いよいよ3年ぶりとなるWEC富士が今週末に開催される。9月9日から11日にかけて行われるWEC世界耐久選手権の日本ラウンド『富士6時間耐久レース』。日本初上陸となるハイパーカーをその目に焼き付ける唯一にして絶好の機会の到来、そして3年ぶりの今回のWEC富士についてご存知、J SPORTSの解説者でもあり、ミスター・ル・マン解説者(!?)の高橋二朗さんに見どころを聞いた。

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 2019/2020年シーズン第2戦として行われて以来、3年ぶりにWEC富士が帰ってくる。新型コロナウイルスの影響を受けて中止が続いた2年の間に、WECのトップカテゴリーはLMP1からLMH規定下のハイパーカークラスへと移行。TOYOTA GAZOO Racingはその初年度となった2021年に『トヨタGR010ハイブリッド』を投入、シリーズを席巻してLMHの初代王者となった。

 2022年からトヨタは元F1ドライバーでもある小林可夢偉がチーム代表とドライバーを兼任する体制となり、さらに国内で活躍している平川亮が参加。6月に行われたル・マン24時間ではセバスチャン・ブエミ/ブレンドン・ハートレー/平川亮の8号車が優勝し、昨年の7号車の栄冠に続きハイパーカークラス2連覇、そしてトヨタとしては大会5連覇を成し遂げた。

 今回のWEC富士も、やはり見どころの中心はトヨタになる。そのトヨタ陣営、そしてトヨタのライバルたちをどのような視点で見るべきか。高橋二朗さんに聞いた。

「やはり、見どころの中心はトヨタですよね。トヨタが想定していないほど厳しくなったBoP(バランス・オブ・パフォーマンス/性能調整)のなかでも頑張っている。今回も(ハイブリッドパワーが使用可能になる速度が190km/h以上とされている)BoPに関して変化はないと思われるけど、その状況で日本で凱旋レースを戦うわけです」

「厳しいなかでランキングトップを守るそのトヨタにおいても、今シーズンは毎戦、細かなメカニカルトラブルが出ています。ル・マンでもトラブルがあり、その前のスパでは8号車が完全に止まってしまったり……それを乗り越えて勝ちに行くという様を、まずは富士でも見ていただけたらと思います」

■ル・マンを制した平川亮の変化

 そのトヨタのなかで戦う日本人ドライバー、とくに今年のル・マンでトップカテゴリー初出場ながら総合優勝ドライバーとなった平川亮にも注目する高橋二朗さん。国内トップドライバーの実績をもって今年、WECシリーズ参戦を果たした平川については、「何かが降りてきちゃったのでは」と驚くほどの変化を感じているという。

「めちゃくちゃ変わったよね。この前のモビリティリゾートもてぎでのスーパーフォーミュラ第8戦でも、レースでの(首位を走るチームメイトの関口雄飛の)追い詰め方とか、耐久のクルマに乗ってから速さに一段と磨きがかかった印象があります」

「後方グリッドからスタートでいきなりいくつもポジションアップしたり、レース序盤からどんどんオーバーテイクで抜いて行く姿とか、あの速さはやっぱり何か降りてきちゃったんじゃないのかなと思いますね(笑)」

「中嶋一貴がF1から戻ってきたとき(2011年)もそうだったけど、やっぱりスーパーフォーミュラに復帰した当初は予選が良くなくても、1周目に(ピットに)入ってその後トップに立ってしまうとかレースでの強さ、作戦面での強さがあった。もともとあった速さに加えて、世界で戦ったことで強さに磨きがかかった」

 その中嶋一貴と同様に、世界選手権を戦いル・マンウイナーにもなった今年の平川もまた、今が旬のドライバーのひとり。WEC富士でどのようなパフォーマンスを見せるのか。ベテランであり先輩でもある可夢偉と、願わくは7号車の可夢偉、そして8号車の平川でまずは予選対決を富士で実現してほしいところだ。

■大人でさらに視野が広がった可夢偉チーム代表のひとコマ

 その可夢偉に関しては、今年からドライバーとチーム代表を兼務する立場となったが、今の可夢偉はトヨタチームのことだけでなくシリーズ全体のことも考えているほど幅広い視点で考えるようになったことを、高橋二朗さんが指摘する。

「リモート取材で、『フロントMGUの作動域が190km/h以上になったことについてどう考えていますか?』と聞いたところ、『チームとしてはそんなの予定してないところで作ったクルマですから』と言いながら、『WECの全体を考えたときには、それくらいのことがなかったら面白さが出ないですよね』ってことを言うのですよ。大人だなあと思いました」

