角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)が2021年F1第17戦アメリカGPで、10番手スタートから9位入賞を果たした。ただしその結果自体は、アルファタウリ・ホンダの本来の戦闘力からすれば順当なものだ。一方でレース中の角田は、この数カ月間見てきた姿とはまるで別人の、アグレッシブで自信に満ちたドライビングを披露していた。

 今回の舞台であるCOTA(サーキット・オブ・ジ・アメリカズ)は、F1ルーキーが簡単に攻略できるコースでは決してない。低中速から高速(複合)コーナー、2本のストレートが絶妙に配置され、アップダウンの大きさはスパ・フランコルシャン、鈴鹿サーキットに次ぐ。さらに路面のバンピーさは年々酷さを増し、ブレーキングで簡単にコントロールを乱してしまう。今年はそこに40度近い路面温度と、ときに強く吹く風も加わった。

 角田自身は「初めてのサーキットに苦手意識はない」と言う。今回もコース習熟自体はすぐにできたようで、初日の順位こそ16番手ながら「楽しく走れたし、いいアプローチが見つかった」と言っていた。

 しかし2日目のFP3では、ピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)が一発アタックで8番手タイムを出したのに対し、角田はそこから1秒1落ちの18番手に沈んだ。いままでなら、そのまま予選Q1落ちを喫するところだ。だが今回は11番手でQ2に進み、さらにここでもしぶとく生き残って、予選10番手が確定した。

 FP3の劣勢からタイムを伸ばせたのは、マシンセッティングを大きく変えたことも功を奏した。しかし大きくバランスが変わったクルマをいきなりプッシュするのは簡単なことではない。「そこを角田君は、パフォーマンスを最大限引き出す走りをしていました」と、ホンダの本橋正充チーフエンジニア(CE)は手放しで評価した。

 そしてレースでは、スタート直後にガスリー、バルテリ・ボッタス(メルセデス)を抜き去って、8番手まで順位を上げた。蹴り出しもよかったが、ターン1の位置取りも絶妙だった。「危なっかしさは感じなかったですね。1コーナーへの飛び込みで、しっかり状況が見えていたんだと思います」(本橋CE)。

 スタートで中古ソフトタイヤを履いていたのは、角田とカルロス・サインツJr.(フェラーリ)だけだった。この週末の暑さではソフトが持たないことは確かで、大多数のミディアム勢に比べると大きなハンデキャップだったはずだ。しかしスタートでは逆に、グリップのアドバンテージを充分に活かして順位を上げた。

 その後はボッタス、キミ・ライコネン(アルファロメオ)と接近戦を繰り広げた。ボッタスとの攻防は、前戦トルコGPでのルイス・ハミルトン(メルセデス)とのバトルを彷彿させるものだった。あのときはタイヤを使い過ぎ、それが単独スピンの遠因となった。しかし今回の角田は、とくにライコネンに対してはつけ入る隙を与えず、しっかりタイヤを持たせて戦っていた。

「他にも大きな変化があった」と、本橋CEは言う。これまでの角田はともすれば、担当エンジニアのマッティア・スピニから無線で細かい指示を与えられ、それに従って走っている印象だった。それが今回は「自分の印象をしっかりフィードバックしていました。セッティング変更に対しても、『そこはこうじゃないか』と返していて、彼の意思が感じられる気がしましたね」

 ドライビングの変化についても、本橋CEはこう言及した。

「シーズン序盤はもちろん緊張もありましたが、同時に楽しんで乗っている様子が伝わってきました。それに似た感じが、最近また戻ってきた気がします。乗り方にしても、若干コンサバだったり、迷いがあったりしたのが、スパッと決めるというか、自分自身を持って走っていた印象です」

 角田は前戦トルコGPからシャシーを変更したが、同時に、『慎重にレース週末を組み立てていく』というこれまでのアプローチも変えたようだ。そんな新たな試行錯誤が、ガスリーと遜色ない速さをみせたトルコGPの走りにつながり、さらに本橋CEが言うところの『自分自身を持って走る姿』に結実したということなのだろうか。

※この記事は本誌『オートスポーツ』No.1563(2021年10月29日発売号)からの転載です。