去る6月6日、2023年デビュー予定の新型LMDh車両『BMW M ハイブリッドV8』を正式発表したBMW。彼らはチームRLLと組みワークス車両2台体制でIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権GTPクラスへの参戦を予定している。

 現在噂されているWEC世界耐久選手権への参戦可能性を中心に聞いたインタビュー前編に続き、この後編ではBMWモータースポーツのアンドレアス・ルース代表に、LMDhの参戦体制やドライバー起用、WECのGTクラスの“GT3化”などについて聞く。

──たとえば、ポルシェとペンスキーは、アメリカとドイツにそれぞれ拠点を置いて、IMSAとWECの双方で活動をすることを発表していますが、BMWでは今後もしWECにも参戦することになれば、欧州用にもチームを用意する方向ですか?
アンドレアス・ルース(AR):現時点のBMWではRLLとともにIMSAの活動を優先しているので、そこまでの準備の考えには至っていないが、もしもWECに参戦するとなれば、ロジスティックや費用面も考慮の上、RLLがすべてのレースを賄うべきなのか、それとも欧州にWEC用のチームを構えた方が良いのか、両方の可能性がある。

 もしも2チームでLMDhを回した場合に、長所と短所の両方がある。1チームでIMSAとWECの両方を行えば、その分より多くの経験を積むことができる。一方で車両やチーム人員のアメリカと欧州間の移動が多く、金銭的な負担もかなり大きい。それだけに、効率を考えるとポルシェのように、アメリカと欧州に各1チームを置くのが理想的だと考えるし、現実的だろう。

──LMH/LMDhクラスが来年以降に一気に増えることで、IMSAもWECも、そのフィールドはいまとがらりと変わりますね。
AR:IMSAではBMWは2台のワークスカーを予定しているが、もしもWECやル・マンでも同様に他のメーカーも2台のワークスカー、もしくはワークスサポートで参戦したとしよう。それに加え、カスタマーチームのマシンが複数台並ぶだろう。既存のLMP2も根強い人気に違いないので、台数が極端に減ることは予想しがたい。今後はGTEがGT3へ移行するので、もちろん参戦を希望するチームはGTEの時よりもさらに増えるだろう。

 そう考えるとフィールドが大きくなりすぎるので、LMDhのカスタマーチームはそう多くはならなのではないかと予想する。また、ペイドライバーやジェントルマンドライバーとワークスのバランスも、今後参戦台数が増えると主催者側とメーカー側が一緒に考えていく必要があるだろう。

 GT3もかなり多くのメーカーやチームが世界中で活動をしているだけに、ル・マン24時間レースという特別なレースへ出てみたいと思うチームやメーカーも多く出てくるだろうから、ル・マンへの出場権をつかむのは容易ではないかもしれないし、恐らく争奪戦になるだろう。

 だが、LMDhとGT3にも数多くのメーカーが集うとなると、本当に賑やかになるだろうし、出場する側も観戦する側も誰もが楽しみにしているに違いない。ただ、WEC/ル・マンへの出場枠の数は決まっているだけに、クラスの台数の配分バランスを保つのが非常に重要で、どのように振り分けて行くのかもAOCの采配が気になるところだ。

──いまのお話しにもありましたが、2024年からはGTEに代わり、GT3車両が採用されますね。もしもGT3のカスタマーチームがWEC/ル・マンに参戦することを希望すれば、BMWとしてはサポートをするつもりですか?
AR:BMWの車両が世界中のレースでより多く活躍することを願っているので、ル・マンでもLMDhのみならず数多くのM4 GT3がスタートラインに並んで欲しいと願っている。

 まだ(WECの)GT3の詳細な概要は分かっていないが、いまのGTEアマクラスのようにプロとジェントルマンの組み合わせになるのか、それともプロクラスもあるのか、他のGT3レースのようにワークスサポートが入ってメーカー色が強くなるのか……それらの状況によってもサポートの度合いは違ってくると思う。

 だが、もしル・マンにBMWがLMDhでワークス参戦をしたならば、GT3カテゴリはカスタマーチームという位置付けとなる可能性が高いのではないかと予測する。BMWに限らず、世界中のGT3チームにとっても、新たに活動の場が広がるのだから、こんな素晴らしいことはないね。ACOは素晴らしい決断をしたと思う。

