう。

 レース後半になってもライコネンを抜きあぐね、苦しい戦いの続くリカルド。51周目前後には、こんな指示がエンジニアのトム・スタラードから飛んだ。

スタラード:ダニエル、もうすぐノリスの青旗だ。3番手を争っているから、スムーズに頼む

リカルド:わかった。すぐに譲る。……もう青旗について、言わなくていいよ

 かつて表彰台の真ん中に立ったこともあるモナコで、チームメイトに周回遅れにされる屈辱は想像するにあまりある。

 チェッカー後の無線は、いつもながら悲喜こもごも、ドライバーたちの素の姿が垣間見える一瞬でもある。はしゃぎまくっていたのは、いうまでもなくモナコ初優勝のマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)、そしてモナコ初表彰台のランド・ノリス(マクラーレン)だった。

ジャンピエロ・ランビアーゼ:マックス、きみがモナコウイナーだ
フェルスタッペン:ハハハ、イエス!
クリスチャン・ホーナー:おめでとう! 表彰台にはエイドリアン(ニューウェイ)が行くよ。そしてタイトル争いでも、きみがトップだ。よくやった!

ノリス:モナコだぜ、ベイビー。モナコで表彰台だ!

 対照的に予選からずっとチームメイトに負け続けたリカルドは、言葉自体は前向きだがいかにも元気がなかった。

スタラード:残念だが12位だった。ハードのペースは素晴らしかったが、ミディアムが厳しかった。その原因を究明しないと
リカルド:ああ。次のバクーでは、もっと強くなって戻ってこよう

 リカルド同様、移籍後ずっと精彩を欠いていたベッテルは、開幕5戦目にして初入賞を果たした。

ベッテル:やったぜ。素晴らしいオーバーカットだった。クルマも最高だった

 ノリスを上回る2位表彰台を射止めたカルロス・サインツ(フェラーリ)のコメントは、ほろ苦さを感じさせた。予選Q3でトラフィックに捕まり、さらにチームメイトのクラッシュで赤旗が出ていなければ、ポールポジションは俺が獲っていた、そうすれば勝てていたという思いをチェッカー後も拭えなかった。

リカルド・アダミ:P2だ。モナコ初の表彰台だ
サインツ:ありがとう。でも今週の僕らには、勝てるクルマがあった

 そしてモナコ最大の敗者が、選手権首位から陥落したハミルトンだった。

ボノ:P7だ。厳しいレースだった。残念だ。もっと強くなって、戻ってこよう。そのために今日のレースは徹底的に解剖しないと

“autopsy”という英単語はもともと『解剖』の意味で、そこから『批判的分析』という意味に広がった。それぐらい徹底的な分析な必要だと、ボニントンは今回の敗戦を深刻に受け止めたということだろう。