「さらに、フェラーリのハイパーカーやポルシェやキャデラック、その他にも多くのLMDhマシンが出てくる来年に向けて、『ある程度のハンデをつけておかないと(WEC全体として)ウェルカムじゃないでしょ』と言うわけですよ。もちろん、自分たちのBoPをもっと少なくしてもらいたいという気持ちはあるでしょうけど、自分のチームのことだけではなく、世界選手権の将来まで考えている人ってこれまでに日本のレース界でいないじゃないですか。ましてやドライバーと代表兼任でね」

 そんな可夢偉の組織のリーダーとしての器の大きさに感嘆しつつ、コース上でのパフォーマンスについても、「チーム代表の立場ではあるけれども、戦い方としてチームオーダーはないはず」と見る高橋二朗さん。

 開幕戦セブリングでは7号車がクラッシュ、第2戦スパ以降は毎回2台のクルマの片方にトラブルが発生して直接対決の機会は生まれていないが、富士では8号車と7号車の一騎打ちが実現した場合、どのようなバトル、そして決断になるのか、可夢偉チーム代表の富士での采配も楽しみなポイントだ。

■新たな挑戦者プジョー。富士での進化は

 トヨタに続いて、富士での注目ポイントに挙がるのが、前回の第4戦モンツァでのWECデビュー前から強い関心が寄せられているプジョーの新型ハイパーカーで“リヤウイングレス”のプジョー9X8の登場。もちろん、高橋二朗さんもプジョー9X8の日本初走行を楽しみにしている。

「トヨタはもちろん、それに対抗する者たちとして一番のチャレンジャーはやっぱりプジョーですよね。リヤウイングが本当についてないのか、実際に見てやろうって思いますよね。実際、本当に付いてないみたいですけど(笑)」

「プジョー9X8については、今回のJ SPORTSの放送を見ていただければと思います。今回特別に、由良(拓也/レーシングカーデザイナー)さんが車両解説をするコーナーを設けているので、プジョー9X8のウイングレスの空力について分かると思います」

 ついに実際にお目にかかれる現行WECでのトヨタとプジョーの戦い。前戦のモンツァで初めて大手自動車メーカーのハイパーカーが同じ土俵で戦ったが、高橋二朗さんはそのモンツァ戦の印象について、どんな印象を受けたのか。

「一発の速さやレースでの強さの部分では当然トヨタに分があったけど、プジョー陣営としては2戦目となる第5戦富士に向けて何かをやってくる可能性もありますよね。それこそ、日本のスーパーGTや全日本スーパーフォーミュラ選手権で活躍して富士スピードウェイをよく知るロイック・デュバルや、ジェームス・ロシターの存在が富士攻略にひと役買うのではないかと思っています」

 トヨタ、プジョー、そしてアルピーヌなどのハイパーカークラスに、LMP2、LMGTEなどどのクラスでもクルマにドライバー、さまざまな視点でレースを楽しむ要素が抱負な今回のWEC富士6時間。実際の観戦でも、ライブ中継の映像でも、改めて高橋二朗さんにレースの楽しみ方を聞いてみた。

「これはWECに限らずどのレースもそうですが、ファンのみなさんには自分が気になる何かを中心に置いてレースを見てほしいなと思います。何もケアしないで見る方法もあるかもしれないけど、何かひとつ自分の中心をもって、速さであるとかラップタイムであるとか、そのあたりがどうなっていくのかを見ていくと観戦が組み立てやすくなります。ちょっとマニアックすぎますかね(笑)」

 トヨタチームを含めWECを戦うクルマとドライバーたちが3年ぶりに日本やってくるということで、高橋二朗さん自身としても、「1982年のWEC in JAPANのような期待があります。あのときは初めてポルシェのCカーやランチアLC1が来て、仕事で行っているのに仕事そっちのけで歩いていましたからね(笑)。久しぶりに本物のル・マンカー、今年でいえばハイパーカーがやってくるのですごく楽しみにしています」

「それと、ポルシェが隠密に偵察に来ているとか、そういうことがないかなと期待しています。帽子を目深にかぶって、マスクとサングラスしたアンドレ(・ロッテラー)がパドックを歩いているとかね」

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 今週末に開催が迫ったWEC第5戦富士6時間レース。ハイパーカーとLMP2、LMGTEのプロとアマの計4クラスから36台が出場予定となっている今戦は9月9日(金)にフリープラクティス1回目と2回目、10日(土)に3回目のプラクティスと予選、11日(日)の決勝日は11時に6時間レースのスタートが切られる予定だ。

 レース中継はJ SPORTS/J SPORTSオンデマンドにて、日曜の決勝レースに加え、土曜の予選も14時30分から生中継の予定。詳しくはJ SPORTS公式サイト(https://www.jsports.co.jp/motor/wec/)まで。