ホンダF1の山本雅史マネージングディレクターは、2021年シーズンのF1を戦い終え「記憶に残るレースをやりたいと思ってここまでやってきたが、その実現に少しは貢献できたのかなと思っている」と振り返った。レッドブル・レーシング・ホンダのマックス・フェルスタッペンがドライバーズチャンピオンシップを制して初のタイトルを獲得し、2021年をもって活動を終了するホンダF1としてもいい締めくくりとなった。

 山本MDはそのフェルスタッペンを「グレートドライバー」と評価。そしてチームメイトであるセルジオ・ペレスについては、最終戦での走りなどを例に挙げ「最高のパフォーマンスを見せた」と語る。さらにはエースとしてスクーデリア・アルファタウリ・ホンダを率いたピエール・ガスリー、ルーキーの角田裕毅についても、両者に成長が見られたと明かした。

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──チャンピオンを獲得した後、いろいろな方々からたくさんのメッセージが届いたと思います。

山本雅史マネージングディレクター(以下、山本MD):本当にたくさんの方々からお祝いのメッセージをいただきました。ホンダがチャンピオンを獲得したことを祝福するものはもちろんですが、たとえば、「50年間、F1を見てきましたが、今年のF1はいままで最高だった」というのもありました。チャンピオンを獲ったことはもちろんうれしいのですが、ファンのみなさんが喜んでくれたことが本当にうれしい。頑張ってきてよかったなというのが正直な気持ちです。

──開幕前、山本さんは「記憶に残るシーズンにしたい」と語っていましたが、記憶に残りすぎるシーズンだったと思います。いま振り返って、山本さんの記憶には何が一番強く残っていますか。

山本MD:やっぱりそのチームの総合力ですね。1戦ごとにチームの一体感がどんどん強くなっていきました。そのきっかけを作ったのは今年2勝目のモナコGPだったと思います。マックス自身がモナコで初優勝した。やっぱりモナコGPは世界三大レースのひとつだし、ホンダもラストシーズンの年に勝てたというのがうれしく、あそこでチーム全体がまたひとつ強くなっていきました。

 もうひとつは、マックスの地元のオランダじゃないですかね。マックス自身も今シーズン一番印象残ったのはオランダと言ってるし、勝ちっぷりもそうだったし、レッドブル・ホンダとマックスとファンが一体になって、再びチャンピオンシップリーダーに立った。大きなポイントだったと思います。あと、アキュラ仕様で走ったアメリカGPも印象深いレースでした。アメリカ中のホンダ関係者がフィーバーしました。本当にいいポイントで必ずいいレースをしていましたね。

──勝ったレースだけでなく、勝てなかったレースでのフェルスタッペンの踏ん張りも見事でした。

山本MD:そうですね、ぶつけられたり、パンクしてリタイアした以外はハンガリーGPの9位を除いて、すべて2位ですから。ハンガリーGPの9位も、ぶつけられての結果ですしね。

──そして、年間10勝も素晴らしい。

山本MD:ホンダのドライバーとしては歴代トップです。もちろんレース数がかつてとは違うので、単純には比較できないですけど、ホンダのドライバーで単年で2桁いったのは歴代を含めてマックスだけです。本当にすごいドライバーです。

──最終戦のレース後、メルセデスが抗議したり、抗議が却下された後も上訴する構えを見せていました。どのように受け止めていましたか。

山本MD:私は、まず最後のレースなので、セーフティーカーのままレースが終わらないことを祈っていました。やはり最後は1周でも2周でもレースがしたかった。全力で走り抜けてチェッカーを受けさせてあげたい思いがありました。確かにレースはルイス・ハミルトン(メルセデス)の方が優位だったと思いますが、レースというのはチェッカーを受けるまでは何があるかわからないと私は思っていました。

──レースディレクターの判断は正しかった?

山本MD:そうですね、最後にレースをやらせてくれたマイケル・マシの判断はうれしく思っています。レース後、トト(・ウォルフ/メルセデスのチーム代表)がいろいろ言ったり、メルセデスがいろいろ言ってるのですが、レッドブルとマックスにはまったく非がない。したがって、今回のチャンピオンシップは何があろうと変わるわけがないです。もし、変わるとすれば、それはアブダビGPのレースがなかったことになるしかない。さすがにFIAはそんなことを認めるわけがない。したがって、彼らが何を言っても結果は変わらないと確信していました。

──フェルスタッペンというドライバーを、山本さんはどのように評価していますか?

