10月最後の週末となる29〜30日に、アメリア・ヴァージニア州に位置する最短トラック、マーティンスヴィル・スピードウェイで開催された2022年NASCARカップシリーズ第35戦『エクスフィニティ500』は、まさに前代未聞、衝撃的なファイナルラップの幕切れとなった。

 プレーオフ第3段階“ラウンド・オブ8”の最終戦として、次週フェニックスでの“チャンピオンシップ4”に向けた生き残りに熾烈な勝負が繰り広げられるなか、クリストファー・ベル(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)が『勝たなければならないレース』で2度目の奇跡を披露し、シーズンフィナーレ最後の4人に滑り込むプレーオフ2度目の必勝劇を演じてみせる。

 そして年間を通じてデニー・ハムリン(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)と幾多の“因縁バトル”を繰り広げてきたロス・チャスティン(トラックハウス・レーシングチーム/シボレー・カマロ)は、このレースでも宿敵相手に最終ラウンド進出を賭けた勝負に挑むと、まさに2022年“台風の目”であることを証明する暴挙に出る。

 ファイナルラップで10番手にいた1号車のシボレーは、5番手にいる11号車トヨタに一発逆転の大勝負を仕掛け、歴史的な0.526マイルのショートトラックでターン3からターン4に向けマシンをウォールに擦り付けながら「大破覚悟のアクセル全開」という“ゲーム走り”を決行。一歩間違えれば蛮行になりかねない判断を大成功させ、衝撃的速度差でハムリンを抜き去り5番手でチェッカー。

 さらにレース後にはブラッド・ケセロウスキー(RFKレーシング/フォード・マスタング)の最低重量違反による失格裁定で4位へと繰り上がり、宿敵を撃破して自身初のチャンピオンシップ4進出を決めてみせた。

 週末の勝負を前に、ここ数戦は脳震盪の治療に専念していたアレックス・ボウマン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)の最終戦復帰がアナウンスされ、前戦“場外乱闘”のペナルティとして「1戦出場停止」の処分を受けていたダレル“バッバ”ウォレスJr.(23XIレーシング/トヨタ・カムリ)が復帰。そのマーティンスヴィルでは、土曜プラクティスでハムリンが、午後の予選では前戦勝者カイル・ラーソン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)が最速を記録する。

 フロントロウに並んだチェイス・エリオット(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)とともに、決勝レース序盤はHMS艦隊が支配し、ラーソンが最初の68 周をリードした後、エリオットがトラフィックの処理で僚友の現王者をパスし、次の52周でリードラップを刻んでいく。

■賭けに出たチャスティン「1度も頭に浮かんだことも、試したこともなかった」

 しかし第1ステージも残り9周となる121周目に、11番手発進だったハムリンがジワジワと忍び寄り、そのままステージ1とステージ2を連続で制覇。都合203周にわたって首位を維持する。

 最終ステージの276周目にはチャスティンと絡んだケセロウスキーがスピンを喫し、ここで初のアクシデントによるコーションが発生すると、続く321周目のチェイス・ブリスコ(スチュワート・ハース・レーシング/フォード・マスタング)を起因としたコーションとも併せて、330周目のリスタート時点でベルが首位浮上に成功。その一方で、ハムリンは終盤の3回連続ピットストップでポジションを落とし、470周目のコーションで14.5秒の作業を経ると、因縁の相手であるチャスティンの背後13番手で最後の勝負を迎える。

 一方、隊列先頭ではポールウイナーのラーソンを0.869秒差で撃破したベルが「母さんと父さん、僕らはそれをやってみせた! 信じられない! この場所はいつも僕に厳しかったから尚更だ!」と今季3勝目、プレーオフ2勝目を挙げ、ジョーイ・ロガーノ(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)やエリオットらと並んで、最終チャンピオンシップ4のひとりに名を連ねる結果に。

