3年ぶりに開催されたF1日本GPでマックス・フェルスタッペンのドライバーズチャンピオンが決まった2022年シーズンのF1シーズン。タイトルが決まったとはいえ、ランキング2位以下の戦い、
そして2023年に向けて、チームもドライバーはまだまだアツい戦いを繰り広げています。日本期待の角田裕毅の2年目も集大成を迎えるなか、ホンダで若手育成を担当する元F1ドライバーの中野信治氏が独自の視点で振り返ります。今回は第19戦アメリカGP、そして第20戦メキシコGPの2連戦を総括。期待の高い角田だからこそ、メキシコでの接触リタイヤについて中野氏が提言します。

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 2連戦となった2022年のF1第19戦アメリカGPと第20戦メキシコGP、第18戦の日本GPでマックス・フェルスタッペンがチャンピオンを決めたということもあり、その後もフェルスタッペンが圧倒するかと思いましたけど、メルセデス勢が速さを披露してきました。アメリカGPからのアップデートがポジティブな方向にいったこと、そしてアメリカGPのサーキット・オブ・ジ・アメリカズ、メキシコGPのアウトドローモ・エルマノス・ロドリゲスというふたつのサーキットがメルセデスに向いていることがその理由だと思います。

 メキシコGPの予選ではメルセデスのルイス・ハミルトン&ジョージ・ラッセルがポールポジションを獲得するのではないかと思うくらい、本当に際どいところまでフェルスタッペンに迫りました。ラッセルはアタック最終ラップのミス(トラックリミッド違反でタイム抹消)がなければ、もしかしたらポールかという勢いでしたけど、そこまでのフェルスタッペンとの比較を見ていると少し届かなかったかなという気がしています。最後のアタックをうまく終えられたとしても、1000分の数秒差という際どいタイム差でラッセルは負けていたのではないかと思います。

 予選に関してはメルセデスとレッドブルのマシンはほぼ互角か、メルセデスが上回るくらいのレベルになっていたように感じます。セクター2でのスピードもメルセデスは本当に信じられないような速さでした。パワーユニット/エンジン(PU)の点からもメルセデスはレッドブルに対してはストレートスピードがどうしても負けてしまいますけど、よくここまで仕上げてきたなというの正直な感想です。

 メルセデスのアップデートの内容はわかりませんが、マシンはコーナーでタイムを稼いでいる印象で、メキシコのセクター2は中高速コーナーで構成されているので、結構ダウンフォースが必要とされる区間です。そういったセクターでメルセデスはとにかく速かった。セクター1は長いストレート区間があるのでレッドブルに敵わないのですけど、最終のセクター3はマシン的には互角でしたが、予選ではフェルスタッペンが非常にうまくまとめてポールポジションを獲得しました。

 メキシゴGPの予選では、フェルスタッペンのブレーキングのうまさも際立ちました。メキシコGPはセットアップ的にもダウンフォースが少なくなり、さらに路面ミューが非常に低いサーキットなので、ブレーキングでクルマはどうしても不安定になります。そのなかでもフェルスタッペンはブレーキングでタイムを稼いでいました。その技がないと、4番手となったチームメイトのセルジオ・ペレスとほぼ同じ位置で予選を終えていたと思うので、フェルスタッペンは自分の技でメキシコGPのポールポジションを獲得しました。

 一方で気になるのがフェラーリの苦戦です。これはメキシコGPのサーキットの特殊性に起因しているのではないのかなと思います。アウトドローモ・エルマノス・ロドリゲスは標高2000メートル以上の高地で空気密度が小さく、いつとはダウンフォースの出方が違っていたり、低い路面のミューなどがマシンに微妙に悪影響を及ぼしたことが考えられます。

 また、空気密度が薄いこともあり、エンジンに空気を送るために通常より多くの開口部をマシンに開けていました。フェラーリパワーユニットを搭載しているチームは冷却系も厳しいということで、そういった部分も空力に悪影響があったかなと感じます。フェラーリPUを搭載しているチームはバルテリ・ボッタス(アルファロメオ)のみストレートスピードが速かったのですが、それはボッタスのうまさも出たのだと思います。

 ボッタスは今回、とても目立ったいましたが、同じアルファロメオの周冠宇を比較すると、周も決して悪いわけではありませんが、ボッタスがかなりうまく走行していました。スピードの乗せ方や縁石の使い方など、もともとボッタスはステアリングの切り方もすごく丁寧でマシンコントロールがうまいドライバーです。その丁寧な走らせ方が、路面ミューが低くダウンフォースの出にくいサーキットで生きたのではないのでしょうか。メキシコGPは縁石も高くて使い方がすごく難しいので、そのあたりの走らせ方も知っているのかなとも感じました。

