2022年シーズンのF1は新規定によるマシンの導入で勢力図もレース展開も昨年から大きく変更。その世界最高峰のトップバトルの詳細、そして日本期待の角田裕毅の2年目の活躍を元F1ドライバーでホンダの若手育成を担当する中野信治氏が独自の視点で振り返ります。今回は夏休み明けのシーズン後半戦の最初の一戦、第14戦ベルギーGPで予選14番手から逆転優勝したマックス・フェルルスタッペンとレッドブルの圧巻のパフォーマンスの背景を考察していきます。

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 夏休み明けの2022年F1第14戦ベルギーGPはマックス・フェルスタッペン(レッドブル)が予選でトップタイムをマークして、パワーユニット関連の交換でペナルティ降格となった14番グリッドからスタートしながら、見事な追い上げて優勝を飾るという圧巻の速さと強さを見せつけたレースになりました。フェルスタッペンは金曜日のフリー走行から好調そうで、1発の予選タイムやロングランのペースを見ていても『この週末はレッドブルだな』ということをすぐに感じ取るができました。

 その速さの理由について、本当のところはチームしかわかっていないと思いますが、見えていた部分として、今回はチームメイトのセルジオ・ペレスとのギャップが大きかったのが目立っていましたよね(予選で0.8秒差)。おそらく、レッドブルのアップデートの影響があるとは思います。これまでの前半戦では、今季からレギュレーションが変更された影響でマシンが跳ねてしまうポーパシングから始まり、車重も重くなりアンダーステア傾向が強くなったマシンでした。

 どのチームも同様だと思いますが、まずはそのポーパシングを改善するというところからチームは作業を続けてきて、ある一定の成果が出てきたところで前半戦が終わった。そして後半戦に向けてどういった方向性、流れでマシンのセットアップを進めていくかというところで、マシンの基本的な問題は解決したので、いよいよ今度はドライバーに合わせてカスタマイズしたクルマ作りにシフトしていくという流れになったのだと思います。

 フェルスタッペンが好むマシンとしては、簡単に言えばよく曲がるクルマ、フロントがすごく(コーナーに)入っていくオーバーステア傾向のクルマです。今回、これだけペレスと大きな差がついた一番の理由としては、このベルギーGPが開催されたスパ・フランコルシャンはセットアップでダウンフォースを少なくする傾向のサーキットであることが挙げられます。

 ダウンフォースが少なくしている分、ブレーキングからターンインに向けてクルマが不安定になるコーナーが結構あり、しかもアップダウンも大きいサーキットなので、下りながらのブレーキングやターンインも多くなるコースです。

 ですので、ダウンフォースが少なく、そしてフロントが入っていくマシンではコントロールが難しくなります。そういったサーキットに来ると、どうしてもフェルスタッペンとペレスはもともとのドライビングスタイルの差という部分がはっきりと出てしまいます。スパはそういった意味でドライビングスタイルやクルマの特性など、いろいろな要素や差がわかりやすく出るサーキットでもあります。

 予選のアタックでも、『バスストップ・シケイン』と呼ばれるターン18〜19のシケインのブレーキングから切り返しで、フェルスタッペンはものすごくスムーズにクリアしていったのが印象的でした。あのシケインは手前の路面からアンジュレーション(凸凹)がすごく強く、ブレーキングからターンインして上って平面になり、そこからまた登っていくみたいなコーナーですので、タイヤを綺麗に路面に設置させるのが難しいコーナーです。さらに、縁石に乗せる角度が悪いと、クルマも跳ねてしまいます。

 フェルスタッペンはそのシケインで流れるようにリヤの軽いクルマを滑らせて抜けていきます。リヤを滑らせているのですけども、自分のコントロールの範囲内でクルマを支配下に置きながら滑らせるテクニックで、これはまさにフェルスタッペンにしかできないような技ですね。

 ダウンフォースやタイヤのグリップに頼って走ってしまうとそのドライビングはできず、あのシケインで綺麗な走行ラインを通ろうとすると、どうしてもクルマを止めすぎてしまったり、コーナリングスピードが若干落ちてしまったりしてしまいます。

 その部分で、クルマの慣性の微妙なところ、グリップが抜けるタイミングでマシンを滑らせながらコントロールして、その滑っている時間と距離とクルマの挙動を予測しながら走ることのできる技というのは本当に今のF1でも数人しかできないと思います。そのなかでもやはり、その技が抜群にうまいドライバーがフェルスタッペンであることは間違いありません。そういった意味で、フェルスタッペンの良さが出まくっていた(笑)レースでした。

