6月24日にはポルシェが新型LMDh車両『ポルシェ963』を正式発表。来る7月10日には新型LMH(ル・マン・ハイパーカー)『プジョー9X8』がいよいよレースデビューを飾る。

 さらに6月のル・マン・ウイークには、BMWやアキュラ、キャデラックが続々と新型プロトタイプ車両に関連した発表を行うなど、ここへ来て未来に向けた動きが一気に加速しているスポーツカー界。この記事では、LMH/LMDh車両を開発しているメーカー、その参戦カテゴリー、判明している体制など、2022年6月末時点での情報をまとめる。

 その前に、まずは現在〜未来の、スポーツプロトタイプのトップカテゴリーの規則について、簡単におさらいしておこう。

■LMHとLMDh。その違いは?
 世界を転戦するWEC世界耐久選手権では2021年、それまでの『LMP1』に代わり、『ル・マン・ハイパーカー(LMH)』という新規定が導入された。基本的には、この規定に準じた車両が、WECの最高峰カテゴリー『ハイパーカー』クラスへと参戦できる。

 LMHでは定められた空力性能(L/D値)、出力曲線のなかで各社が比較的自由に車両を設計・開発することができ、フロント車軸に独自のハイブリッドシステムを搭載することも可能となっている(ただし、BoP=性能調整により各車の性能均衡が図られる)。

 一方、北米でスポーツカーレースを統括するIMSAが展開するシリーズ、ウェザーテック・スポーツカー選手権では、現行最高峰規定&クラスの『DPi』が2022年限りで終焉を迎える。この後継規則が2023年から正式採用される『LMDh(ル・マン・デイトナ・ハイブリッド)』だ。また、2023年から最高峰クラスの名称は『GTP』へと変更される。

 LMDhではDPiと同様、定められた4つのLMP2シャシーコンストラクター(リジェ、オレカ、ダラーラ、マルチマチック)から1社のシャシーを選択し、その上に参戦マニュファクチャラーがオリジナルのカウルを被せる、というコンセプトを採用。また、リヤアクスルには共通ハイブリッドシステムの搭載が義務付けられる。他にもギヤボックスなど共通パーツが採用されていることもあり、LMHに比べれば安価に車両開発が可能となっている。

 今後、2024年にかけてこのふたつの規則の車両が続々とデビューを飾ることになるが、大きなポイントはWECをオーガナイズするACOフランス西部自動車クラブおよびFIA国際自動車連盟と、IMSAとの間で“コンバージェンス(収束、収斂)”が果たされ、2023年より2シリーズの間で相互乗り入れが可能となる、という点だ。

 つまり、WECのハイパーカークラスにはLMH車両だけでなくLMDh車両も参戦可能となり、IMSAのGTPクラスにはLMDhだけでなく(一定の条件を満たせば)LMH車両も参戦可能となる。デイトナ24時間やセブリング12時間といったアメリカにおける重要なレースを持つIMSAのトップカテゴリーにも、ル・マン24時間という世界最大の耐久レースを持つWECのトップカテゴリーにも、ひとつの車両で参戦できるというわけだ。

 両シリーズがこのコンバージェンスを果たしたことによって、LMH、LMDhへのマニュファクチャラーの興味はかつてなく高まっており、今後スポーツカーレースには多くの新規車両が参戦を開始し、賑わいを見せることになる。

 以下では、このふたつの規定に現在コミットしているマニュファクチャラーの状況を整理していく。まずは参戦を表明しているマニュファクチャラーを、次の表でご確認いただきたい。

■ル・マン・ハイパーカー(LMH)規定 マニュファクチャラー一覧
マニュファクチャラー車両名ハイブリッド参戦開始WECIMSAトヨタトヨタGR010ハイブリッドあり2021年◯計画なしグリッケンハウスグリッケンハウス007 LMHなし2021年◯△プジョープジョー9X8あり2022年第4戦◯△フェラーリ?あり2023年◯△バイコレス(ヴァンウォール)ヴァンウォール・バンダーベルLMHなし?◯?

