新型車両へと生まれ変わり、年間4回のポールポジション獲得という速さを見せたSUBARU BRZ R&D SPORTの戴冠で幕を閉じた2021年シーズンのスーパーGT・GT300クラス。最終的には12ポイント差でのタイトル獲得とBRZが圧倒する形となったが、長いシーズンではライバル勢も躍動し、随所で個性が光る戦いを見せた。タイトルを争った各陣営の、浮沈の訳を追ってみよう。

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 2021年のGT300クラスの戦いは、前年王者・リアライズ日産自動車大学校 GT-Rの開幕戦優勝から始まったが、これは“必然の結果”とも言えた。開幕直前の富士公式テストの際には、すでに今季のベースとなる「いいタイヤ」が見つかっていたという。

「56号車は前年にタイトルを獲ることができ、基本的なところはかなり固まっていましたので、それをチューニングするようなコンセプトでオフの開発を進め、比較的早い時期に改良品を投入することができました」

 そう語るのはヨコハマのタイヤ開発を統括する白石貴之氏だ。そのコンセプトは“決勝重視の総合的な追い上げ力”。ヨコハマはこのGT-R向けのタイヤを他車種向けのサイズへと派生させていく開発手法を採った。

 リアライズはウエイトが嵩んでも安定したラップペースを見せ、とくに序盤にピットレーンスイッチを誤操作してポジションを落とした鈴鹿での決勝ラップペースの良さ、そしてサクセスウエイト81kgを積んで表彰台を獲得したSUGOの戦いぶりは特筆に値する。

 チームの米林慎一エンジニアにその秘密を聞くと、「タイヤをうまく使えているだけじゃないですか」と言う。そう言ってしまえば呆気ないが、「うまく使う」ための大きな変化が今季はあった。ヨコハマが指定する車両として、タイヤメーカーテストにレギュラー参加できるようになったのだ。タイヤ開発と同時に、セットアップを試す機会も拡大した。

 この成果が端的に現れたのが第7戦もてぎだ。レース前に行われたタイヤテストで、ロングランをしてもタイムが落ちないタイヤが見つかっていた。テスト時の路気温は高く、寒くなるレース本番なら無交換でもいけるだろう、という目算が立っていたという。

 抜きにくいもてぎではトラックポジションが重要となる。公式練習ではコールドタイヤでアウトラップを想定したシミュレーションもしたが、ウォームアップが厳しく「交換する方がギャンブルだった」と米林氏は振り返る。予選は7番手となり、決勝でタイヤ交換をすれば10番手以下に埋もれてしまう可能性があった。最終的には前半スティント担当の藤波清斗に判断を任せ、無交換作戦を敢行。タイトルを争うSUBARU BRZ R&D SPORTの前に立つことに成功し、3位表彰台を獲得した。

 これにはライバル勢の誰もが驚きの声をあげていたが、当の米林氏も初めての、そして計画どおりに運んだ無交換作戦に「満足です」と胸を張る。

 しかしGT-R陣営としてはBoP(性能調整)のブースト圧制限により、コーナー立ち上がり及びストレートでの速さを封じられたことが響いたシーズンだったとも言える。リアライズも最終戦富士ではQ1落ち。決勝では持ち前の安定感を見せてじりじりとポジションを上げたが、爆発的な速さを見せることはできず、連覇には届かなかった。

■GRスープラのウエイト感度
 序盤戦から高いポテンシャルを見せたのは、今季3台へと増えたGRスープラ勢だった。

 第2戦富士のロングレースでは埼玉トヨペットGB GR Supra GTが終盤までトップを独走。まさかの駆動系トラブルによりレースを失ったものの、こぼれ落ちた勝利を拾ったのはSYNTIUM LMcorsa GR Supra GTだった。

 この時点でGRスープラ2戦目だったSYNTIUM LMcorsaは車両開発の途上。別項にみるようにGT300規定の利を活かし車両のアップデートを重ねてポテンシャルアップを図ったが、車重が1300kgを超えると「急激に遅くなってしまう」(小藤純一エンジニア)とウエイト感度の高さに苦戦した。SUGOではセットアップをまとめて予選3番手を獲得したが、重い状態ではタイヤとのマッチングもピンポイントなものとなり、苦労は続いたという。

