佐藤琢磨は2021年12月上旬のオンライン会見で、2022年シーズンはデイル・コイン・レーシング・ウィズ・リック・ウェア・レーシング(以下『DCR』)からインディカーシリーズにフル参戦すると発表した。「強力なチームと、インディ500のみのスポット参戦についても話し合っていた」と琢磨。希望は年間エントリーだが、それがかなわない可能性もあったということだ。

 DCR入りを決断した理由については、「来季に向けて複数のチームと話をしていましたが、そのなかでデイル(・コイン)のインディ500で勝ちたいという熱意に強く惹かれ、共感しました」と琢磨。

「DCRはロマン・グロージャンとロードコース、ストリートコースで素晴らしい速さを見せていましたし、インディ500での予選スピードには衝撃に近いものがありました」とも話していた。琢磨が2018〜2021年まで4シーズンにわたり所属していたレイホール・レターマン・ラニガン・レーシング(RLL)はここ2シーズンほどロード/ストリートで苦しんでいたが、DCRのロード/ストリートでのパフォーマンスは素晴らしいものだと評価。琢磨は来季開幕前には45歳となるが、“マシンさえ良ければ、まだ充分に最前線で戦える”という自信があり、DCR側も琢磨にはその能力が保たれていると考え、フルシーズンの契約を結んだということだろう。

 DCRはコイン自身がCARTシリーズを走るために1984年に設立され、35年以上も運営されてきているチーム。フル出場をずっと続けてきたわけではないが、活動を途切れさせたことはない。マシンを降りてオーナー業に専念するようになったコインは、多くの若手にインディカー出場のチャンスを与えてきた。古くはポール・トレイシー、近年ならサンティーノ・フェルッチやアレックス・パロウがその代表例だ。

 一方でベテランもうまく活用。チャンプカーで4度王者となった後、F1で戦っていたセバスチャン・ブルデーにアメリカで再度走るチャンスを2011年に提供したり、ジャスティン・ウィルソンを擁してチーム初優勝を達成したりもしている。コインにはインディカーレースに対して並々ならぬ情熱があり、エンジニアリングに造詣の深いドライバーが好み。琢磨はそこにピタリと当てはまる。

 彼らは、1996年チャンピオンのジミー・バッサー(および、そのパートナーのジェイムズ・サリバン)とのジョイントを解消。2021年インディライツで大活躍していたHMDチームと提携し、そのチームで7勝を挙げてランキング2位となったデイビッド・マルーカスをインディカーデビューさせると噂されている。ベテランと若手のコンビによる参戦となるようだ。

 どのコースでも速さを見せるようになってきたDCRは、インディ500優勝も視野に入れられるようになっている。コイン自身もインディ500優勝に対する欲求を隠さなくなった。「優勝したことがある人とそうでない人のあいだには決定的な違いがある」

 インディ500という非常に特殊なレースでは、実力のあるドライバーが毎年安定して速い。エリオ・カストロネベスは2021年、4回目の優勝を46歳で記録した。長い時間をかけてマシンをじっくり仕上げていく点でもインディ500はベテラン向きであり、向き不向きも存在する。ここで速いのは、カストロネベス、スコット・ディクソン、アレクサンダー・ロッシ、シモン・パジェノー、エド・カーペンター、ライアン・ハンター‐レイ、そして琢磨。2022年はここにパロウも加わってくるかもしれないが、ベテラン優勢は間違いない。

 インディ500で速く走れるドライバーがいて、そのなかに勝ち方を知っている者がいる。それが現役で言うと、複数回の優勝を記録しているふたり、カストロネベスと琢磨ということになる。DCRは2017年、結果的にクラッシュとなったが、ブルデーはアタック2周で他を明確に突き放す231mph台をマーク。2020年には、ルーキーのパロウが予選1回目で7番手に入り、琢磨の9番手、グレアム・レイホールの8番手を上回っていた。決勝では、ルーキーのエド・ジョーンズが2017年に3位、2019年には同じくルーキーのサンティーノ・フェルッチが7位でフィニッシュ。DCRのマシンはインディ500の本番におけるスピードも確かなものが備わっていた。

 気になるのは、琢磨とコンビを組むエンジニアが誰になるのかということ。DCRはこれまで何人ものエンジニアを他チームに奪われてきた。クレイグ・ハンプソンはテクニカルディレクターというポジションを用意したアロウ・マクラーレンSPに引き抜かれ、マイケル・キャノンはスコット・ディクソンと組ませるというオファーを出したチップ・ガナッシ・レーシング(CGR)に持っていかれた。パロウを見ていたエリック・カウディンは、長年の付き合いがあるトニー・カナーンの要請を受けてCGRへ。グロージャンと組んでいたオリビエ・ボアッソンは、フランス人コンビでアンドレッティ・オートスポート(AA)へと移籍していった。ブルデー時代からアシスタントエンジニアとして経験を積み、2020年にカウディンを援護、2021年にジョーンズを担当した若いエンジニアが琢磨とコンビを組むことになるのだろうか。

 DCRは10月のバーバーでのテストでマルーカスを走らせた。ここでは、F1経験を持つニコ・ヒュルケンベルグ(アロウ・マクラーレンSP)、ハンター‐レイ(エド・カーペンター・レーシング)、カイル・カークウッドとデブリン・デフランチェスコ(AA)の5人のなかでマルーカスが最速だった。しかも、ハンター‐レイにコンマ3秒先行。2021年のバーバーはグロージャンが優勝を争ったコース。彼らのロード用セッティングは現在もある程度高い戦闘力を保っていると見てよさそうだ。

 2022年は現行シャシー&エンジンでの戦いが引き続き行われる。2021年のいいデータを持っているDCRには好パフォーマンスも期待できそうだ。2月下旬の開幕戦は琢磨が得意とするセントピーターズバーグのストリート。ポールポジションや優勝を争う琢磨の好走を期待できそうだ。

※この記事は本誌『auto sport』No.1567(2021年12月24日発売号)からの転載です。