■LMDh規定 マニュファクチャラー一覧
マニュファクチャラー車両名ベースシャシー参戦開始WECIMSAポルシェポルシェ963マルチマチック2023年◯◯BMWBMW MハイブリッドV8ダラーラ2023年検討中?◯アキュラアキュラARX-06オレカ2023年言及なし◯キャデラックキャデラック・プロジェクトGTPハイパーカーダラーラ2023年◯◯アルピーヌ?オレカ2024年◯△ランボルギーニ?リジェ2024年◯◯アウディ?マルチマチック計画停止中--

 それでは、ル・マン・ハイパーカー(LMH)規定にコミットしているマニュファクチャラーから見ていこう。

■トヨタ:GR010ハイブリッド投入2シーズン目。BoPも焦点に
 2021年から、WECのハイパーカークラスに2台のLMH『GR010ハイブリッド』を投入しているトヨタGAZOO Racing。その名が示すとおりフロントアクスルにMGU(モーター・ジェネレーター・ユニット)を搭載するハイブリッド車両だ。

 2022年仕様ではタイヤサイズや空力面で若干の変更が施されている。2022年はBoP(性能調整)によって、フロントモーターからのパワー放出が『190km/h以上』へと制限された状態が続いているものの、6月の第3戦ル・マン24時間レースではGR010ハイブリッドとして2連覇を達成。LMH規定をリードする存在となっている。

 一部では2023年に向け、車両を作り直すのでは……という噂も囁かれているが、公式には何の発表もない。また、LMH車両でのIMSAへの参戦可能性について、TGR-E(旧TMG)首脳は「現時点ではない」としている。

■グリッケンハウス:“母国”IMSAへの参戦も希望
 アメリカの少量生産マニュファクチャラー、スクーデリア・キャメロン・グリッケンハウスは、ノンハイブリッドLMH車両の『グリッケンハウス007 LMH』を2021年からWECへと投入している。

 007 LMHは、ピポ・モチュール製V8ツインターボを搭載。ヨースト・レーシングが後方支援を行うなか、マシンの設計を担当したポディウム・アドバンスト・テクノロジーズがチームオペレーションも担っている。

 2022年はWECへのシリーズ参戦は1台のみだが、ル・マン24時間では2台体制に。その2台目としてエントリーした709号車が、トヨタ2台に次ぐ総合3位表彰台に上っている。

 グリッケンハウスは北米でのレースを望んでいるが、IMSAは参戦メーカーに対して北米マーケットでの自動車販売、および最低生産台数に関する規定を設けており、小規模マニュファクチャラーのグリッケンハウスとしては、この生産台数規定がネックとなる可能性がある。

■プジョー:フランス期待のメーカーが衝撃フォルムでカムバック
 ここからは、この先にレースデビューを控える陣営を見ていこう。7月10日に決勝レースが開催されるWEC第4戦、2台体制でシリーズデビューを飾るのが、『リヤウイングレス』という衝撃的なコンセプトで登場する『プジョー9X8』だ。

 パワートレインは排気量2.6リッターのツインターボV6エンジンとフロントに搭載された最大出力200kWの電動MGU、さらにトタルエナジーズの子会社であるサフトグループS.A.が開発した900Vバッテリーによって構成され、システムの合計出力はLMH規定の上限である500kW(約680PS)に制限される。

 当初は2022年シーズン開幕戦からの参戦を目指していたが、最終的には第4戦へとデビューがずれ込むこととなった。そのドライバーには、ロイック・デュバルやジェームス・ロシターといった、日本のレースに馴染みのあるメンバーも含まれている。

 プジョーは以前、LMH車両でのIMSA参戦に興味を示しているが、北米市場では市販車を販売しておらず、参戦する場合はステランティス傘下の別ブランドのバッヂを付けることになる。だが、現時点で具体的な参戦計画が明らかになっているわけではない。

■フェラーリ:まもなくシェイクダウン。まずはWEC参戦に集中
 レースデビューを飾るプジョーと前後して、この7月に初めてのトラックテスト(シェイクダウン)を予定しているのが、フェラーリが開発中の新型LMH車両だ。