 また、ブリヂストンタイヤの安定性を武器に迎えた2年目のシーズン、タイトル争いに期待がかかった埼玉トヨペットも、富士で勝利を逃して以降、中盤戦は失速気味に映った。

 これについて吉田広樹は「ヨコハマさんが全体的に上がってきたから」と中盤戦の勢力図を分析する。

「僕らは開幕戦からずっと“決勝に強いタイヤ”で戦ってきました。最初はそれがうまくいったけど、ヨコハマ勢が上がってくるなかで、自分たちが決勝重視のタイヤで予選にいくとQ1を通れなくなってしまった。レースペースはとてもいいので、僕らも間違っていたわけではないのですが、予選で前に行けなくなってしまったのが夏場だったと思います」

 実際、冒頭でも触れたようにヨコハマ勢の開発はリアライズに追随して他の車種でも進んでいた。

 なかでも夏場に顕著な成績を残したのは、たかのこの湯 GR Supra GTだ。第4戦もてぎ前、6月に行なわれたテストで対策パーツを持ち込み「理にかなった反応」が車両から得られたこと、そしてこのもてぎからタイヤが進化したことで、予選2番手を獲得。続く第3戦鈴鹿でも新コンパウンドを投入し、見事優勝を飾った。

 田中哲也監督は「ウエイト的にも、優勝しなくてはいけないタイミングだった」と振り返る。「ただ、寒い時期にパフォーマンスが発揮できていない。そこは楽観視していませんし、中盤戦にしても他チームが取りこぼしていなかったら、最後までタイトル争いができる位置にはいられなかった」と評価は厳しめだ。実際、冬の寒さのなか行なわれた最終戦では、ライバル2台のGRスープラに匹敵するペースは見せられなかった。

 スーパーGTフル参戦デビューを飾った堤優威も、他2台のGRスープラについて「まずはそこに負けないこと。チームとしては、めちゃめちゃ気にしている存在です」と語っていた。“GRスープラ内順位”は2番手で決着したが、2022年も同車種内での車両・タイヤの開発競争は、見どころのひとつとなりそうだ。

■苦戦したGT3勢
 リアライズと同じくニッサンGT-R勢の中核を担うゲイナー陣営。今季は2台ともダンロップタイヤを装着し、セットアップの分担や情報共有が進むことでさらなる上位進出が期待されていた。

 しかし、前述のBoPの件に加え、「前半戦はタイヤ開発がうまく進んだが、後半は噛み合わず」(福田洋介エンジニア)、最終戦の決勝までタイトル争いに残ることはできなかった。ノーウエイトの最終戦では全車がQ1落ちを喫していることからも、GT-R勢にとって厳しい状況だったことは間違いない。

 ゲイナーに関しては、第2戦富士で2台そろってタイヤトラブルにも見舞われた。数少ないテストではトラブル対策にも追われ、レースには「イチかバチか」というセットアップで臨まざるを得ない状況も多かったという。その結果、歯車がうまく噛み合わず結果が出ないという、リアライズとは対照的な負のスパイラルに陥ってしまった面もある。

 また、タイトル争いの常連であるLEON PYRAMID AMGの黒澤治樹監督も「トータルするとJAF-GT(GT300規定)が強かった一年、という印象ですね」とシーズンを振り返る。

「僕らも大きなミスはしていませんが、『ポイント×3kg』のウエイトルールになってからは、序盤で1回表彰台に立ってしまうと、“再起不能”みたいになってしまう。実際、僕らも表彰台に上がれたのはウエイト0㎏の開幕戦と最終戦だけ。もともと重いGT3車両としては、そこからさらにウエイトを背負うと、どうしてもつらい状況になってしまいます」

 ウエイトに対応するアップデートや開発ができたGT300規定勢と、ホモロゲーションによりアップデートは許されず、基本は“タイヤの進化頼み”となるGT3勢。劣勢の状況のなか、内圧やキャンバー角の設定を攻めれば、タイヤを破壊することにもつながってしまう。そのあたりの難しさも見え隠れした2021シーズンだった。

■ARTA NSX GT3の苦難と収獲
 2021シーズン、最も「タラ・レバ」が多かったのはARTA NSX GT3陣営だろう。開幕戦岡山では、ルーキーの佐藤蓮が順位争いのなかで接触。コンビを組むベテラン・高木真一いわく、「GTでの緒戦と考えれば、あれは『勉強』だった。そのあと、(第2戦)富士ではしっかりと3位を獲ってくれたし」と、ある程度想定内。第5戦SUGOでも2位に入ったことでタイトル戦線には残る形となったが、そのSUGOの決勝で佐藤がペナルティポイントを貯めてしまったことが、第2の誤算につながってしまう。