 そしてこの日、明らかな最速マシンの1台を操ったハムリンは、ファイナルラップ突入で5番手に進出する一方、チャスティンはその宿敵と争うべく最後の賭けに出る。

「もちろん、それについて考えたことはないよ。今週の準備中だって、それは頭に浮かばかなったからね。たくさんiRacingで周回を重ね、バーチャル空間でシミュレーションはしてきたが、1度も頭に浮かんだことも、試したこともなかったんだ。最後にやったのはNASCARドライバーになることさえ考えなかったずっと前のことさ」と、レース後に仰天アイデア決行前の心境を明かしたチャスティン。

「でも(ファイナルラップを知らせる)ホワイトフラッグが振られ、頭の中であらゆる記憶がフラッシュバックし、ターン1と2を通して最低でもふたつ以上のスポットが必要だと思った。そして(無線を通じて)彼らは『YES』と言った。『もし壊れても大丈夫、もう今季はリペアの必要もない。うまくいくかどうか、イチかバチかでやってみる』と伝えたんだ」

 ターン3に向けアウトサイドのラインに寄せたチャスティンは、スロットルを開いたまま外側の壁に張り付くように進路を採ると、まるでアフターバーナーに点火したかのごとくフェンス際をロケットのように駆け抜け、11号車カムリを鼻先で捉えることに成功。その前方にいた4番手ケセロウスキーのテールにフィニッシュライン手前で追突する勢いでチェッカーを受けた。

■ゲームキューブから発想を得た

「僕は決断を下し、5速ギアでターンに入った。基本的には全開、ターン4のアクセスゲートなどに引っかからないことを願ってハンドルを離したんだ」と明かしたチャスティン。

「うまくいくはずだとわかっていたけど、脳が理解できなかった(笑)。5速のギアを握ったまま、振動で視界がぼやけたよ。(チームオーナーの)ジャスティン(・マークス)とクルーが抱き合っていたのを大型ビジョンで見て、どうやら遅くならなかったようで『できた!』と思ったね」

「レースカーでこんなことをするのを初体験したのは、ゲームキューブで遊んだ『NASCAR 2005(Chase for the Cup)』が最初だと思うよ。僕は兄といつもそれで遊んでいて、フロリダか偽のコースかは覚えてないけど、いつも僕はそれをやられて負けていたんだ(笑)」と“ネタ元”を明かしたチャスティン。

 この結果、残り24周でステイアウトし首位にいたブリスコは、残り5周で4本交換を余儀なくされ最終的に10位に。25番手スタートからポジションを挽回できなかったウイリアム・バイロン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)や、3位チェッカーもポイント上で届かなかったライアン・ブレイニー(スチュワート・ハース・レーシング/フォード・マスタング)らとともに、ここでプレーオフ敗退が決まった。

「そう、明らかに古いタイヤを履いていた」と明かしたブリスコ。「少しの間なら大丈夫だろうと思っていたが、急速に“崖2がきた。僕も壁を使うべきだったね(笑)。そこで使えばかなりお得だったはずさ」

 そして最後の瞬間までチャンピオンシップ4の権利を手中にしていたハムリンも「レースをコントロールできた日に限って、最終的にレースをコントロールできなくなる。コーションが出るたびに、いくつかのスポットを失い続けた。そういうものさ」と達観した面持ちで振り返ると、パドックの誰もが『パンドラの箱を開けたのでは』と懸念を表明する“壁走り”に関しても、現状はそれもすべてルールの一部だと語った。

「面白いけど、僕には合わないね」

 そして今週も併催されたNASCARエクスフィニティ・シリーズの第32戦は、3回に及んだ延長ファイナルラップ勝負を制し、タイ・ギブス(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタGRスープラ)が待望のプレーオフ初優勝で今季6勝目を記録。ノア・グラグソン、ジョシュ・バリー、そしてジャスティン・オルゲイアーらJRモータースポーツのシボレー・カマロ軍団と最終戦で雌雄を決する。