TOYOTA GAZOO Racing WRTのチームプリンシパルであるヤリ-マティ・ラトバラは、自身のドライバーとしてのキャリアの終わりを迎えたときにメンタルヘルスコーチの助けを借りたと語った。

 ラトバラは『WRC+ ALL Live』のベックス・ウイリアムズと対談し、彼がかつて夢見たWRC世界ラリー選手権でワールドチャンピオンになるという希望が2020年に薄れた際の“戦い”について説明している。

 2021年にチーム代表としてTOYOTA GAZOO Racing WRTを大成功に導いたフィンランド人は、ドライバーとしてのキャリアを閉じることになる2020年の前年にトヨタのレギュラーシートを喪失。現在のチームメンバーであるセバスチャン・オジエ、エルフィン・エバンス、カッレ・ロバンペラに取って代わられた。
 
 それでもラトバラは、いつの日にかシリーズのトップカテゴリーに復帰するという計画を練っていた。実際に彼はプライベーターとしてその年のラリー・スウェーデンに出場。しかし、トヨタ・ヤリスWRCで臨んだ同ラウンドではメカニカルトラブルによってリタイアとなり、その後の計画はCOVID-19パンデミックによって阻まれることになった。

 このことがラトバラにとってひとつのターニングポイントとなった。当時35歳だった彼は、その時点でレギュラーのシートがなければ事態はますます厳しくなるばかりだと気がついたのだ。

「(トヨタと)2020年シーズンの契約を結べなかったとき、それは本当にとても大きな衝撃を受けた瞬間だった」と彼は認めた。そのときに「(当時の自分が)世界チャンピオンになるつもりがないことに気付いた」

「30歳を過ぎると少しの間ならともかく、(空白の時間が)長くなればなるほど復帰が難しくなる。限界まで挑戦するスピードを失い始めるんだ。(僕の場合は)それが2020年だった」

「トヨタから電話が掛かってきて『チーム代表にならないか』と言われたとき、僕はすでにドライバーとして世界チャンピオンになるのは不可能だと考えていたが、自分自身と戦わなければならなかった。結局、最後の希望は絶たれた」

 メンタルヘルスは以前のラリーではそれほど話題にならなかったものの、最近はよく語られるようになった。ドライバーが自らのスキルを伸ばしたいと考えたとき、彼らはテストに行く。体力をつけようと思えばフィジカルトレーニングをする。では、精神面を鍛える場合はどうか。これについてラトバラは興味深い視点を示した。

■「助けを借りること=弱い」は間違い

「私の場合、精神的な面で誰かの助けを借りることは、基本的に『メンタルが弱い』と言われると感じていたんだ」とラトバラ。

「しかしそれは違う。己が弱いという意味ではないんだ」と彼続けた。

「物がよく見えなれければ眼鏡を掛ける。視力は眼鏡で矯正できるのだから、目が悪いから弱いということにはならないはずだ。(メンタルヘルスも同じように)その領域を矯正して微調整をすることで精神的に強くなり、結果的に自分自身を高めることになるんだ」

「私はキャリアの終わりにメンタルコーチと一緒に仕事をしてきた。そこで理解したのは世界チャンピオンであろかどうかにかかわらず、自分自身が人として変わらないということだ」

「それは私たちが達成したいラリーの中の何かで、スポーツから得たいものだ。私たちはそれが人として自分たちを変えるものだと思っている」

「だが、それはその人のパーソナリティを変えることはしない。ましてや人間として変わるわけでもない」

「もちろん、個人的には非常に特別な何かを手に入れ、世界チャンピオンだから特別だと思うかもしれないが、人の中身は変わらない。その人のままなんだ」

 ラトバラのドライバーからチームプリンシパルへの転向は誰にとっても予想外だったが、結果的にこれ以上ないほどの成功を収めた。彼が指揮したTOYOTA GAZOO Racing WRTは、ラトバラの就任1年目にしてドライバー選手権とコドライバー選手権に加え、マニュファクチャラー選手権でもタイトルを獲得し日本メーカーに1994年以来、27年ぶりとなる“トリプルチャンピオン”をもたらしている。