2022年シーズンのF1は新規定によるマシンの導入で勢力図もレース展開も昨年から大きく変更。その世界最高峰のトップバトル、そして日本期待の角田裕毅の2年目の活躍を元F1ドライバーでホンダの若手育成を担当する中野信治氏が独自の視点でレースを振り返ります。第12戦フランスGPは前戦に続き。フェルスタッペンとルクレールがトップを争う展開となりましたが、ルクレールがまさかのクラッシュ。その要因と予選で速さを見せた角田裕毅について、中野氏が解説します。

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 2022年F1第12戦フランスGPでは、フリー走行からフェラーリとレッドブルがトップを奪い合う形になりました。今回のクルマの動きとしてはコーナーはフェラーリ、ストレートはレッドブルが早いというわかりやすい図式で、2チームが毎ラップごとに似たようなタイムを記録していました。予選ポジションも近いことは分かっていたので、今回のキーポイントはレースでのデグラデーション(タイヤの性能劣化)になる感じが見えましたし、決勝を走ってみないとどちらが勝つか予想がつかないなと思っていました。

 今回の予選では、パワーユニット/エレメントの交換でグリッド降格がすでに決まっていたカルロス・サインツ(フェラーリ)がシャルル・ルクレール(フェラーリ)へのサポートに完全に徹していました。先にコースインしてトウ(スリップストリーム)をルクレールに使わせたわけですが、実際のところあのターン9立ち上がりからターン11進入までのトウではそれほどタイムはゲインしていないと思います。

 メルセデスがチーム無線で『あそこで(ルクレールは)コンマ4秒ほど稼いでいる』みたいなことを言っていましたが、さすがにそこまではないと思います(苦笑)。ストレートスピードとしては4.5km/hほど上がっていましたけど、タイムを見るとそこまでは変わっていません。今回の予選のルクレールはマックス・フェルスタッペン(レッドブル)とほぼ互角か、フェルスタッペンの方が少し速いくらいのイメージでした。

 決勝では、ロングラン主体のフリー走行2回目のタイムを見る限りではレッドブルは悪くないように見えました。前回のオーストリアで見られたデグラデーションの問題がどうなるのかが注目になりましたけど、思いの外、レッドブルはロングランのペースも悪くなさそうでした。ダウンフォースも少なめでストレートスピードもレッドブルは速く、タイヤのデグラデーションが良いので、決勝は少しレッドブルに分があるという雰囲気もありました。

 実際、レース序盤は2番手のフェルスタッペンがトップのルクレールを追い回すような展開で、フェラーリよりもペースが速そうに見えました。ただ、ポール・リカールは以外と風や乱気流の影響を受けやすいサーキットで、フェルスタッペンはトップのマシンの後方を走っていたので、どうしてもコースレイアウト的に左のフロントタイヤをいじめてしまいます。ですので、本当は抜けそうで抜けないような戦いを何周も続けたくない状況でした。

 もちろん、後ろに着いてすぐに抜くことができれば問題はないのですが、レース序盤のフェルスタッペンはトップのルクレールを抜けそうで抜けないというのが実際のところでした。フェルスタッペンも途中で少し間隔を開けてタイヤを労ったりしていましたけど、それでもタイヤがオーバーヒート気味になってしまい、ペースが若干落ちてしまいましたね。

 その前にもチームメイトで4番手を走行していたセルジオ・ペレス(レッドブル)のペースが急に落ちていて、前を走行する3番手のルイス・ハミルトン(メルセデス)についていけなくなりました。あのペレスのタイムの落ち方を見て『今回もレッドブルはタイヤがヤバそうだな』と感じてしまいました。そしてその後、フェルスタッペンもルクレールについていけなくなったので、見ている側としては、オーストリアGPと同じパターンが起こっていることを感じましたよね。

 2番手のフェルスタッペンが先にピットストップに入った後も、トップのルクレールはピットタイミングを合わせる素振りもありませんでした。ファーストスティントのミディアムタイヤに関しては、フェラーリに軍配が上がっていましたね。ルクレールはその後もペースを落とすことなく、ピットタイミングを引っ張ることができていました。

 ただ、2番手のフェルスタッペンはタイヤが厳しいとはいえ、アンダーカットを狙って先にピットインして、ハードタイヤの交換した後のペースは良かった。その作戦に関しては、ほぼ成功しているように見えました。ですので、そこから先の展開がどうなるか楽しみにしていたのですが、その矢先、トップのルクレールがターン11(周り込んだ中速の右コーナー)でスピンしてクラッシュするという、まさかのアクシデントが起きました。そして、あのルクレールのリタイアによって、フェラーリとレッドブルの速さが今回も分からずミステリーのまま、終わってしまいました。

