2022年はフランスに移住し、OG Motorsport BY SarazinからFIM世界耐久選手権(EWC)に“フル参戦”することになった渥美心選手。そんな渥美選手がEWC参戦のなかで感じた、日本のレースとの違いや耐久レースならではの出来事や裏側を語ります。

 今回は2022年の最終戦となった第4戦ボルドール24時間。1年前のボルドールから渥美選手のEWCキャリアが始まりましたが、2度目の参戦で感じた成長や心情など、レースウイークの日々を渥美選手と同行している広報兼ヘルパーの目線でお伝えします!

※ ※ ※ ※ ※ ※ 

 早いもので、ボルドールを経験してから1年が経ち、初めて24時間レースに挑戦した思い出の地に戻ってきました。見覚えのある景色を見ると、「今のフランス生活のきっかけはここだったんだな」と感慨深かったです。

 S-PULSE DREAM RACING・ITECから参戦した鈴鹿8耐で4位を獲得した良い流れのまま24時間レースでの初優勝を成し遂げたいと高いモチベーションで迎えたレースでした。また、今年3回の24時間レースを経験してから挑む2度目のボルドールは、自分がこの1年間でどれだけ成長したのか確認できる機会として楽しみな気持ちでもありました。

 今回も元MotoGPライダーのロベルト・ロルフォ選手(Roby)、そしてスパ24時間での負傷から復帰したアレックス・プランカッサーニュ選手(Alex)と3人で挑みました。

 チームの事情によりレースウイークの2週間前に行われた事前テストは不参加。昨年も事前テスト無しだったので大丈夫だろうと落ち着いている自分と、優勝を目指しているのに事前テストに参加したライバルチームから遅れをとっている不安な自分が交互に出てきて、走り始めるまでは緊張感がありました。

 レースウイーク初日の4時間のフリー走行は2台のバイクを同時に走らせられたので、2台を3人で回しながらセッティングを進めていきます。2種類のフロントタイヤの選択、サスペンションやエンジンブレーキ、ウイリーコントロールなどの電子制御の細かなマシンセッティングを詰めていきました。

 2日目の公式フリー走行は、オフィシャルの人数不足により非公式セッションに変更されたため、FIMライセンスの保険が適応されず、主催者にライダーや監督が反対意見を訴えるトラブルも発生しましたが、約2時間程遅れてスタート。タイヤの消耗度合いの確認と燃料を満タンに積んだ時の確認を行いました。

 45分間の夜間走行では新品のブレーキディスクとパッドの慣らしを行いました。夜は気温が下がりタイヤのグリップがよくなるのでバイクの安定感が増し、走りやすく感じました。タイムを追い求める走りはしませんでしたが、レースに向けては非常に自信になる点を発見できた良いセッションでした。

■タイヤトラブルが発生した予選
 予選1回目は、1.8kmのバックストレートでスリップストリームを使用したいのと、ライディングを改善するために速いライダーの後ろに付いて学びたかったため、先頭でコースイン。しかし、リヤタイヤのグリップがなく、攻めたら転倒するほどの違和感でした。後に、タイヤウォーマーが壊れて通常より50度高い温度になり、タイヤの表面が溶けてボロボロになっていたためだとわかりました。

 リヤタイヤを交換して再度コースインすると、徐々に攻めていきようやくこのレースウイークで初めて1分56秒台を記録。最悪の状況で転ぶことなく、このウイークで自己ベストを記録できたことをポジティブに考えました。

 翌日の予選2回目も前日同様に先頭集団でピットアウトしました。3周目に速いライダーを追いかけながら1分56秒770を記録し、前日の予選タイムを0.1秒更新しました。その後はセクター毎ではベストを更新できましたが、1周をまとめられませんでした。もしベストを記録していれば、さらに0.6秒速いタイムが出せていたと考えると悔しいです。

■決勝日の大きな決断
 予選後のミーティングで「決勝中はバックストレートで強い追い風が吹く予報なので、エンジンを労わるためにギヤ比を1丁ロングにしよう」と決めました。その変更により走りのリズムを変えなければなりません。結局ライディングを合わせられず、ウォームアップは不安が残るセッションになりました。

 そして15時にレースがスタート! 23番グリッドからスタートしたRobyは1分56〜57秒台のハイペースで周回してくれたおかげで1丁ロングの設定でもタイムが出せることが分かり安心しました。

