インディ500という年に一度の大イベントが先週終えたばかりだというのに、NTTインディカー・シリーズはミシガン州のデトロイトに移り第7戦を迎えた。

 デトロイトは毎年ベルアイルというダウンタウンの外れの島で行われて来たが、来年から1980年代のF1のようにダウンタウンでレースが復活することが決定。今年がベルアイルでの最後の開催となる。

 デイル・コイン・レーシング・ウィズ・リック・ウェア・レーシングの佐藤琢磨は、このベルアイルで過去2回ポールポジションを取り(2014レース2、2017レース2)、2回表彰台に上がっている(2015レース2/2位、2019レース1/3位)。

 勝利こそないものの、今も残るインディカー・シリーズのレースの中ではインディアナポリスに続いて相性が良いと言えるだろう。

 ただインディ500での敗戦記憶が引きずってないかというのも、ひとつの危惧だった。

 琢磨もインディカーで200戦以上も戦うベテランだが、インディ500が一年の中で、そしてレース人生の中でどれだけ大きなレースであるかと思いを致せば、その失望も大きいはずだ。

 だがそんな杞憂をかき消してくれたのがデトロイトの予選だった。金曜日午後、土曜日午前のプラクティスでは11番手と無難な位置だったが、グループ2で組分けされた予選では、1分15秒3911で6番手でQ1通過。その次のQ2でも1分14秒9363で5番手に入り、ファストシックス進出を決めたのだ。

 琢磨のファストシックス進出は、2019年のロードアメリカ以来3年ぶりのこと。しかもチップ・ガナッシ勢、アンドレッティ・オートスポート勢がひとりもファストシックスに進んでいないという波乱だった。

 ファストシックスでは、タイヤをレッドのまま待機して、予選一発勝負に。1分15秒3490をマークして、トップタイムをマークする。ひさびさのポールポジションかと思いきや、最後の最後でペンスキーのジョゼフ・ニューガーデンに逆転されて2番手となった。

 それでもフロントロウからのスタートは、レース結果を期待して良かっただろう。レース当日は朝方に小雨がぱらつき曇り空。スタートは午後だったが、気温も低いままだった。

 ベルアイルでのレースもこれで終わりとあって、セレモニーの類は多かったが、レースは予定通りにグリーンフラッグが振られた。フロントロウアウト側の琢磨は、予選3番手だったシモン・パジェノーに先を越され、さらにエリオ・カストロネベスにも交わされ4番手になった。


 前はメイヤー・シャンクの2台を追っていた琢磨だったが、ペースが上がりきらないうちに、タイヤのグリップが根を上げて無線でタイヤが終わったと伝える。

 ピットボックスはすぐに作戦変更の判断をし、琢磨をすぐにピットに入れて給油とタイヤ交換を済ませてコースに送り出した。


 ピットが素早く判断したのも、後方からブラックタイヤでスタートしたウィル・パワー、スコット・ディクソン、わずか4周目にレッドタイヤからブラックに換えたアレクサンダー・ロッシらのペースが圧倒的だったからだろう。

 琢磨は23番手まで落ちるが、前方のマシンが1度目のピットに入る頃には7番手まで浮上していた。2度目のピットは33周目となったが16番手まで再度落ちる。一見苦しんで走っているようには見えないのだが、ブラックタイヤでも前のマシンをどんどんと追い抜いていく勢いはなかった。

 3度めのピットは残り20周となった50周目。再び7番手の位置からのピットだった。だがペースが上がりきらないのは最後のスティントも同じで、やはり序盤のピットインは流れを大きく変えてしまった。


 フロントロウの隣にいたジョゼフ・ニューガーデンは、レッドタイヤをなんとか18周めまで持たせて、2回のピットインでレースを完結し4位でレースを終えている。もし琢磨もニューガーデンと同じ戦略が取れていたなら、表彰台争いできるとこにいただろう。

 結果、レースは13位でチェッカーを受けた。ピットに戻った琢磨は消沈している。

「まさかフロントロウを取ったのに、こんな結果になるなんて思いもしませんでした。昨年も僕はレッドタイヤを16周目まで持たせて、それで中団から4位まで上がってきたんですよね」

「今日は思っていた以上にレッドが持たなくて、走っていてトップと3秒位ラップ差があったので、あそこで作戦変更することになりました。ブラックでも5〜6周してからだと良いペースで走れていたんですが……」

 予選での快走が光っただけに、決勝での素晴らしいパフォーマンスが期待されたが、それは叶わなかった。

 ベルアイル最後のレースはイエローコーションが出ないという稀なレースとなり、チームのタイヤ戦略が大きく結果を左右する頭脳ゲームのようなレースだった。