YAMAHA FACTORY RACING TEAMの中須賀克行は、2021年シーズン、開催されたすべてのレースで優勝を果たし、JSB1000クラスで10回目のタイトルを獲得した。この結果は、開幕前から、ある程度予想することはできたが、何が起こるのが分からないのがレース。中須賀は、どんな気持ちで今年のレースを戦っていたのだろうか……。

「長い間、全日本ロードレースに参戦していますが、タイトルを獲れなかった翌年は、自分自身をさらに追い込んで挑んでいます。人一倍勝ちたい思いが強いので“なぜ勝つことができなかったのか”を分析し、自分の状態を見直して2021年シーズンに臨みました。ライバル不在と言われていましたが、レースに“絶対”ということはないですから」

 2019年いっぱいでTeam HRC、Team GREENが相次いで撤退。ヨシムラがEWCに主舵を切り、YAMAHA FACTORY RACING TEAMのみがワークス活動を継続。中須賀の2020年シーズンは、開幕戦で転倒し負傷したことが響き、チームメイトの野左根航汰が初タイトルを獲得した。中須賀は、最終戦鈴鹿のレース1でようやく1勝を挙げたものの、レース2は転倒と最後まで思うようにいかずランキング7位に甘んじていた。

 そして2021年シーズンは、野左根がスーパーバイク世界選手権(SBK)に旅立ち、YAMAHA FACTORY RACING TEAMは、中須賀のみの1台体制となっていた。メーカー直系のワークス体制で臨むのは、中須賀だけという状況が“ライバル不在”と言われる所以となっていた。

 開幕戦ツインリンクもてぎこそ、ヨシムラの渡辺一樹がスポット参戦したが、これを退けてダブルウイン。第2戦鈴鹿2&4レースも危なげない走りで順調に連勝記録を伸ばすと、第3戦SUGOを迎える。

 土曜日は不安定な天候となり、ウエットからラインドライとなった予選は2番手。しかしレース1は、濃霧のため中止となり予選結果でハーフポイントが与えられることになった。日曜日のレース2は予定通りに行われ独走で5勝目をマークした。

 7月の鈴鹿ラウンドは、本来、鈴鹿8耐が行われる予定だったが、11月の最終戦と入れかわり、MFJ-GPとして第5戦が行われた。真夏の鈴鹿でスプリントレースが行われるのは異例のこと。すべて新型コロナウイルスが悪いと言えるだろう。

 第5戦鈴鹿は、事前テストはなかったが、鈴鹿8耐に向けたテストが6月にあり、ライバルたちは、ここでスプリント仕様をテスト。鈴鹿8耐への参戦予定のない中須賀は、テストなしのぶっつけでのレースウイークとなっていたが鈴鹿でもダブルウインを飾り、2戦3レースを残してシリーズチャンピオンを決めることになる。

 2021年シーズンで一番印象に残っているレースは? と聞くと、この鈴鹿ラウンドだという。

「鈴鹿からヤマハがロードレース世界選手権に参戦して60周年を記念したカラーリングになり、僕自身がJSB1000クラスで60勝目を挙げて10回目のシリーズチャンピオンを決めることができました。ヤマハ日髙社長も駆けつけてくれましたから一番インパクトがありましたね」

 中須賀にとって、もうひとつのメインジョブとも言えるのが、ヤマハのMotoGPマシンYZR-M1をテストすることだ。藤原儀彦、吉川和多留という歴代の開発ライダーから受け継いだヤマハイズムを継承。ファビオ・クアルタラロのMotoGPチャンピオン獲得の立役者と言っても過言ではない。

「MotoGPは2019年に苦戦してから、みんなで頑張ってきたので2021年はチャンピオンを獲れてホッとしましたね。ただ、最終戦バレンシアを見るとドゥカティの速さは驚異的でした。タイトル防衛のために、やるべきことは分かっていますし、いいマシンに仕上げてレギュラーライダーに渡したいですね」

 MotoGPマシンを乗りこなすには、強靱な肉体が不可欠。世界でも一握りの選ばれたライダーしか乗ることができない。中須賀は、あまり表には出さないが、厳しいトレーニングを欠かさずに続けている。もちろんアスリートなら当然のことでもあるが、40歳を迎え、年齢的な部分で若いときとは違う鍛え方もしなければならないだろう。

「MotoGPのテストをしていて、タイムを求められることもありますが、レギュラーライダーの1秒落ちで走ることは、なかなか難しいこと。それがコンスタントにできるのであれば、今ごろMotoGPに参戦していますよ(笑)。より正確にマシンの状態を判断したいと思っているので、感覚を研ぎ澄ますためにレースを続けている部分もありますね」

 ヤマハの開発ライダーは、45歳定年制と言われており、藤原も吉川も、その年齢で一線を退いている。中須賀も40歳となり、定年まで、あと5年となったが、まだまだ強い中須賀を見ることができそうだ。

「去年よりラップタイムが1秒以上遅いときもあり、それはフラストレーションになりました。ただ、周りも同じようにタイムが落ちていたのでコンディション的な要素が大きかったのかもしれません。レースアベレージも、もちろん速く走ることを目標にしていますが、そこで行きすぎてしまうと元も子もないですから。以前は、勝ち方にもこだわっていましたが、その思いが強すぎて3連覇を逃したこともありました。より確実に勝つためにマージンを取ることも大事なことです。ノントラブルでレースに送り出してくれたチームには感謝しかないですね。全戦優勝という記録を作ることができたのは、チームのおかげです」

「獲れるときに獲るというのが信条。目標を達成できたのは、よかったです。これだけ長くやっていると速く走れる年もあるし、そうではない年もある。来シーズンも最大限のパフォーマンスを発揮できるように、やっていきたいと思っています」

 10回目のタイトル、そして勝利数は63勝という全日本ロードレースでは、とてつもない数字を記録することになった。これを破るライダーが今後現れることは、考えにくい。果たして、この記録は、どこまで伸びていくのだろうか。