 レース前半のクルマの動きを見ていると、今回のフェラーリは決していいというわけではありません。コーナーの進入でもインにつけずにアンダーステアも出ていたので相当厳しそうでしたが、タイヤの内圧の違いなのか、周回を重ねて落ち着いてきてからはフェラーリのペースが安定してきました。

 タイヤの内圧はミニマムの数値が決まっているので、それほど下げることはできないはずですが、クルマのパフォーマンスを一番いいところに持っていくタイミングをレッドブルとズラすようなこともあったのかなと思いました。レースの序盤はレッドブルがすごく良くて、対してフェラーリは厳しくて、前半の途中から安定してきていました。タイヤの内圧にどこまで違いや影響があるかわかりませんが、そう思ってしまうくらいのペース、動きのよいタイミングの違いが前半にありました。

 ターン11でのルクレールのクラッシュは、映像を見ている限りは最初に『これはミスじゃないかな?』と思いましたけど、マシンが止まった直後の無線で『スロットルが……』ということをルクレールが言っていた。前戦でもスロットルトラブル(スロットル/アクセルを離しても減速しきらないトラブル)が起きていたので。『またか?』と思いました。

 ただ、あの場面を見た瞬間の僕の印象としては、ルクレールのミスで単純に少し行き過ぎてしまったか、リヤがアウト側の縁石から先にはみ出してしまったかなと感じましたが、映像のアングルからでは細かい部分まではわかりませんでした。ルクレールがトップを走行中にそんなミスをするわけがないとも思い、スロットルトラブルなのかなと感じましたね。

 ルクレールがクラッシュしたターン11は結構なスピードで入っていくコーナーで、ブレーキングをして一度外側まで行くラインを通って、タイヤが厳しくなってくるとリヤが出てくる(グリップを失って外に滑りやすい)コーナーです。そういった意味では、あのルクレールのスピンの仕方は、あり得るスピンでもありました。

 トラブルかミスか分かりかねましたが、レース後のコメントでルクレールが「ミスだった」と明かにしました。DAZNの中継でも「これはミスですね」と、初見で感じたことを言うべきかなと迷いましたが、もしトラブルの場合はドライバーに失礼ですので、ある程度正確に判明するまで断定的なことは言えません。

 いずれにしても、あの時のルクレールもやはりタイヤのグリップが結構厳しくなってきていたのでしょうね。オーバースピードということもありますが、ポール・リカールは左側のタイヤ、そしてトラクションがかなりキツくてリヤタイヤをいじめやすいサーキットでもあります。

 そのなかでターン11は奥のふたつめのコーナーがアンダーステアになりやすいですが、進入のひとつめのコーナーは高速でブレーキングしながら右にターンインして、さらにもう一度ブレーキングして減速していくコーナーなのですが、フロントが入ってピッチング(上下動)をしながらブレーキングをすると、どうしても荷重移動でクルマの後ろが軽くなりながらステアリングを切っていくことになります。

 リヤが軽くなってきたなかでもマシンをコントロール下に置いていれば大丈夫ですが、ルクレールはほんの少しブレーキングポイントを失敗したのか、予想以上にタイヤの摩耗が進んでいたのか、あのターン11でリヤを滑らせて姿勢が乱れました。リヤが乱れたのかコースの外側にタイヤを落としたのが先かは映像を詳しく見返さないといけませんが、それでスピン状態に陥ってしまいました。僕も実際、ル・マン24時間のポール・リカールでのテストであのようなスピンをするドライバーを結構見ました。

 そのルクレールのリタイア後、トップに立ったフェルスタッペンはオープンエアでタイヤマネジメントができたこともあり、2番手ハミルトンのペースではついていけませんでした。フェルスタッペンにとっては、サインツが(パワーユニット交換で)最後尾スタートだったということにも救われましたね。好調フェラーリのサインツが普通に上位からスタートしていたら結果はどうなっていたか分かりません。サインツの決勝ペースもかなり良かったので、かなりシビアな戦いになったと思います。

 そして、たとえルクレールがクラッシュしていなかったとしても、そのままルクレールが勝てたかどうかは正直分かりません。第2スティントでハードタイヤに履き替えたときのクルマとの相性もありますし、ミディアムタイヤではフェラーリがレッドブルを上回っているように見えましたけど、ハードを履いたときにどうだったか。レッドブルとしては『我々の方が速かった』と言っているようですけど、何とも言えないところです。

 今回もフェラーリとレッドブルのパフォーマンス差がはっきりとはわかりませんでしたが、次戦のハンガロリンク(ハンガリーGP)も少しコース特性的には特殊なので、その次のスパ・フランコルシャン(ベルギーGP)が高速サーキットなので、そこでは純粋なクルマの差が出そうです。

