ホンダ、ヤマハ、カワサキ、スズキといった日本のトップメーカーのマシンを走らせ、各チームの選手がしのぎを削る2021年の全日本ロードレース選手権ST600クラス。そのなかから2021年に登場した新型マシンをピックアップして、ライダーにマシンのインプレッションを取材。

 今回は、ホンダCBR600RRにフォーカスして、日本郵便 Honda Dream TPのライダーとしてST600クラスを走る傍ら、マシンの開発ライダーを務めた小山知良にバイクのポテンシャルや開発について聞いた。

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 2020年8月に、最新の電子制御技術や空力性能技術を採用するなど、総合性能が高められたスーパースポーツモデル『CBR600RR』が発表された。長年熟成されてきたCBR600RRだが、今回はウイングが装備されたほか、パワーユニット(エンジン)、電子制御なども改良されたという。

 ロードレース世界選手権125ccクラス、Moto2クラスやアジアロードレース選手権(ARRC)に参戦した経歴を持ち、全日本ロードではGP125クラス、ST600クラスでチャンピオンを獲得した小山。今回、CBR600RRの開発に携わり、2021年シーズンの全日本ロードST600でこのマシンを駆っている。

 まず、小山は市販車ではなくレース専用で使用されるマシンであるキット車の開発に、2019年4月頃から携わったという。はじめは旧型マシンに乗り開発を行っていたが、夏ごろから最新型マシンも同時に開発していったと以下のように語った。

「(CBR600RRは)アジアロードレース選手権(ARRC)をメインに開発していました。ARRCは全日本ロード以上にホンダとヤマハの差があり、すごく苦しかったので開発したという感じです」

「ARRCはレギュレーションで、スリックタイヤなのでタイヤが重いです。だからエンジンのパワーもすごく変わってきます。全日本ロードは溝付きタイヤなので、そこまで苦しくなく、実際旧型でも勝てているので、戦えるっていうレベルでした。だけど、ARRCの方は全く歯が立たないくらいの感じでした」

「一昨年の4月から開発に携わりましたが、僕が乗り始めたのは、実際はもう少し前です。旧型マシンはARRC用に向けて、エンジンの仕様やマフラーなどのテストはしてました」

 ARRCは新型コロナウイルスの影響で2020年は1戦のみで、2021年はレースが開催できていない。そのため、戦闘力はわかっていないが、マシンの改良はどれほど実感できるのかを小山は以下のように説明する。

「旧型のキット車はスリッパークラッチが入ってなくて、新型のキット車はノーマルでもスリッパークラッチがついています。キット車の状態でテストをすると単純にタイムが2秒くらい違いました」

「(熟成された)旧型マシンは、エンジンもオーバーホールやメンテナンスをして、細かいところまでつき詰めて多少パフォーマンスも良くなってるから、そこまでタイム差はありませんが、それでも今年はコンマ5秒から1秒近くタイム差があります」

「大きくは旧型とは変わっていませんが、逆に言えば旧型は熟成されてできていたんだなと思います。10数年、型落ちの状態でもあれだけ勝てるポテンシャルがありましたし、アップデートを加えた感じです。もともとのベースはしっかりできています」

■最新型CBR600RRの改良個所
 熟成が重ねられた昨年までのマシンと比較しても、タイムが向上している最新のCBR600RR。では、形状の違いやウイングが装備されていることは見た目でも判断できるが、マシン全体にどのような改善がなされたのだろうか。

「僕は設計の段階から携わっていませんが、ウイングは最初からついてました。今までARRCで開発してきた(旧型)マシンをベースに乗り比べていき、エンジンやカウルが2年前の夏頃に出来上がってきました」

「ウイングも何種類かありました。形状が大きいのから小さいもの、上(フィンのようなもの)がついているものやないもの、幅があるものなど、いろいろテストしました」

「大きいものはハンドリングが重すぎて、ブレーキでスタビリティがなくなります。それでハンドリングなどを総合的に見て作りました。カウリングの形状もデザイナーさんが直接サーキットに来て、デザイナーさんは見た目がこういう風がいい、乗ってる方はこうがいいなどお互いにに意見を出しながら結構細かく開発しました」

