2021年シーズンのF1は、最終戦アブダビGPでレッドブル・レーシング・ホンダのマックス・フェルスタッペンが自身初のタイトルを獲得して幕を閉じた。開幕戦からルイス・ハミルトン(メルセデス)とのバトルが続き、時には接触もあった熾烈な戦いを制しての戴冠は、F1活動最終年を迎えたホンダにとっても嬉しい結果となった。現場でチームを見守り続けたホンダの山本雅史マネージングディレクターが、2021年シーズンを振り返る。

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──ホンダのラストシーズンはだれにとっても、永遠に記憶に残る素晴らしいシーズンとなりました。まず開幕戦では30年ぶりとなる、ポールポジションを獲得しました。

山本雅史マネージングディレクター(以下、山本MD):そうですね、バーレーンでのプレシーズンテストの状況が良くて、開幕戦には期待値を高く持って臨みました。レースでも力強い走りを披露していたのですが、レース終盤にルイス・ハミルトン(メルセデス)をオーバーテイクした際にトラックリミット違反をしていたということで、順位を入れ替えなければなりませんでした。そこまでプッシュして、かなりタイヤを消耗させたため、その後、再度プッシュしましたが、追い抜くまでに至らなかった。ただ開幕の時点で速さは十分にあることはわかったので、今シーズンは楽しみだなという気持ちで初戦を終えました。

──そして、2戦目でシーズン初勝利を挙げました。

山本MD:2戦目のイモラは、ウエット路面だとかいろいろな状況がありながらもマックスは完璧なレースを披露してシーズン初優勝を挙げました。一方ルイスは自らのミスでコースオフして大きく後退しながらも、直後に赤旗が出たことでマシンを修理し、同一周回に戻って再スタートするという運を味方につけて2位まで這い上がってきました。ルイスには今シーズンで何度かラッキーなことがありましたが、これもそのひとつでした。逆に我々にとっては、不運なことが今シーズンいくつかあり、たとえばアゼルバイジャンGPでは、マックスが独走して優勝間近というところでタイヤがパンクしてリタイアしました。

──そのアゼルバイジャンGPではセルジオ・ペレスがレッドブル・ホンダで初優勝しました。

山本MD:チェコ(ペレスの愛称)は序盤の3レースは苦しんでいましたが、その後、徐々に本領を発揮し、バクーではマックスのリタイアをリカバーして優勝。やはり、メルセデスに対抗するためにはこちらも2台体制で挑まないと太刀打ちできないので、移籍して6戦目という早い段階にチェコが優勝したことは大きな喜びのひとつでした。

──その後も連勝を続け、オーストリアGPまで5連勝しました。

山本MD:そのなかでやはりしびれたのは、フランスGPです。終盤にマックスがルイスに追いついて逆転。チェコもボッタスを逆転してシーズン初の2台そろって表彰台を獲得しました。これはドライバーの頑張りももちろんありますが、ストラテジー含めてチーム力があることを示したレースだったと思います。この勝利で勢いに乗ってその後も2連勝していったという意味では、前半戦のターニングポイントとなった1戦だったと思います。

──しかし、連勝は「5」で止まりました。

山本MD:結果論ですけど、今シーズンが接戦になった理由のひとつはイギリスGPの事故だと思います。シルバーストンでは両チームのマシンの特性の違いと、どのセクターに合わせてセットアップしていくかという違いから、セクター1、セクター2、セクター3で我々とメルセデスで速さが違いました。つまり、どこでタイムを稼ぐかという戦略が違っていた。メルセデスはセクター1が速く、我々はターン9から後のセクター3が速かった。だから、レースでスタート直後からルイスがプッシュしてきたのに対して、マックスとしてはターン9の後は自分のほうが速いということで、なんとかしてターン9までしのいでいたわけです。

 しかし、どちらも譲らず接触してしまって、マックスはコースアウトしてクラッシュ。マシンが大破して、パワーユニットを1基失い、シーズンを通した戦略の変更を余儀なくされました。