山本MD:ひと言で言うとグレートドライバー。予選でもレースでも、ここ一番の集中力が半端じゃない。そして、ミスをしない。だって22戦のなかで、彼が単独でミスしてのリタイアは、ひとつもない。それにマシントラブルもほとんどない。パワーユニット(PU)のトラブルも彼にはなかった。それは、ただクルマを速く走らせていただけでなく、うまく走らせるという点においてもズバ抜けています。そのうえでクルマが持っているポテンシャルを最大限引き出していました。マシンとかPUと会話ができている。PUの痛いところ、得意なところ、このPUはこういうふうに使ってあげると最大限活かせるんだろうな、みたいな感性のようなものを持っている。いまのF1ドライバーのなかでトップじゃないですかね。

──あと冷静でしたよね。地元オランダであれだけファンが盛り上がっていたら、もう少しはしゃいでもいいのに、とにかくチャンピオンを獲るまでは冷静でしたよね。そういったこともあって、チェッカーフラッグ後の無線は聞いたことがないほどはしゃいでいました。やっぱりプレッシャーがあったんですね。

山本MD:泣いていましたね。プレッシャーがあったんでしょう。サウジアラビアGPの予選Q3での最後のアタックの最終コーナーで左フロントを若干ロックさせたじゃないですか。あんなこと、それまでのマックスはしなかった。あとアブダビGPのQ2ではミディアムタイヤでのアタック後のフロントロック。ああいうところでやっぱり彼もプレッシャーと戦っているのだなと思いました。でも、そんななかでもレースでは冷静にきっちりと結果を出す。すごいドライバーだと思います。

──次に今年加入したセルジオ・ペレスのチームへの貢献度についてうかがいます。最終戦のハミルトンへの防御は、レース後にフェルスタッペンも「本当にありがとう」と言っていましたけど、すごかったですね。

山本MD:20周目のチェコとルイスのバトルは今シーズン最高のパフォーマンスだったと思います。やっぱりテレビとかモニターで見てる人はなかなかわからなかったかもしれませんけど、第3セクターの走らせ方が完璧ですよね。ルイスを再逆転して前に出たチェコは、第3セクターではペースを落としているんですよね。理由はルイスの後ろにいたマックスをより接近させるためです。セクター3はポイントを抑えれば、多少遅く走っても抜かれないことをわかっていたのだと思います。あれでマックスとルイスの差が一気に詰まった。あれはもうチェコにしかできない。ルイスを抑えてマックスを前に近づけさせたという意味で、完璧なパフォーマンスを見せたと思います。

──フェルスタッペンも「チェコとはこの先何年もチームメイトとしてやっていきたい」と言っていました。

山本MD:もちろんそうでしょう。もし、あそこでチェコとルイスのバトルがなかったら、レース終盤のあの状況になったとき、メルセデスだってルイスをピット入れてタイヤ交換したと思います。そういった意味では最終戦、最終ラップでハミルトンが古いハードタイヤで、マックスが比較的新しいソフトタイヤというシチュエーションを作ったのはチェコの貢献度が100%あったと思います。

──アルファタウリ・ホンダのピエール・ガスリーは、今年も表彰台に上がるなど、何度となくいい走りをしていました。

山本MD:ガスリーの今年にかける思いは「今年はホンダの最終年だし、1年頑張るよ」と言っていたように、開幕前から伝わっていました。今シーズン、F1ドライバーとしてひとつ大きくステップを踏み、また一段と強くなったと思います。たとえば、最後のアブダビでも、クルマのセットアップも含めて予選まで角田(裕毅)に負けていたのに、レースでは角田の後ろでゴールしたでしょう。しかも、ファイナルラップのターン10では角田をオーバーテイクしようとしていた。本当に貪欲で強い。将来、チャンピオンシップを獲りにいけるドライバーのひとりだと思います。

──エースとして、角田を含めてチーム全体を牽引していましたね。

山本MD:ルーキーの角田が相棒ということもあって、自分がリードしてこのチームをきちんと牽引していかないといけないという自覚も強かったと思います。いまだから話せるネタで言うと、シーズン序盤は角田の方がガスリーを意識していたんですよね。何かというと、角田は「僕のほうがあのコーナーは速い」とよく私に言っていました。そんなときガスリーは角田がメディアにいろいろと叩かれても、「彼に大きな非はない」とフォローしていた。本当にいい兄貴分でした。それで角田もガスリーを見る目が変わってきたのだと思います。中盤から信頼関係ができていき、ガスリーのことはあまり言わなくなったし、そういった意味では角田も成長してくれました。