 恐らくFIAのドライバー・カテゴライズでGT3の参戦区分をするだろう。今後それらも徐々にはっきりすると思うので、BMWのカスタマーチームやそのドライバーたちの活動の方向性を決められるだろう。プラチナやゴールドドライバーだけでGT3クラスのドライバーを形成するのではなく、恐らくシルバーカテゴリーのドライバーにもチャンスが与えられて、プロとジェントルマンのミックスになるのではないかと予想している。

■BMWジュニアドライバーをLMDhに抜擢する可能性も
──LMGTEクラスやLMP2クラスにも数多くのジェントルマンドライバーが活躍しています。しかし、たとえば今季のル・マンでは、プラクティスや予選でクラッシュを連発し、その運転スキルと危険性からレースへの出場禁止命令が出されたジェントルマンドライバーがいました。LMDh でもそのようなことが起きる可能性があるかと思います。LMDhのジェントルマンの参戦の可能性についてはいかがお考えですか?
AR:ざっくりと言えば、メーカーがマシンを作り、レースではBoP(性能調整)でポテンシャルを均一化して競う。カテゴリは違うが、LMDhのコンセプトは基本的にGT3と似ている。

 LMDhも、必ずしもトッププロドライバーだけが参戦するカテゴリーではないと考えている。ワークスチームには難しいが、プライベーターが今後LMDhで参戦した場合、ジェントルマンがドライブする可能性も充分考えられるので、開発の際は必ずしもトッププロだけがドライブするわけではないということを考慮すべきなのかもしれない。

 ジェントルマンドライバーの中には、ル・マンへトップカテゴリーのマシンで出てみたいと夢を持っている人もいるだろう。彼らが夢を叶えるために、経済力と基準を満たし、スキルを持ち合わせるのならば、参戦に否定はしないし、むしろ歓迎するチームも今後出てくるのではないだろうか。

──BMWモータースポーツのLMDhの開発プログラムではRMGが開発テストチームでマルコ・ヴィットマンとアウグスト・ファーフスの2名が開発ドライバーを担っていると認識していますが……。
AR:BMWでは特に誰を開発ドライバーという位置づけはしていない。名前は伏せるが開発プログラムでは多くいるワークスドライバーが複数人参加している。契約ドライバーも含めると19名ものワークスドライバーがいるので、ある特定のドライバーだけが開発テストを担うということはしていない。

──ということは、複数名のドライバーがすでにシミュレーターを経験したという事ですか?
AR:そのとおり。複数名のワークスドライバーがシミュレーターを数多くドライブし、そのフィードバックを開発陣が詳細にデータ化している。シミュレーターのためにシートも専用に用意しているし、ハンドリングも可能な限り実車に近い状態で行っている。過去にさまざまなカテゴリをドライブして彼らだけに、その経験値から多くのフィードバックを得ている。

──BMWモータースポーツで育成しているジュニアドライバーは、ニュルブルクリンク耐久シリーズ(NLS)でポールポジションを獲得したり、総合優勝をしたりと、ニュルで鍛えられて大きく成長を遂げましたね。たとえば彼らにもLMDhをドライブするチャンスはあるのでしょうか?
AR:今年のニュル24時間レースでは残念ながら不運だったけれど、彼らのレーシングドライバーとしての成長は目を見張るものがある。もちろん、彼らにもLMDhをドライブする機会を与える可能性は充分に考えられる。

 ただ、LMDhプロジェクト始動1年目にそのチャンスがあるのかは、まだ分からない。M240iから始まり、M4 GT4を経て昨年からはGT3へスイッチし、今年の前半まではニュル耐久シリーズで徹底的に鍛え上げ、平行して今季はGTワールドチャレンジ・ヨーロッパのエンデュランスに参戦し、ニュルからヨーロッパの主要サーキットへとその修行の場を移して、更なる鍛錬に励んでいるところなので、彼らの今後の成長とポテンシャルに期待している。

 17歳前後のまだティーンエイジャーだった彼らを、親元から預かってニュルで共同生活をしながら、いまも毎日育成生活が続いている。長い目で見て育成をしているので、BMWとしては育成ドライバーがトップカテゴリーで世界に通用するドライバーになってくれることを強く望んでいる。