ルイス・ハミルトン(メルセデス)とマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)が前戦イタリアGP決勝レースでクラッシュ、リタイアを喫したのはすでに10日以上前のことだ。しかしふたりはその後、あの事故について多くを語っていない。2021年F1第15戦ロシアGPの木曜定例会見が、その最初の(そしておそらくは最後の?)機会となった。

 まずはハミルトンに対し、司会者は体調についての質問から入った。レッドブルマシンがコクピットの真上に乗り上げ、ヘイローがなければ大怪我を負っていたかもしれない。それほどの大事故だったからだ。

──クラッシュによる影響は?
ハミルトン:幸いなことに、何もなかった。そこは本当にラッキーだったと思っている。モンツァから家に帰って、通常のケアだけで済んだし、すぐにヨガやジムのトレーニングも再開できた。

──改めてあのクラッシュについてどう思うか。
ハミルトン:そのことはもう考えないようにしている。考えてもどうにもならないことだからね。ただ思い出すのは、僕が初めてタイトル争いをした時の緊張感だ。もちろんマックスは認めないだろうけど、プレッシャーはレースごとに強くなっていく。すごい緊張だったし、それに折り合いをつけるのは大変だった。当時の僕はそんなプレッシャーに対して、必ずしもベストの対応はできなかった。予測すべきことだったんだけどね。

 ハミルトンのいう「初めてタイトル争いをした時」というのは、おそらく2007年シーズンを指すのだろう。あの年にF1デビューしたハミルトンは、序盤から世界チャンピオンのフェルナンド・アロンソと互角の速さを見せ、チームメイト同士ながら激烈なタイトル争いを繰り広げた。

 しかしお互いを強く意識しすぎたふたりは、最終戦でキミ・ライコネンに劇的な逆転負けを喫してしまう。ハミルトンにとっては今も悔いの残るデビュー年だったはずだ。そしてあの時の自分と同じ心理状態に、今のフェルスタッペンはいるのではと言いたいようだ。

ハミルトン:とにかくすごいプレッシャーがかかるものだ。トップチームゆえの期待も大きいし、いうまでもなく自分自身の勝ちたいという気持ちも抑えがたい。だから(マックスの態度に対して)共感できるし、理解もできる。もちろんそんな段階を経て、僕らは成長していくわけだけど。

 そして最後にこんなコメントで結んだ。モンツァでのクラッシュを、暗に非難しているということか。

ハミルトン:重要なのは全力でレースを戦い、同時にフェアな戦いに徹することだ。僕らはプロフェッショナルだから、そこは言うまでもないことだけどね。

■フェルスタッペン「今年は勝てるマシンを手に入れたことが嬉しくてしょうがない」

フェルスタッペンは木曜会見の最後に登場した。

──ソチではメルセデスしか勝てていません。その記録を、今年あなたは破ることができると思いますか。
フェルスタッペン:もちろん予想は難しい。でも昨年すでに、僕らは悪くない戦いができていた。そして今季のマシンパッケージは、昨年以上だ。だから期待している。週末は天気が悪そうだから、そこは大きな不確定要素になるだろうけどね。素晴らしい週末になることを信じているよ。

──一方であなたは3グリッド降格ペナルティというハンデを負っています。まずあのペナルティ自体を、どう思いましたか。
フェルスタッペン:空港でその知らせを聞いたんだけど、最初はちょっと驚いた。もちろん僕は違う見解を持っているけど、彼らは彼らの考えであの裁定を下したということだ。前に進んでいくだけだし、僕らにとって理想的な状況じゃないけど、でも世界の終わりというわけじゃない。

──ペナルティを受けたこともあって、ここで4基目のパワーユニットに交換するのではという憶測も出ています。
フェルスタッペン:まずは実際に走ってみて、その結果を見てからだね。今の段階ではわからないことがたくさんあるから、どうするか決まっていない。

 実際には翌日、FP1終了後にパワーユニットを全交換し、決勝レースは後方グリッドからスタートすることが決まった。

──ルイスがタイトル争いを初めて経験するときのプレッシャーについて言及していますが。
フェルスタッペン:もうほとんど眠れないくらい、緊張しまくってるよ。タイトル争いなんて、これ以上まっぴらだと思うくらいにね。

 表情も変えずにそんなジョークをさらりというフェルスタッペンに、隣に座るジョージ・ラッセル(ウイリアムズ)が大受けしていた。

フェルスタッペン:まあ冗談はそれくらいにして、僕が今までと変わらずリラックスしているのは、僕をよく知る人々ならみんなわかっている。今年の僕は、勝てるマシンを手に入れられたことがとにかく嬉しくてしょうがないんだ。タイトルを獲れるかどうかなんてどうでもいい。あくまでその延長線上に過ぎないことだ。最高のマシンで毎週末レースできる。それ以上、何を望むことがあるだろう。ルイスは僕のことを知らない。そして僕は、彼のことを知ろうとは思わない。毎レース、ベストの走りをして、結果を出す。そんな状態を、長く続けられれば最高だね。

 チームメイトバトルを繰り広げ、精神的にも消耗したであろう2007年のハミルトンに比べれば、今季のフェルスタッペンの方がより純粋に1戦1戦の戦いに集中できる。その意味でも「勝てるマシンを手に入れられたことが嬉しくてしょうがない」という言葉に、おそらくウソはないだろう。

 しかし同時に、「タイトルを獲れるかどうかなんてどうでもいい」と言い切ってしまうのには、「本当に?」と突っ込みたくなる。シーズン終盤に向かうにつれ、7度のタイトル獲得を経験してきたハミルトンの存在をますます大きく感じることになるのではないか。