2022年のル・マン24時間レース開催期間中の6月6日に、2023年デビュー予定の新型LMDh車両『BMW M ハイブリッドV8』を正式発表したBMW。彼らは当初より、IMSAウェザーテック・スポーツカー選手権GTPクラスへの参戦を明言していたが、ル・マンのパドックもこのBMWの発表には大いに沸いた。

 当然ながら、今後はル・マン24時間含むWEC世界耐久選手権への参戦もあるのではないか? という噂も、ル・マンで飛び交っていた。そのあたりの現状を含め、後日ミュンヘンのBMWモータースポーツで、アンドレアス・ルース代表に話を聞いた。

 なお、ルース氏は2021年9月までアウディスポーツのワークスチームのプロジェクトマネージャーを務め、LMP1やDTMのワークス活動の総括等、アウディスポーツの幹部として長年勤務していた人物である。

──今年のル・マンではBMWが来季WEC及び、ル・マン24時間レースへ参戦するのではないか、という噂が飛び交っていましたが、実際のところはいかがでしょうか?
アンドレアス・ルース(AR):WECプログラムを始動するということになれば、ACO(フランス西部自動車クラブ。WECおよびル・マンのオーガナイザー)代表のピエール・フィヨンらとさざまざな条件に関して話し合いを重ねる必要があるが、現在BMWとしてはWECに正式に参戦するかどうかは、明言できない。もちろん、いつの日かあの場に再びBMWが姿を現せるならば、そんな喜ばしいことはない。

──現時点での活動予定は、IMSAのみということですね?
AR:そのとおり。2023年からワークス車両2台でIMSAへ参戦することは決定している。

──2024年からはLMDhマシンのカスタマーチームへのデリバリー/レース活動という予定もあるのでしょうか?
AR:それに関しては、まだ白紙の状態だ。もちろん、カスタマーチームがBMWのLMDhマシンを購入して、レース活動をしてくれると嬉しい。現時点でも複数のチームから車両購入に関しての問い合わせは入っている。しかし、まずは2023年のデイトナ(24時間/IMSAのシーズン開幕戦)のスタートグリッドにワークスの2台を無事に並ばせられるように準備に勤しんでいるところだ。

 マシンが実戦でポテンシャルをどれだけ発揮できるのか、どう成長を見せるのか、またいままでのGTプログラムとは異なるチームの動き方など、学ばなければならない点が多いだけに、2023年はワークス活動に集中すべきだとの考えを持っている。また、ワークス車両が安定したら、カスタマーチームへの車両販売やテクニカルサポートプログラム等を展開する可能性も出てくるだろう。

──あなたは今年6月のル・マン24時間レースを訪れていましたね。
AR:そのとおり。2016年に訪れたのが最後だったので、かなり久しぶりだったが、ほとんど何も変わっておらず、あまりギャップは感じなかった。2016年時点でパドックにいた人々もまだ多く活動しており、仲間たちに会えて嬉しかった。2017年からはテレビ観戦をしていたので、実際のル・マンに来るとやはりここにきて良かった、と思えた。今年はいつにもまして観客が多かったように感じた。

──いまのところWECやル・マンに参戦するかどうかは決まっていないとおっしゃっていますが、BMWの代表がル・マンへ直接足を運んだという事は、決して手ぶらではドイツへ戻っていない、と解釈してよいのですか? あなたの前職でのつながりを活かし、WRT等、さまざまなチームと話し合いの場を持ったのでは?(※現在、BMWのLMDhのプロジェクトリーダーを務めるのは、WRTから移籍組のマウリツィオ・レスキュッタ氏である)
AR:前職のアウディではル・マンにも長年参戦していたので、その際に培った業界関係者との多くのコネクションは、LMP1活動が終了した後もずっと継続していた。昨年秋までアウディに勤務していたこともあり、当然ながらそれらの関係者とはル・マンで個別に会っているし、せっかくル・マンまで足を運んでいたのだから、その機会を有効活用しなければならない。

 アウディ時代にLMP1とDTMで最も長くタッグを組んだトム・クリステンセンとは、いまも親密な関係だ。BMWモータースポーツの代表に就いたことを誰よりも喜び、応援してくれている。LMDhプロジェクトでもよき相談相手で、いまもしょっちゅう電話をし合う仲だ。

