WEC世界耐久選手権に出場する気になるドライバー第1弾として、アルピーヌのマシュー・バキシビエールをご紹介した本企画。続いて第2弾としてご紹介するのは、TFスポーツ33号車アストンマーティン・バンテージAMRでLMGTEアマクラスに参戦するアマチュアドライバー、ベン・キーティング(“さん”という敬称を付けたくなるが、今回は呼び捨てで……)。富士6時間レースの金曜日、朝の走行前という忙しい時間にもかかわらず、大いに語ってくれた。

■妻からプレゼントされたクルマで「恋に落ちた」
 キーティングは、現在LMGTEアマクラスのドライバーによって争われるエンデュランス・トロフィーでランキングトップをひた走っている。今年はル・マンでクラス優勝を果たしただけでなく、今回の富士でもポール・トゥ・ウィン。また、開幕戦・セブリング、第2戦・スパでも2位表彰台を獲得と、常に上位を争っている“最速ジェントルマンドライバー”のひとりだが、クルマから降りている時は常ににこやかな笑顔を絶やさない。

 日本人的感覚で言うと、失礼ながらもう少しお年を召しているのかと思いきや、現在51歳になったばかりのナイスミドル。米・テキサスでクルマのディーラーを幅広く展開しているビジネスマンという顔を持っている。ということで、まずは本業について話を聞いてみた。

「僕は大学を出てから、最初にフォードのディーラーに勤めたんだ。そこでどうすれば上手にクルマを売ることができるのか、どうすれば他の人たちと協力して仕事をできるのかといったことを学んだ」

「そして、20年前に独立して自分の会社を立ち上げた。今では28のショップを持っていて、19のブランドのクルマを売っているんだよ。その中には、トヨタのディーラー3軒と日産のディーラー4軒も含まれている。ホンダも三菱も、日本のクルマはほとんど売っているんだ。以前はマツダも売っていたんだけどね」

「他にも、フォルクスワーゲン、BMW、メルセデス・ベンツを売っているし、フォード、ダッジ、クライスラー、ジープ、シボレー、ビュイック、GMCといった母国ブランドのクルマも売っているんだ。ヒュンダイとかジェネシスとか韓国ブランドも扱っているよ。そのディーラーシップ網で、月に4500台のクルマを売っているんだ。あいにくアストンマーティンは売っていないんだけど(笑)」

「そうやって僕がクルマのビジネスをしていて、大のクルマ好きだっていうことを知っていたから、ある時、妻がサーキットに行って走るクルマをプレゼントしてくれた。クリスマスプレゼントとしてね。そのクルマで実際にコースを走ってみたら、『こんなに面白いことはない!』と恋に落ちてしまったんだ。そこから僕のレースキャリアが始まった。それ以前はモータースポーツのことを何ひとつ知らなかったのにね」

 キーティングが初めてレーシングコースを走ったのは、35歳の時。今年でキャリアは15年ということだが、始めた頃はかなりひどい滑り出しだったという。

「僕はクライスラー・バイパーでレースを始めたんだけど、最初の年は6回レースに出て、6回アクシデントを起こしているんだ。そこで宣言されたんだよ。『みんな君とはレースしたくないって言っている』って。クラッシュし過ぎだったからね(笑)。そんな風に始まったから、明らかに今はマシになったよね(笑)」

「その最初の年のバイパーレースの仲間たちとは、今でも年に一度再会している。同窓会があるんだ。そこで自分がいかに進歩したかっていうことを知るのは興味深い。僕はほぼ10年間、耐久レースに出場してきているけど、その間に自分がどれぐらい進歩したか測るのは難しいよ。彼らの方が遅くなっているっていうのも判断が難しい理由のひとつだけど(笑)」

「でも、僕は自分がより良くなるように、努力してきた。耐久レースのいいところは、まったく同じクルマに乗って、まったく同じコース、まったく同じ日程で他のふたりのドライバーたちと走るところなんだよ。彼らがどういう風にやっているのか、それに対して自分はどうしているのかという違いが分かるし、すべての情報を得られる。チームメイトといろいろなことを話して、さらに進歩することができるんだ」