 フェラーリはル・マン24時間レース開催中の6月10日、ハイブリッド・パワートレインを積む新型LMH車両のティザー画像を初めて公開した。まもなくとされるイタリア・フィオラノでのシェイクダウンの際には、その全貌が初めて世界に発信されることになるだろう。

 2023年のWEC参戦にコミットしているフェラーリは、そのドライバー陣容などは発表していない。近年、ほぼファクトリーチームと言えるAFコルセを介してLMGTEクラスを中心に戦ってきたフェラーリだが、今季はLMP2クラスにAFコルセからオレカ07・ギブソンをエントリーさせ、プロトタイプへの準備も進めている。

 この車両では先日、GT車両でワークスドライバーを務めているジェームス・カラド、アレッサンドロ・ピエール・グイディ、アレッシオ・ロベラ、ダビデ・リゴンらがテストを行っており、LMHラインアップの有力候補になるものとみられる。

 IMSAへの参戦について具体的なプランはないものの、アントネッロ・コレッタは以前、2024年以降はその可能性があることを示唆している。

■バイコレス(ヴァンウォール):シェイクダンは済ませたが……
 オーストリア籍で、ドイツに拠点を置くバイコレス・レーシングは、LMP1時代にプライベーターとして参戦していた。彼らはかつてのF1コンストラクターである“ヴァンウォール”の名を関したノンハイブリッドLMH車両『ヴァンウォール・バンダーベルLMH』を開発中であり、その姿を2022年3月に公開している。

 この車両は当初、2022年からのWECハイパーカークラスへの参入を目指していたが、シリーズは「選考基準を満たしていなかった」として、年間エントリーを却下していた。

 ギブソンエンジンを積み、トム・ディルマンとエステバン・グエリエリが開発ドライバーを務めるこのプロジェクトは、3月末にドイツ西部の飛行場でシェイクダウンを行った後、サーキットテストに移るものと見られていたが、現在まで情報のアップデートはない。

 これまでの状況を鑑みれば、同チームは2023年のWEC参戦を目指しているものと思われる。

 さて、続いてはLMDh規則へコミットしている陣営の状況をまとめてみよう。

■ポルシェ:最大8台が初年度に両シリーズでデビュー予定
 早くよりLMDh参入を明らかにし、2022年1月に“一番乗り”で車両のシェイクダウンを済ませたのが、ポルシェだった。

 マルチマチックのシャシーをベースとして開発が続けられてきたその車両は、6月24日になって『ポルシェ963』という正式名称が発表された。エンジンは4.6リッターツインターボV8で、これに共通ハイブリッドシステムが組み合わされる。

 ポルシェは2023年、IMSAに2台、WECに2台のワークスカーを投入。これは“ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツ”のオペレーションによるもので、IMSA側ではノースカロライナ州ムーアズビルに、そしてWEC側ではドイツのマンハイムに拠点を置く。

 さらにポルシェは、欧米の両シリーズで最大2台ずつ、計4台のカスタマー車両を供給する考えを明らかにしており、IMSAでは現在キャデラックDPi陣営のJDCミラー・モータースポーツが1台を走らせ、WECではJOTAが運営しレンタカー会社のハーツがスポンサーを務める新チームがカスタマー車両を走らせると発表済みだ。

 ワークスチームのドライバーとしては現在まで、アンドレ・ロッテラーやケビン・エストーレなど、8名が発表されている。

 また、2022年のWEC最終戦バーレーンへのテスト参戦したい意向もほのめかしており、そのデビューは前倒しされる可能性もある。

■BMW:元DTMのエンジンをターボ化して搭載
 BMWのLMDh車両である『BMW M ハイブリッドV8』は、ル・マンウイーク中の6月6日に発表された。

 ベースシャシーはダラーラで、2018年以前のDTMドイツ・ツーリングカー選手権で使用していた『P66』型の4リッターV8をベースにターボ化したエンジンが搭載される。

 BMWは現在のところ、チームRLLを通じたIMSA・GTPへの2台体制での参戦のみをコミットしているが、WEC/ル・マン24時間への参戦も検討しているものとみられる。また、2024年以降はカスタマーへの車両供給も検討中だ。

