バレンシアGPでアレックス・リンス(チーム・スズキ・エクスター)は、優勝によって有終の美を飾った。2022年シーズンをもってMotoGPを撤退するスズキにとって、間違いなく素晴らしいレースであり、劇的な終わり方となった。

 5番グリッドから絶好のスタートを切ったリンスは、1コーナーまでにみるみるうちに前のライダーを追い抜くと、1コーナーをトップで立ち上がった。そのあともリンスは27周にわたってトップを走り続け、スズキにとって最後のMotoGPのチェッカーを先頭で受けたのだった。

 リンスは決勝後の会見の中で、スズキとして最後のレースについて「このような形でシーズンを終えることができて素晴らしい気持ちだ。スズキは(2022年で)撤退する。優勝以上のものはないよ」と喜びを語った。

「素晴らしいスタートを切って、1コーナーに入っていったけど、レースをコントロールするのは大変だったよ。ホルヘ(・マルティン)はすごく速かったし、ブラッド(・ビンダー)もなかなか速いペースで来ていたからね。ミスができない状況だったんだ。だから自分のラインをとり、ミスをせず、タイヤをコントロールした。そして、優勝したんだ。スズキは優勝できるのだとあらためて示した。スズキはMotoGPから撤退すると決めていた。だから僕は全力を尽くそうと思っていたし、これが100パーセントだ」

 リンスは同時に、大変だった、とも言う。それはリンス自身の心境のことだった。リンスにとっては2017年にMotoGPクラスにステップアップして以来、6年間、スズキとともに戦ってきたのだ。

「この週末には、体や心に、たくさんの感情があった。だからそれを脇に置いておくようにしたんだ。昨日の予選はすごく重要だったけどうまくいって、5番手からのスタートとなった。それに、集中するのも大変だった。でも、グリッド上でメカニックに『バイバイ』と言っているみたいで、感情が湧き上がって泣けてきた。でも『アレックス、ねえ、集中だよ。レースがあるんだから』って自分に言い聞かせたんだ」リンスはフィニッシュラインを通過したときにも、今度はうれしくて涙を浮かべたとも語っていた。

 会見の中では「この勝利はスズキのMotoGPからの撤退という決定が、ばかげていて不合理であることを強調していると思いますか?」との質問があった。それに対し、リンスはまず「僕は言わないよ、あなたが言ったから」と少し笑ってから、あらためてこう回答した。

「バイクに乗ってコースに出ていく度、僕は全部の力を尽くそうとしている。スズキのためにいい仕事をしたと思うんだ。強いバイク、勝てるバイクを手に入れたし、ジョアン(・ミル)は世界チャンピオンになり、僕たちはたくさんの仕事をした。そして、彼らが僕たちに言ったのは、撤退するということだった」

「彼らには将来的な別のプランがあるからだ。だから、(その決断を)尊重するよ。簡単なことではなかったけどね。だって、僕たちには強く戦えるバイクがあって、今年はとても素晴らしかった。エンジン面ですごくよくなっていたんだ。でもそれが彼らの決定だ。僕にできることは何もないし、言えることもない。彼らは僕にたくさんのものを与えてくれたし、僕も彼らにたくさん貢献をしたんだから」

 もうひとりのスズキのライダー、ジョアン・ミル(チーム・スズキ・エクスター)は、レース終盤にトランスポンダーに問題が発生したため、電子制御がおかしくなっていたのだという。そんな中でも12番グリッドからのスタートで、6位でゴールした。

「チームにはおめでとうと伝えたい。僕の今季のシーズン全体としてはがっかりしている。いつも問題を抱え、不運があり、自分自身のミスもいくつかあった。でも、こういう終わり方ができてうれしいよ」

「火曜日には新しい挑戦を始めるけど、スズキにとって最後のレースをこういう風に終えられて感慨深い。たぶん日本では後悔しているんじゃないかなあ。でも彼らの決断には大きな理由があるわけだからね。とにかく、スズキには感謝したい。僕のために作り上げてくれたすべてのものに対しても。そして僕のスーパー・チームにも感謝だ」

「浜松ではどんな思いでレースを見ていたと思う?」と問われると、ミルは「全く、残念だよ」と返した。

「彼らが(MotoGPから撤退するという決断を)後悔しているのかはわからない。ただ、彼らが別のものに投資したいという様々な側面を考えたとしても、見事なバイク、素晴らしいチームと僕たちがこのMotoGPに与えてきたイメージはとても素晴らしいものだ。僕たちがここでしていることは、どんなものよりも宣伝活動になっていると思うんだ。だからこの決定は本当に理解できないよ。でもまあ、彼らには彼らの理由があるんだろうけどね」

 バレンシアGPが終わったあとの11月8日、リカルド・トルモ・サーキットでは2023年に向けた各チームのテストが行われ、MotoGPクラスのチームのトレーラーはピット裏に並んだままだった。ただ、スズキのトレーラーの場所だけがぽっかりと空いていた。