 ハンガリーはストレートが短いですし、コーナーとコーナーの間隔も短い。そのコーナーのRもキツく、回り込んだコーナーが連続するようなサーキットなので、クルマの特性的にはどちらかというフェラーリ向きなのかなという気がします。ただレッドブルも例年ハンガリーで遅くはないですし、フェルスタッペンはむしろ得意なイメージもあります。その走りの部分でフェルスタッペンがどこまでフェラーリに対して戦いを挑めるかという図式になるのかなと思います。

●バトルや接触時の裁定に見えた、一定の基準。予選で速さを見せた角田裕毅のうまい走り


 また、今回のフランスGPでは接触に対して分かりやすい裁定が取られたのも印象的でした。前にいる方にアドバンテージがあり、それに対してコーナーに入っていく際に後ろのドライバーが前のクルマに当たったら後ろが悪いという、シンプルに前のクルマに優先権があるということを接触時の裁定で示していました。

 おそらく前戦のオーストリアGPのターン4での接触に関する裁定でその後、いろいろとあったので話し合いがなされたのだと思います。その結果として、今回のフランスGPではシンプルに前にいたクルマは悪くないという判断や流れになっていたイメージがあります。実際、今回のフランスGPのオープニングラップでの角田裕毅(アルファタウリ)とエステバン・オコン(アルピーヌ)のアクシデントはすぐにオコンに5秒のペナルティが出ました。あの接触はオコンが少し強引に行き過ぎたなという気がします。

 レース終盤のセルジオ・ペレス(レッドブル)とジョージ・ラッセル(メルセデス)のバトルに関しては、ペレスが外側から押さえに入っていたのにラッセルがそのイン側に飛び込んで、この時はノーペナルティとなりました。ラッセル的には無線で『ありえない!』と言っていましたが、ペレス的には『そのままだとぶつかるから仕方ないだろう』という感じでランオフエリアに逃げて順位もそのままに走行してましたが、この時はレーシングインシデントという判断でした。ペレスはもう少しラッセルのスペースを残してブロックしても良かったと思いますし、ラッセルは入る隙間がないところに入っていったのでお互いに原因があった印象です。

【動画】ペレスとラッセルのバトルシーンとお互いの無線

 その後、ラッセルはその裁定に納得がいかずに無線で怒っていてチームがなだめていましたけど、あのあたりは若さですね。感情を乱すと走りも乱れてしまいます。なかなか抜けそうで抜けないとき、ドライバーは本当にストレスが溜まりす。ラッセル的には千載一遇のチャンスに追い抜くことができなかったので、もう二度と追い抜けないというイメージができてしまいます。ですので、できればペナルティを出してもらって自分が前に出るというのがラッセル的には良いストーリーです。そして、それにこだわる理由のひとつに、チームメイトのハミルトンが前を走っていたことがあります。

 あの時のラッセルはもう前を行くハミルトンのことしか見ていないと思いますし、ハミルトンに追い付きたいという一心から、一刻も早くペレスを追い抜きたくての、あの裁定に対する無線だったと思います。チームメイトのハミルトンがアゼルバイジャンGPで限界を超えた走りをして以来、ここ数戦のハミルトンは完全に速さを取り戻してきています。そこからラッセルはハミルトンに勝てておらず、結構プレッシャーが掛かっていると思います。その後、ラッセルはバーチャルセーフティカー(VSC)後のリスタートでペレスを抜いて3位になりましたが、ペレスにとってはVSCのソフトウェアエラーでラッセルに追い抜かれたのは正直に可哀想でしたね。

 最後に角田裕毅に関してですが、予選は本当に素晴らしい走りで、アルファタウリのクルマのいいところを100%引き出して戦っていたと思います。走りを見ていてもクルマが苦手なところは、いなすようにうまく走り、クルマの得意なところを使いながら上手に走っていました。今回はむしろ、母国グランプリでもあるチームメイトのピエール・ガスリーの方が少しオーバードライブをしているように見えましたね。

 アルファタウリには今回アップデートが投入され、ストレートスピードが若干良くなっていました。あとはダニエル・リカルド(マクラーレン)との比較データを見たのですが、高速・中速コーナーでのコーナリングはマクラーレンに引けを取っておらず、そのあたりが若干ですが今回のアルファタウリが良くなった部分なのかなという印象を受けました。ダウンフォースが増えたことに加えてリヤのパーツも変えてきたようで、ポジティブなアップデートだと思います。

 裕毅はスタート直後にオコンと接触してしまい勝負権を失ってしまいましたが、これは切り替えるしかありません。救いとしては予選でいい走りをすることができたので、次戦に向けて自信は掴んでいると思います。レースに関しては自分のミスで落としたわけではないので、そこまで精神的なダメージは大きくないと思います。これからの裕毅は、この後のレースで何ポイントを獲ったという話ではないと思うので、とにかくチャンスが来たらそのチャンスを取りに行くというスタンスで、冷静に戦えるはずです。

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中野信治(なかのしんじ)
1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長として後進の育成に携わり、F1インターネット中継DAZNの解説を担当。
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