「そこがクラブレースとは最も違うところだ。自分ひとりでクルマに乗っていたら、比較する相手は自分しかいない。実際、毎回同じミスをして、まったく学べなかった。その点、他のドライバーとクルマをシェアすれば、学ぶスピードがうんと早くなるんだ」

■7種の車でル・マン8回出場。高負荷トレーニングは欠かさない
 耐久レースに出始めてから、急激に腕を上げたというキーティング。一方、常に同じドライバー、同じチームに留まることはなく、毎年のように違うマシン、違うチームでレースをしてきたのも彼の特徴だ。今では、GTカーだけでなく、IMSAウェザーテック・スポーツカー選手権ではLMP2にも乗っている。そこはやはりいろいろなクルマを販売していることも関係しているのか? と思ったら、理由はやはり上達のためだった。

「僕は今年も入れて8回ル・マン24時間レースに出ているんだけど、7種類の異なるクルマに乗って出ているんだ。2018年はフェラーリで表彰台に立って、2019年はフォードGT、2020年はポルシェ。そして、去年と今年はアストンマーティンという具合にね。そういう風に、違うタイプのクルマに乗ることで、それぞれのクルマにできることの違いが分かる。僕はどのクルマも同じように運転しているけど、GTのドライビングがLMP2に、LMP2のドライビングがGTにとお互い活きるし、ブレーキングのテクニックはいずれも似通っているんだ」

「GTEアマに出ているジェントルマンはみんな、アクセルは同じように踏んでいると感じる。でも、大きな違いがあるのはブレーキング。それがラップタイムの違いに現れる部分だと思う

「もちろん家にシミュレーターがあって、それを使っての練習もたくさんしているよ。でも、実際にコースで走るのとは違っている。僕は今年でWECにフルシーズン参戦を開始して3年目だけど、今年は新しいジェントルマンドライバーが多いよね。でも、速く走るためには、コースをよく知って走り込まないとダメだ。それに僕はジェントルマンだけど、トリプルスティントを走ることができる。他のほとんどのジェントルマンはそれができない。そこが違いなんだと思う」

 確かに、ジェントルマンでトリプルスティントを無理なく走り切れるのは凄いことだ。そのために、キーティングが欠かさないのは自転車でのトレーニング。心拍数を160まで上げた状態で3時間から4時間も走り続ける。その心拍数まで上げた上で、頭が冷静な判断をできるようにと鍛えているのだそうだ。

 この取り組みは、6時間レースでこそストラテジー面で大きな違いにならないが、バーレーン8時間やセブリング1000マイル、ル・マン 24時間レースといった長いレースでは大きな違いになるるという。キーティングは、過去のデータやビデオを見たり、シミュレーターでのトレーニングにも多くの時間を費やしているが、それ以上に自転車に乗っている時間が長い。ディーラーの社長としての仕事をする時間が充分にあるのか、そこは若干気になるところ(?)だが、そうした努力が実って、今では最速ジェントルマンドライバーと呼ばれるようになった。

 ル・マンでは2019年にクラストップフィニッシュを果たしながらも、レース後の車検で失格になるという悲運を味わったが、今年はその“忘れ物”を取り返すことができたキーティング。ドライバーとして、この先の目標はどこに置いているのだろうか?

「来年は間違いなくGTEクラスでのレースを続けるよ。来年はプロクラスがなくなるから、アマのウイナーがGT全体の勝者ということになるしね」

「でも(2024年にWECのGTカテゴリーが)GT3になったら、そのクラスには興味がない。GT3にはABSが付いていて、ブレーキングテクニックの違いが活かせないからね」

「それに、カスタマーカーを販売すると言っているけど、LMDhにも興味はない。ファクトリーのクルマはプロドライバーがラインナップを埋めるわけだし、そんなチームと戦って勝つことはできないだろう? 僕は、出るからには自分が勝利を争えるカテゴリーに出たいんだ。あとはLMP2だけど、そこがプロ/アマクラスになるかどうか。いずれにしても、将来的なそれぞれのカテゴリーの条件が出揃ってから、自分が次に何をするか決めたいと思っているよ」