 また、ウイングは近年では1000ccのバイクでは主流となっているが、600ccマシンにも必要なのかを聞くと小山は「ないよりかはあった方がいいと思います」と話す。

「これより大きいとブレーキでフロントがヘビーになりますが、重く感じないギリギリをうまく探ったので、これくらいだとそこまで重くは感じません。細かいデータロガーやいろんなシステムをつけて走っていたのですが、フルバンク中の舵角や舵角スピードが早くなり、ライダーの体感とデータが一致してきたので、これは有効だという感じです」

「基本的にタンクの中身は旧型とサイズは変えいませんが、形状もデザイナーさんと相談しました。最初のデザインだと角ばっていたので、現場で削りながら調整して、右は旧型、左が新型とか、半分半分で走って、違いをデータで取りながら、結構細かく走っていました」

 エンジンも「上がすごく回ります。1000回転以上は旧型と比べて回るようになっています」といい、電子制御は「1000cc(CBR1000RR)と同じシステムが入っています。現行のCBR1000RR-Rとまったく一緒ではありませんが、ウイリー制御、トラクションコントロール、パワーモード制御、ダウンシフトなど細かくついています」とすべてが改良されたことを語った。

 そんな小山はARRCでは「だいぶ戦えるようにはなってきていると思います。ライバルがあまりにも変わっているので、そこをどう対応できるのかが課題になってきます」とCBR600RR自体の戦闘力が大きく上がったことを明かした。

 キット車の開発を行った小山だが、市販車のCBR600RRも走らせたことがあり、「市販車の方が大きく違いを入れているので体感できると思います。パワーモードにたくさん制御があるので、物足りないかもしれませんが、安全に走れるので楽しいと思います。ウイングもスポーツランドSUGOではピットロードから出ていく時にも体感できます」と一般ユーザーでも、違いが体感できるという。

■全日本ロードST600での戦闘力とセッティング
 小山が参戦している全日本ロードST600クラスでは、今季はホンダ勢がトップを独占している。ARRCではスリックタイヤ、全日本ロードST600クラスでは溝付きタイヤとレギュレーションが違うため、セッティングも大きく変わるようだ。

「(ARRCの)スリックに関してはすごく良いと思います。フロントフォークが15mm長くタイヤの外形がスリックと溝付きが違うので、それに対してのアジャストの範囲がなかったですが、新型は余裕を持っているので変えられると思います」

「(全日本ロードの)溝付きに関しては、今までで足りていたものなので車体のフィーリングやフレームはなにも変わっていませんが、セッティングを煮詰めるのが大変です」と、レースで戦う上での電子制御のセッティングについて切り出した。

「僕はクラッチのコントロールができるので、そこを電子制御で同じようなフィーリングに合わせるのが難しいです。クラッチを使わなくていいからブレーキだけに集中できますが、逆に僕は自分でコントロールしたいところはあります。僕はダウンシフトの制御を細かく煮詰めないとセッティングが合いません」

「若い子たちはコントロールができない人もいるので、そこまで気が付きません。だからメリットしか感じないし、電子制御がついたことで、若い子たちの方が恩恵があると思います」

「自分ができないことをコンピュータがしてくれるので誤魔化して走ることができ、クラッチコントロールができない人はスリッパークラッチを使って走ると劇的にすごいと感じます。だからラップタイムが上がるし、今年はホンダ勢の成績が上がっているのはそれがあると思います」

■全日本ロード参戦ライダーとしての小山
 直接開発に携わった小山は、最新型CBR600RRを「逆に言えばよく作りすぎたなと思います」と評価し、今シーズン、全日本ロードで戦うライダーとしての立場では以下のように語った。

「(全日本ロードで)僕だけ一年先に乗せてもらえたら良かったですが……。ホンダファミリーの成績が上がり、良い物を作れたのでホンダの開発スタッフが喜んでいますが、一気にライバルが増えてしまうので、(レースを戦うライダーとして)僕自体のメリットがないので残念です(笑)」

「開幕戦もてぎではみんなが仕上がっていないから楽なレースでしたが、みんなが仕上がってきたら予想していた通りでした。僕だけが一年先に乗れていたら全戦勝てたと思います(笑)」

 最後には笑いも交えつつ語った小山だが、このコメント通り、どのライダーが乗ってもタイムと成績を上げられるマシンに仕上がったことには間違いない。

 最終戦は9月18〜19日に大分県のオートポリスで開催されるが、ST600クラスはホンダ勢がチャンピオンを獲得する勢いだ。小山もホンダ勢の埜口遥希、荒川晃大に続きランキング3位につけている。この先、どこまでCBR600RRはポテンシャルを発揮していくのだろうか。