──夏休み明け、再び連勝しました。

山本MD:夏休み明け初戦のベルギーGPは雨のなかでの決勝となり、結果的に2〜3周走ってレースが終了してしまい、ファンの方々にとって残念なレースだったと思います。そういったこともあり、次のオランダGPでは天候が安定してくれて、みんな安堵したことと思います。しかも、オランダのファンが素晴らしかった。ホンダF1の7年間のなかで私は6年間関わってきましたが、そのなかでオランダGPは初めて経験するような素晴らしい盛り上がりを見せていました。まるでサッカースタジアムにいるかのようにスタンド全体が歓喜していて、マックスがトップでチェッカーフラッグを受けた直後は、もうサーキットがオレンジ色に染まって感動的でした。ホンダ・コールがすごかったことも私にとっては喜びが倍増した理由になりました。

──その次のイタリアGPではイギリスGPに続いて、またも2台が絡みました。

山本MD:イタリアでは1〜2コーナーでまたも接触し、まさかのリタイアに終わるという悲劇があり、ノーポイント。そんななか、迎えたロシアGPではマックスに4基目のパワーユニットを投入して、最後尾からのスタートとなりましたが、終盤の雨にも恵まれ、2位でフィニッシュ。最高のリカバリーだったと思います。

 次のトルコGPから、ルイスがなぜかやたらと直線が速くなりだして、予選でトップタイムをマークしましたが、ICE交換によって10番手降格し、11番手からスタートしました。トルコGPは鈴鹿で行われる予定だった日本GPと同じ日程ということで、クリスチャン(・ホーナー代表)らレッドブルのメンバーと協議して、特別カラーのホワイトバージョンで戦ったことも強く印象にも残っています。そのマシンに乗ったマックスとチェコのふたりが、マシンと同様、白いレーシングスーツでポディウムまで上がってくれたことが非常にうれしかったです。あのマシンをいつかみなさんに展示できればなと思っています。

──その表彰台に次のアメリカGPでは山本さんが上がりました。

山本MD:そうですね。私にとって人生初の、日本人としてはそんなに経験者がいないF1のポディウムに上がらせていただいたというレッドブルの配慮に対しては、すごく感謝しています。メキシコはやっぱりマックスのスタートに尽きます。スリーワイドになった後、アウトから一気にメルセデス2台を抜き去ったマックス。あの瞬間に勝利を確信しました。次のブラジルGPではルイスの例のストレートスピードに太刀打ちできずに2位で終わりましたが、私の予想ではアメリカ、メキシコ、ブラジルの3戦で2勝1敗でしたし、結果的にアメリカ、メキシコでの連勝によってできた貯金が後半まで効いたのかなと思います。

──その後、カタールGPとサウジアラビアGPでも勝てず、最終戦を前に同点になってしまいました。

山本MD:ホンダF1最終年の最終戦アブダビGPを前に同点となり、正直「追い込まれたな」という気持ちでした。前戦サウジアラビアGPあたりから、かなり緊張し始めていて、いよいよ最終レースで勝つか負けるかだなと。私たちマネージメントサイドでも緊張していたくらいですから、田辺(豊治/ホンダF1テクニカルディレクター)らエンジニアたちは相当ナーバスになっていたと思います。

 そんななか、ホンダの最終年の最終レースを最終ラップに逆転して勝利で締めくくり、チャンピオンをもぎ取るという劇的なファイナルとなりました。これもひとえに7年間応援してくださったファンのみなさんのおかげだと感謝しています。シーズン前に、第2期の16戦15勝みたいな勝率は厳しいと思うけど、ファンのみなさんに「2021年シーズンはよかったよね、やっぱりホンダはすごかったね」と言ってもらえる記憶に残るレースをやりたいと思って、ここまでやってきましたが、その実現に少しは貢献できたのかなと思っています。