 一方で、フェラーリはそのシケインで苦戦しているように見えました。シャルル・ルクレールも予選のアタックでは明らかにクルマを縁石に乗せる角度や量を間違っていて、ドライバーというのはそういったときにクルマからよくない反応があると、実際以上にクルマのバランスを悪く思い込んでしまう傾向があります。今回のフェラーリとルクレールに関しては、実際のクルマのセットアップもあまり決まっていませんでしたが、それに加え、どうしてもレッドブルに追いつけない、ペースの差がありすぎるという焦りから来ている部分もタイム差への影響が大きいのかなと感じました。

 今回のフェラーリに関しては、タイヤのデグラデーションにおいても、前半戦で悩んでいたデグラデーションの早さの問題がスパでまた発生してしまいました。今回はレッドブルとフェラーリでストレートスピードの差はそれほど大きくなかったので、レッドブルがダウンフォースを付けているか、フェラーリがダウンフォースを減らしてきているかのどちらかが考えられます。

 そのどちらだとしても、これまでの前半戦ではレッドブルはダウンフォースを少なめにして速く走るクルマで、対してフェラーリはダウンフォースをつけてコーナーリングでタイムを稼ぐクルマでした。スパは直線が長く全開率も高くてストレートスピードで稼ぐ部分が非常に大きいサーキットなので、今回はその対抗としてストレートスピードで負けないようにフェラーリがダウンフォースを“減らさざるを得ない”という状況になっていたのだと思います。

●マシンのパフォーマンス以上に苦しんだフェラーリとルクレール。予選はキツいがレースで強いメルセデスと、あと一歩の角田裕毅


 それでダウンフォースが少ない状態でクルマのセットアップをなんとか合わせていこうとしたけれども、結局はそのスパ向けのローダウンフォース仕様にセットアップを合わせ込めず、ダウンフォースが少ない分クルマとタイヤを路面に抑え込めないので、タイヤのパフォーマンスを引き出せずにデグラデーションが大きくなったのだと考えられます。

 レッドブルと比較すると、今回のフェラーリはポーパシングが結構大きかったのが見て取れました。そのあたりからも、あれだけクルマが上下に動いてしまうということはダウンフォースが安定しないだけでなく、車高やサスペンションも含めてクルマの制御がうまくいってないということでもあります。クルマの足回り(サスペンション)を硬くした動きで、かつダウンフォースも少なめとなれば、フェラーリのこれまでの良さが失われて、もっとも弱い部分のスイートスポットに入ってしまった感じでした。

 後半戦に向けてクルマを合わせ込んでいくなかで、ここまでアップデートを繰り返してきた結果としてはレッドブルに分があったということは今回、明かになりました。もともとのクルマの素性が、全開率の高くストレートが長いサーキットが有利だったレッドブルのマシンが合っているということもあると思いますが、今回はその差がさらに広がってしまいました。今回はフェラーリの良いところが打ち消されてしまって、前半戦で差があった部分、ともと持っていたフェラーリの弱点がまったくアップデートでカバーできてないということが明らかになった感じでした。

 また、メルセデスも、もともとダウンフォースをつけ気味で走らないとグリップが得られずにタイムが出ない印象のクルマです。パワーユニット(PU)の弱い部分を、空力で稼ぐことのできないマシンだと思うので、スパでは予選一発のタイム出しが相当厳しいと思っていました。

 そういった意味では同じメルセデスPUを搭載するウイリアムズはストレートが速いので、ドラッグが少なくてダウンフォースもかなり減らした状態で走行しています。それはクルマのもともとの素性の差です。ウイリアムズほどリヤウイングを寝かせるとそれなりのスピードでタイムも稼げます。そういった意味では、メルセデスはこういった高速サーキットにはクルマのフィロソフィーからしてまったく合っていません。昨年までなら強力なメルセデスPUでその面をカバーできていたのが、今年はそれができなくなっているということも今回のスパで顕著に出ました。

 そのウイリアムズでは、今回はアレクサンダー・アルボンがフリー走行からかなりいい走りを見せていました。予選でも、アルボンの走りは本当に見ている側がヒヤヒヤするくらい攻めていましたね。本当に限界を超えるか超えないかという綱渡りのところでずっとマシンをコントロールしながら走っていました。あの走りは本当にすごいことで、アルボン自身がローダウンフォースのマシンが好きなのかは分かりませんが、『アルボンってこんなにすごいドライバーだったけ?』と思わせるくらい、すごくキレのある走りをしていました。あの走りを見ると、またトップチームのマシンに乗ったところを見て見たいなと思います。