 第6戦オートポリス、陣営として得意なサーキットでの戦いに期待が膨らんでいたが、公式練習で佐藤がクラッシュ。予選での上位進出を逃したばかりか「決勝セットも追いきれなかった。オートポリスは点数を獲らなければいけないラウンド。誤算でした」(高木)。

 公式練習でのクラッシュは、ペナルティポイント累積により、佐藤がセッション後半1時間の走行を禁じられたことに端を発している。いつもは高木が担当する2種類のタイヤ比較を、セッション前半にしか乗れない佐藤が行なう必要があった。ちょうど2セット目のニュータイヤを履いて出て行ったアウトラップ、「想像以上にタイヤが硬く、作動しなくて、ABSが介入してまっすぐ行ってしまった」(佐藤)のだ。

 ARTA陣営としては、これまで苦手としていたもてぎでの第7戦で「ブレーキングの改善というか、ABSの介入が少なくなり始めて、車両のセットもそれにうまく合わせることができた」(高木)のが今季一番の収穫となった。だが、その甲斐あってタイトルの可能性を残して挑むことができた最終戦では、またしても残念な接触によりレースを失ってしまう結果となった。

■SUGOが転機となったSUBARU BRZ
 新型車両導入によって空力や剛性面が強化され、SUBARU BRZ R&D SPORTのポテンシャルは確実に上がった。その結果、年間4回のPP獲得という圧倒的な速さを見せつけている。

 第2戦では表彰台にも立ったものの、前半戦にリアライズやGRスープラ勢の先行を許していたのは、セットアップやドライビングの“おいしいところ”がピンポイントな、ピーキーな性格のマシンに手を焼いていたからだ。タイヤのピークグリップに頼れる予選では速さを見せても、決勝ではペースを大幅に落としてしまう。さまざまなセットアップを探るなかで、夏場には一度タイヤの仕様が昨年に戻りかけるなど迷走。とくに第4戦もてぎ、第3戦鈴鹿では、「決勝に弱い」というイメージが定着してしまった。

 流れを変えることができたのは、第5戦SUGOだ。直前に行なわれたオートポリスのタイヤメーカーテストで、決勝ペースを維持できるセットアップが見つかっていた。これによりソフト側のタイヤで予選上位に食い込み、決勝ではそのタイヤを最後まで持たせるスタイルが機能し始めた。以降、予選セットと決勝セットが固まり始め、サクセスウエイトが最大となるオートポリスでも表彰台、続くもてぎでシングルフィニッシュと、着々とポイントを重ねていった。シーズン前半戦の“不安”は、完全に払拭できていた。

 もてぎでは4番手走行中の井口卓人がスピンを喫する場面も見られたが、すぐにコースへ復帰し、6位でフィニッシュできたのは幸いだった。

 ノーウエイトの最終戦でもPPを獲得したSUBARU BRZ。じつはこのときは持ち込んだなかでハード側のタイヤという、「いつもとは違う選択」をしていた。ソフト側のタイヤは早期にささくれ症状が起き、決勝では使えないことが公式練習で判明したのだ。

「レース前は、もっとソフトなスペックを持ち込もうとしていたのですが、ダンロップさんの推奨にしたがってハード側に振りました。もし当初の予定で持ち込んでいたら、どちらのスペックも使えなくて万事休す、となるところでした」(山内英輝)

 決勝では後半、山内が混戦のなかへピットアウト。そのままの順位を守れればタイトルは決まる。しかし、背後には1年間タイトルを争ったリアライズと、ARTAが迫ってきていた。チームから無線が飛ぶ。

「山内、プッシュ! プッシュ!」

 チームも状況の説明はしなかったし、山内もそれを聞きたい気持ちを抑え、目の前のマシンを抜くことに集中していた。タイヤ選択はいつもとは違ったが、攻める姿勢は「いつもどおり」。その勢いが通じたか、前を走る2台はトラブル、そしてGT500とラインが交錯して後退し、山内はポジションアップに成功。表彰台をもぎとって、SUBARU陣営にとって悲願だった初タイトルを祝うこととなった。

※この記事は『2021-2022スーパーGT公式ガイドブック総集編(auto sport臨時増刊)』(2021年12月24日発売)内の企画からの転載です。