 私の職場はアウディからBMWへ変わったけれど、レース関係者との関係は全く変わっていない。だが、まだBMWがWEC活動を正式に決定しておらず、カスタマー用のマシンの用意が確定できない状況で、具体的な話はできないが、いくつかのチームと面会の時間を持ったことは否定しない。もしも、WEC参戦が正式に決定したのなら、チームらと具体的に詳細な話し合いの機会を持つつもりだ。

■カスタマーのランニングコストは「LMP2の約2倍」
──今年のル・マンのレースウイークのパドックでは、いま行われているル・マン24時間レースよりも、来年からいよいよ参加台数が増えるLMH(ル・マン・ハイパーカー)/LMDhの話題で持ち切りという印象を受けました。
AR:WECやル・マンにとっても、ビッグイベントになることは間違いないだけに、人々の話題がそちらへ向くのは理解できる。さまざまなメーカーのマシンがWEC・IMSA両シリーズに参戦できるというコンセプトは素晴らしいし、スポーツプロトタイプとして、またエンデュランスレースにとって多くのメーカーが賛同している。メーカーだけでなく、チームやドライバー、ファンも主催者も含めてみんなが新時代を喜び、そしてみんなで盛り上げて行けると思う。

 IMSA/ACOのLMDhへの決断は正しかったと思うし、以前のLMP1等に比べてコスト面では随分と削減できたことは、車両をつくるメーカー側として大きな魅力のひとつだった。それによってフェアでコンペティティブなモータースポーツを期待できる。

──いまコスト面のお話しが出ましたが、もしもBMWがLMDhをカスタマーチームに販売するとなった場合、車両価格や年間のランニングコスト、そしてチーム運営費用は大体どれくらいを想定していますか?
AR:車両価格とパーツに関しては、ACOのレギュレーションに基づいているので、BMWに限らずどのメーカーもほぼ同じような価格になるはずだ。年間のランニングコストに関しては、LMP2の約2倍ほどを想定している。

 いまLMP2クラスに参戦しているチームの経済格差は非常に大きいので、一概にどこかのチームを基準とすることはできないが、平均的に考えるとその程度の金額ではないかと思う。クルマを動かすことに関して、LMP2よりもレースでの人員は増えるし、LMP2よりも高度な知識や経験を持った人員も必要となるので、その分人件費も多く見積もる必要が出るというのも、LMP2よりも運営コスト面で多く必要となるひとつのポイントとなる。

──どのメーカーのLMDhも同じような価格帯となると、販売するメーカー側としては魅力的なパッケージを用意しないといけないということになりますね。
AR:そのために現在、LMDhを開発しているメーカーは、メーカーの特色を活かしたデザインや車両ポテンシャルをベースに、かなりの工夫をしてマシン作りをしている最中だ。基本的にはいまのLMP2と同じような感じになると思う。

 BMWはダラーラのシャシーを使用するが、各メーカーで自由に選べる。従って、カスタマーチームも選択肢が増えるのは良いことだし、現在LMP2ではほぼオレカ一択だが、LMDhではバラエティ豊かになるので、メーカー側もカスタマーチームから選ばれるような魅力的なマシンを作るべく努力するので相乗効果になるのは良い方向だ。

 また、私が推測するには、将来的なLMP2クラスもいまのようなオレカ独占状態ではなく、さまざまなメーカーが参入するのではないかと思う。シャシーメーカーにとってもLMDhだけに顧客を持つのではなく、LMP2チームへ販路を広げる良いチャンスだ。シャシーメーカーも今回のLMDhで個別にACOとさまざまな話し合いを重ねており、今後の可能性を理解し、計画しているだろう。遅かれ早かれ、LMP2にも新時代が訪れるのは間違いない。

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 BMWのWEC/ル・マンへの参戦については、7月末にBMW本社の役員会議にかけられるとの情報がある。また、『M ハイブリッドV8』は6月中旬にイタリアでシェイクダウンを済ませたとの情報もある。今後は8月にテストを行い、その後マシンはアメリカへと移される予定だ。

 インタビュー後編では、LMDhにおける参戦体制の構築や若手育成ドライバーの起用、将来のWECにおけるGTクラスの“GT3化”と、その結果としての“グリッド争奪戦”などについて、ルース氏の考えをお届けする予定だ。