2021年F1第15戦ロシアGPのフリー走行1回目が終了した後、パドックでホンダの田辺豊治F1テクニカルディレクターと遭遇した。FIA会見へ向かうその表情は少し硬かったように見えた。それは、この後のフリー走行2回目から、ホンダはマックス・フェルスタッペンのパワーユニットを完全に新品にして走行を開始することになったことと無関係ではなかったのかもしれない。

 第7戦フランスGPに投入した2基目のICEに、第10戦イギリスGPでのクラッシュでクラック(亀裂)が入ったため、レースでは使用不可となったときから、ホンダは後半戦のいずれかのタイミングで4基目を投入しなければならない状況となっていた。問題はそのタイミングだったが、田辺TDは常に「マックスの次のPUを投入する最適なタイミングはいつなのか、状況を見ながら、チームと相談して決めようと思っています」と語っていた。果たして、そのタイミングがロシアGPのフリー走行1回目の後だった。

 なぜロシアGPだったのかについて、田辺TDは次のように説明している。

「いろいろなことを考慮してということです。(ソチ・オートドロームでの)対他競争力であったり、週末の天候であったり……いずれにしても、いつかは通らなくてはいけないということで、どのタイミングがベストなのか。この先、何があるかわからないというのがあるのですが、そういうところも含めいろいろと検討した結果になります。これが決め手とかではなくいろいろ考えた末の決定です」

 つまり、決定に至る要因は複数あったことになる。そのひとつである「対他競争力」というのは、主にメルセデスとの比較だろう。もしポールポジションを獲れる速さがあれば、その座をメルセデスに譲ってまでグリッドペナルティを受ける必要はないが、フリー走行1回目を走ってみて、やはりソチ・オートドロームではメルセデスのほうが有利だという事実が動かなかった。

 もうひとつの「週末の天候」は、おそらく土曜日は雨だが、日曜日はドライになることが予想されたことではないだろうか。もし日曜日も雨だったら、少しでも前方からスタートしたいため、ここでは交換しなかったかもしれない。

 そして、最後はこの後のサーキットを鑑みた結果だろう。次のイスタンブールとその次のサーキット・オブ・ジ・アメリカズはレッドブルが得意としているコース。さらにその次のメキシコとブラジルは標高が高く、ホンダに有利なサーキット。つまり、ロシアGPを逃すと、次のチャンスはブラジルGP後まで引っ張らなければならないため、タイミングを逸する。そう考えると、今回のレッドブル・ホンダの決定は、考えうるベストな選択だったと言えるだろう。