 カモフラージュ柄のテスト用カラーリングで公開されたBMW MハイブリッドV8は、2023年のIMSA参戦時には公式ファクトリーレーシング・デザインに更新される予定だ。

■アキュラ:2023年のル・マン参戦はなし
 ホンダが北米で展開する“アキュラ”は、ALMSアメリカン・ル・マン・シリーズの時代から、長年にわたって北米シリーズのトップカテゴリーに参戦してきた。現在はDPi規定の2台のアキュラARX-05を送り込んでいるが、これが来季よりLMDh規定の『ARX-06』へと置き換わる。

 車両のティザー画像は、6月3日に発表されているが、スペック等の詳細は明らかになっていない。トラックテストは、7月から8月には開始される予定だ。

 2023年のIMSAではウェイン・テイラー・レーシング(WTR)とメイヤー・シャンク・レーシング(MSR)が、それぞれ1台のARX-06を走らせる予定だ。また、両チームはル・マン24時間への参戦を切望していたが、2023年に関してはこれを断念することを明らかにしている。

■キャデラック:WECへも進出、ル・マン制覇を狙う
 アキュラと同じく、現在IMSA・DPiに参戦しているキャデラックは6月9日、近日中に正式発表予定とされる新型LMDh『キャデラック・プロジェクトGTPハイパーカー』のレンダリング画像を公開した。

 この車両に搭載されるエンジンは5.5リッターV8で、現在のDPiと同じスペックながらも、「まったく新しい」ものが開発されるという。シャシーはBMWと同じく、ダラーラと提携することになる。

 チームとしては、現在もDPiに参戦しているチップ・ガナッシ・レーシングとアクション・エクスプレス・レーシングが選ばれている。

 BMWとアキュラがIMSAのみにコミットしているのに対し、キャデラックはWECへの参戦も明言。ル・マン24時間の総合優勝を目標に定めている。車両はこの夏のシェイクダウンが予定されている。

■アルピーヌ:IMSAでのカスタマー獲得にも積極的
 現在、特例措置を受けLMP1ノンハイブリッド車両『アルピーヌA480』でWECハイパーカークラスに参戦しているアルピーヌは、2024年に向けてLMDh車両を開発中だ。ベースシャシーはアキュラと同じくオレカとなる。

 アルピーヌはWECでのファクトリー活動を予定しているほか、WECおよびIMSAでのカスタマー獲得にも積極的に取り組んでおり、最近ではアンドレッティ・オートスポーツと交渉を進めていることが明らかとなっている。

 現在のところ、マシンのシェイクダウンについての具体的なタイムラインは明らかにされていない。

■ランボルギーニ:ベースはリジェ。両シリーズに参戦へ
 ランボルギーニは2024年、WECとIMSAの両シリーズに、新型LMDh車両を送り込むことを発表している。

 さらに最近になって、そのベースシャシーはリジェとなることを明らかにした。車両のテスト開始は2023年初頭が予定されている。

■アウディ:一時休止発表からまもなく4カ月
 2020年11月末に、LMDh参戦計画を明らかにしたアウディ。その後、車両の開発や協力チームの選定などが進められていたと見られ、ニコ・ミューラーがLMDhドライバー第1号となることが決定するも、2022年3月になってLMDhプログラムを『今後2〜3カ月中断する』と発表した。

 この中断決定は、同社がF1世界選手権への参戦を検討していること、そして同じフォクルスワーゲングループ内でポルシェとランボルギーニがLMDhにコミットしていることなどが、主要な原因と見られている。

 これにより当初予定していた2023年からの参戦は難しくなっているほか、ファクトリーチームとして有力視されていたWRTも、「他の関係者」との交渉を迫られるなど、影響が及んでいる。

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 この他、現在ではマクラーレンもLMDhに興味を示しており、2022年内にその決断が下される予定だという。

 以上、現在参戦を表明しているマニュファクチャラーをまとめるだけでも、このボリュームになってしまった。まさに百花繚乱。スポーツカーの黄金時代は、すぐそこに見えている。