 決勝ではスタート後のターン5でルイス・ハミルトン(メルセデス)とフェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)が接触する場面もありましたが、あの接触は明らかにハミルトンのミスです。ターン5はコーナーの特性上、2台横並びでは入っていけないコーナーで、ハミルトンはアロンソの左フロントが自分の右リヤの位置にあったことは分かっていたはずです。そこで譲ろうとするとアウト側に出るしかなく、すごく際どいライン取りでした。あれはハミルトンの判断ミスでレース後に本人も認めていましたが、あの場面ではアロンソは完全に何もできなかったです。

 ハミルトン的には、スタートしてからレースが落ち着いてしまうとストレートで追い抜けないということが分かっているので、やはりスタート直後のオープニングラップ、1周目でひとつでも順位を上げたいという気持ちの方が勝ってしまい、若干冷静さを欠いた動きをしてしまいました。それはやはりストレートが遅いというマシン特性からくるプレッシャーみたいなものもあったと思います。

 その一方で、やはりレースでのメルセデスは強いなとも感じました。ジョージ・ラッセルが3位になれるかなれないかみたい争いをしていました(最終的には4位フィニッシュ)けど、あのレースペースは一体何なのでしょう。予選では厳しいですが、レースになるとトップグループと変わらないペースで走れてしまうので、そう考えるとアロンソとの接触でリタイアとなってしまったハミルトンのレースも見てみたかったですね。

 接触がなければ、ハミルトンもラッセルと同じくらいのペースで走ることはできると思うので、もしかしたら表彰台争いができていたかもしれません。ラッセルもレース終盤はもう少しで3位に追いつけるか追いつけないかというところまで来ていました。メルセデスはハードタイヤにマシンが合っているという面もあるとは思いますけど、レースでの強さというのはクルマの特性にピタッと合うサーキットに行けば、もう1度トップグループ争いに戻ってくる可能性は大いにあるように見ていて思いました。

 そしてアルファタウリと角田裕毅についてですが、マシンのアップデート効果が出てくるのはこのベルギーGPかなと思っていたので、パフォーマンスには期待していたのですが……。ただ、決してすごく悪いわけではないです。普通に戦えていればポイント圏内で戦えるポテンシャルはあると思うので、もうひとつ何かを見つけることができれば、アルファタウリが中段グループのトップグループに返り咲くことも不可能ではないのかなという風に思います。

 裕毅は予選で最終シケインのブレーキングミスさえなければガスリーとそこまで変わらないタイムだったと思います。ターン1では0.3〜0.4秒くらい裕毅がタイムを失っていましたけど、他のコーナーや最後のセクター3では裕毅が盛り返してガスリーに対し0.1秒くらい失っていただけなので、実際にはそこまでタイム差はありませんでした。

 そういったことを考えるとピエール・ガスリーも9位でフィニッシュしていますし、決勝の裕毅もガスリーと変わらないペースで走ることができていました。裕毅はうまく流れさえ作ることができればポイント争いのなかで戦えると思うので、そこまで悪いとは感じません。ポテンシャル的にはやはりアップデートした分の取り分はあるなと僕は感じました。

 今回のベルギーGPではHRC/ホンダ製のパワーユニットを搭載するレッドブル、そのマシンのステアリングを握るフェルスタッペンが活躍してくれるのは日本のファンのみなさまにとって嬉しいことだと思いますが、やはり、フェラーリとメルセデスもトップ争いに絡んできてくれないと全体としては盛り上がれません。今回はフェルスタッペンが14番手から追い上げる側だったので見どころも多かったですが、ポールポジションからのスタートだったらフェルスタッペンが勝つことが予想できて拍子抜けしてしまいます。

 次戦のオランダGPはサーキット特性がまた変わり、どちらかといえばメルセデスとフェラーリのマシンに合っているサーキットだと思います。そういった意味ではまたレッドブルとの差は縮まると思いますし、場合によっては逆転するかもしれません。今後のレースのサーキット特性などを見ていくと、圧倒的にレッドブルが有利なサーキットもありますけど、逆にそうではないサーキットも多くあります。ですので今年のF1、そしてチャンピオン争いもまだまだいろいろな戦いを見ることができるなと期待しています。


中野信治(なかのしんじ)
1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長として後進の育成に携わり、F1インターネット中継DAZNの解説を担当。
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