10月26〜27日、三重県の鈴鹿サーキットで行われたスーパーフォーミュラの次世代車両(CN)開発テストで、新たな空力パッケージをまとった2台の開発車両が初の本格走行を迎えた。

 この新たな空力パッケージにおいては、車両の後方乱気流の低減が開発目標とされてきた。走行中にマシンが生み出す後方乱気流が減少すれば、接近した状態での争いが可能になる。そうすれば『速い者が抜ける』レースの実現に近づき、JRP(日本レースプロモーション)が掲げる『エンターテインメント性の向上』に繋がる、という青写真だ。

 鈴鹿でのテストを終えた後、テクニカルアドバイザーを務める永井洋治氏に話を聞いた。永井氏は長年トヨタ/TRDのエンジニアとしてマシン開発を携わった後、JRPへと籍を移してこの次世代車両の開発を統括している。いわば新空力パッケージの“生みの親”である永井氏は、今回の初走行をどんな心境で迎え、どう評価しているのだろうか。

「今回のテストに関しては、興奮しています(笑)。開発テストの一番の目的だったのが追い越しのできるクルマなんですが、ドライバーさん(石浦宏明・塚越広大)たちの言葉を借りると、想像以上の効果が出ているということだったので。シミュレーション通りではあるんですけど、それがやっとできたというか。フォーミュラでそんなクルマというのは、夢だったじゃないですか。無理だ、無理だと言われていたのが、できたというのはもう凄いことだと思います。一番目の目標が達成できました」

 2022年の開発テストを通して、SF19を用いて前後ウイングを寝かせた状態での実走テストを重ね、データを蓄積してきた。それらを踏まえて新たな空力パッケージのシミュレーションも行ってきたが、そのとおりの効果が出るかは永井氏も心配していたようだ。

「最初はすごく不安だったんですね。ちょっとエアロマップも新しくなったので、違う部分でも心配事がありました。もう一つの狙いとして、絶対ダウンフォースというのがありましたよね。ある程度のダウンフォースでタイヤのタレを誘発したり、ドライバーの腕をより引き出すという。そこのバランスがうまく取れるかな、これで本当にうまく行くのかなという感じでした」

「データで見て、難しい状況に来ているなっていうのが分かったので、走る前は不安でした。そこから実際に単独で走らせて、何とかいいところに落とし込みができそうな感じがしてきましたね」

「また、追走に関しては、結果的にはパッケージングがシミュレーションどおりで、後ろの乱気流の少なさが実証されました。だから、興奮もありましたし、みんながやって来たことが無駄にならなかったという安心もありました。まだ2名のドライバーしか体感していませんけど、いろいろなドライバーが体感した時に、どう言うのか。きっと驚きがあると思います」

「この技術がもしかしたら、今後のフォーミュラのスタンダードになって行くかもしれない。『歴史が動いた』瞬間に、自分たちはこのテストで立ち会ったのかもしれないというような興奮がありました」

 ホンダエンジン搭載車両の通称“白寅”は、イタリア・バラーノでのシェイクダウンを行ったが、永井氏が実物の車両を目にしたのは、今回の鈴鹿テストが初めてだったという。

「デザインは見ただけで、超カッコいいじゃないですか。ビジュアル的にはまったく文句なしです。実物を見たのは今回が初めてでしたが、動的というか有機的な線に見えて、”走る"って感じでした。躍動感が形に現れているというか、“バトルするぞ”みたいな。それが伝わってくる。そして、実際にバトルできる。だから、見た目、エンターテインメント性は100点じゃないでしょうか」

■「企画が甘かった」SF09の反省を活かして
 エンジンを中心として長年トヨタのエンジニアを務めてきた永井氏は、これまでのスーパーフォーミュラのシャシーの変遷について、「実は、エンジンだけでなく、自分はSF09からクルマの開発にも携わってきたのですが、その反省が生きています」と述懐する。その反省とは、具体的に何だったのだろうか。

「失敗がいっぱいあるんです、ハッキリ言うと。SF09の時の失敗は、重量が重くなってしまって、重量コントロールができなかったし、ダウンフォースの出方が唐突でした。ダウンフォースの絶対量にこだわったことで、速いけれども、ドライバーにとって決して乗っていて楽しいクルマではなかったんです。それはやっぱり、企画が甘かったんですね」

「その大反省が生きたのがSF14。根本に返って『フォーミュラって何なのか。クイック&ライトでしょう?』と。ドライバーが意のままに操れるクルマでしょう、と」

「自分が09の時に最大のショックを受けたのは、若いF3のドライバーが『別にSF09には乗りたくない』と言ったことなんです。普通ドライバーはステップアップしたがるじゃないですか。でも、『別に乗りたくない』と。それはもの凄く衝撃でした。自分たちが携わったクルマに乗りたくないって言われたら悲しいじゃないですか。そんなクルマを作るのに参画してしまった自分は、何を間違ったのかなって、すごく反省しました」

 この“失敗”により、「やっぱり基本としてドライバーに運転したいと思わせるクルマじゃないと、見ているお客さんも楽しくないんですよ」という認識に至ったという。

「それでみんなでコンセプトから練り上げたのが、SF14です。そのSF14にもすごく良かった点と足りなかった点がありました。ひとりで乗っている分にはすごく楽しいんです。でも、レースをする時には、やっぱり後ろに付けない。軽いですし、ひとりで走るには大正解なんですけど、レースするクルマとして見た時には足りない面があった」

「SF19に関してはデルタ的に動きましたし、ドライバーが『乗りたい』というクルマにできたのは大きなステップでしたね。そういう風にいろいろなクルマを見てきた中で、フォーミュラのあるべき姿というのはどうなのかなと考えて行くと、今回のクルマはだいぶ理想のフォーミュラに近づいたんじゃないかなと思います。まだ100%ではないんですけどね」

「環境を別にしても、音だったり、もっと軽くとか、やり残しはあります。時間とお金が許すのであればですけど(笑)、究極はまだまだ。でも、だいぶ理想の形には近づいたというか、大きくステップで動いた。まだテストだけですけど、バトルができて、さらにドライバーの腕がオーバーテイクでも発揮できるっていうのは、こういうクルマなのかなと思います」

 次世代車両がいつから正式導入されるのか、そしてどんなレースを見せてくれるのか。引き続き、注目していきたい。