 自分がコースインすると非常に風が強く、旋回中や左右に切り返す時にバランスを取るのが難しい状況だったのですが、すんなりと集中でき計測1周目から1分57秒723を記録できたので自信を持って1回目の25周を走り切れました。

 2回目のスティントでは、前後のタイヤを新品に交換したので攻めの走りをしました。途中F.C.C. TSR Honda Franceのジョシュ・フック選手に抜かれたので、後ろで走りを学びながら1分56秒663を記録し、このレースウィークでのベストタイムを更新しました。

 その際にアクセルを戻している時間が少し長いことによりコーナリングスピードが遅いことに気付き、そこを改善したところ毎周0.5秒ほど速くなりました。

 日が沈み真っ暗になってから迎えた3回目のスティントでは、災い転じて福となすな出来事が起こりました。スティント終盤に目の前を走っているライダーに気を取られ、給油ランプがどこで点灯したのか気付けなかったのですが、もう1周はいけると判断してピットインはしませんでした。念のためアクセルを全開にはしないようにして、バックストレートで一瞬ガス欠症状が出て失火したものの、ぎりぎりピットに帰還できました。そしてピットインする周にセーフティカーが出動し、Alexがタイミング良くクラストップのままでピットアウトできたのです。

 4回目、5回目のスティントでは30秒から1分程の差でライバルチームを従えながらトップ争いをしました。深夜2時台になると走りながらでも分かるほど気温が下がり、風が冷たくなってきました。

 それと同時にバックストレートエンド(時よりホームストレートエンドでも)でブレーキの温度が冷えすぎてブレーキレバーのタッチが大きく変わりました。ブレーキの操作をミスしやすい状態だったので、危険な個所ではあまりブレーキを使わなくても走れるようにリズムを変えました。ラップタイムは少し落とすことになりましたが大きなミスなくトップを死守しつつスティントを終えられました。次に走るAlexには「ブレーキが冷えて操作感が変わるから気を付けてね」と伝えました。

■残念ながら転倒でレースリタイア
 自分のスティントを終えてピットでチームスタッフにバイクの状態を伝えていると、セーフティカー出動のお知らせがモニターに出ました。

 着替えを終え、マッサージを受けている時に「Alexが転倒した」という情報を聞きました。なんとセーフティーカーの原因は彼の転倒だったのです。

 低気温とピットストップの影響でタイヤが冷え切っていた影響で、ピットアウトした周にバックストレート手前の高速コーナーで転倒していました。Alexは目の周りが傷だらけの痛々しい姿でピットまでマシンを戻しました。それに応えるようにチームは50分間かけて懸命にバイクを修復した後Robyが確認のためにピットアウトしましたが、1周のみでピットイン。

 フロントフォーク周辺が歪んでいたり他の個所も大きなダメージを負っていて、レースは続行できないと判断し、12時間を残してリタイアと残念な結果でシーズンを締め括ることになりました。

■ボルドールと2022年シーズンを振り返った感想
 順調にクラストップを走行している中でのリタイアは、優勝すれは“年間チャンピオンの可能性”もあったので非常に悔しい結果です。しかし、スティント毎に順位を上げていけるレースペースや安定した速いピット作業などトップクラスのチーム力があることの証明はできたと思います。

 昨年は何をするにしても右も左も分からない状態であたふたしていましたが、1年経った今は落ち着いて物事に取り組めていることに気が付きました。

 これはフランスを拠点に生活し、レース活動をすることでチームとのコミュニケーションを取る機会が増え、フランスの文化や人の考え方を理解できてきた成果だと思います。2度目のボルドールを通してこの1年の大きな成長を実感しました。

 今年は4回の24時間レースに参戦し完走は1回、スパ24時間でクラス3位表彰台を獲得したレースのみでした。鈴鹿8耐では総合4位を獲得できたので今シーズンの印象は悪くないのですが、結果を改めて振り返るとまだまだ改善できることは多いです。24時間レースは簡単ではありませんがそこにやりがいを感しじます。まだまだ挑戦し続けます!

 2022年も多くの方に応援していただき、フランスの地で新たな挑戦をさせていただけたことに大変感謝しております。これからも私の活動を通して多くの方々に勇気や希望を届けられるよう精進してまいりますので、今後とも応援よろしくお願いいたします!