 メキシコでは低速コーナーと高速コーナー両方の縁石の使い方がかなり重要になります。縁石で向きを変えてとにかく早くアクセルを踏みたいのですが、縁石に乗る角度が悪いとマシンが跳ねてしまうので、ほとんどのドライバーが手こずっていました。特に、ターン7〜9の高速S字コーナーで苦労しているとこが見えました。ターン7〜9は縁石を使わない場合はかなりの大回りを強いられるので、縁石を使わざるを得ないコーナーです。

 そこではフェラーリも何度か姿勢を乱していました。今年のフェラーリのマシンは回頭性がよくてアンダーステアが出にくい印象です。ですが、メキシコGPではシャルル・ルクレールが週末ずっとアンダーステアを訴えていて、それを消すために縁石を使う量を結構大きくしていました。そのために、縁石に乗りすぎて姿勢を乱すというシーンが何度もありました。本来であれば曲がりやすいフェラーリのマシンならそこまで縁石に乗る必要はないのですが、メキシコは路面ミューが低くダウンフォース量も少ないサーキットだったので、マシンがまったく曲がらずに縁石に乗る必要がありました。

 さらに、メキシコではフリー走行2回目にピレリの来季用タイヤテストも行われて、その影響も少なくなかったと思います。いわゆるレース仕様での走行時間が通常のレースよりも少なくなりました。持ち込みセットアップを外してしまうと、それを修正する時間がいつもより足りませんでした。フェラーリは持ち込みセットアップを外してしまい、それを修正しきれなかったことも苦戦した理由のひとつということも考えられます。

●分かれたタイヤ選択と、ガスリーを圧倒する走りを見せ続けた角田裕毅に必要なズルさ、図太さ


 決勝レースのスタートではポールのフェルスタッペンがソフトタイヤ、2番手、3番手のメルセデスがミディアムタイヤと、第1スティントのタイヤの選択が分かれました。見ている側としては面白くなりそうで大興奮でしたね。レッドブルはソフトスタートだったので2ストップで行くのだろうと思っていましたけど、結局は1ストップでした。レッドブル的には路面コンディションの悪い前半は、ミディアムに比べてソフトの方にアドバンテージがあり、もう少し引き離せるかと思いきや、ミディアムを履くメルセデスのペースが思いの外、ペースが良かった。

 そのメルセデスのペースを見て、レッドブルは序盤で逃げる2ストップ戦略を止め、ソフトを保たせる方向にドライビングを変えました。メルセデスを引き離せないと思ったレッドブルとフェルスタッペンは、ペースをコントロールすることで、どのパターンでも対応できるような流れに持っていきました。ミディアム装着のメルセデスは1ストップで、レッドブル側は序盤に思ったよりも差が開かないことがわかったので『2ストップでは勝てない』と思ったはずです。

 そのためにはスタートタイヤのソフトを保たせて1ストップに変更するしかありませんでした。そのためにはソフトをマネージメントしながら、とにかく後ろの(ルイス)ハミルトンを従えて走り続けることに集中しました。第1スティントの最後の方ではかなりタイヤが厳しそうでしたけど、何とかあのペースを維持できたのはフェルスタッペンの技だと思いますし、レッドブルはレースの展開を読むといいますか、流れを見極めるのが早かったです。

 また、レース中には路面コンディションも大きく変わり、これはメルセデス的には誤算となりました。ミディアムがあそこまで保つとは思わなかったはずです。第2スティントでレッドブルはミディアム、メルセデスはハードを選択しました。メルセデス的にはレッドブルは2ストップになると思っていたでしょうが、路面コンディションの改善で第2スティントのミディアムのペースが予想よりも落ちませんでした。

 メルセデスのもうひとつの予想外は、路面が良くなったにもかかわらず、第2スティントで選んだハードタイヤがまったく機能しなかったことです。これまでの実績からも、メルセデスはハードタイヤに絶対の自信があったと思うのですが、それが機能しなくなってしまった。

 本当にメルセデスにとってはスタートまでは完璧なはずの作戦だったけれど、ハードが思いの外機能しなかったこと、そして路面コンディションが改善されて、レッドブルのミディアムのペースが最後まで保ってしまったというふたつの想定外の事態がありました。メルセデスの作戦が間違っていたというわけではありません。第1スティントを見ていたときには『これはメルセデスが勝つのでは』と多くの人が思っていたはずですが、路面コンディションの改善で思いの外ソフトとミディアムが保ってしまったので、レッドブル的には勝利することができました。

 メルセデスはふたりのドライバーで戦略を分けるという選択肢もあったはずですが、レッドブルに対しての動きという部分で言うと、ハミルトンに関しては、トップ走行中の時点で判断することは少し難しかったと思います。レッドブルは2ストップだと序盤でメルセデスは踏んでいたと思いますし、そもそも後半のハードタイヤが機能すると思っていたはずです。ですがハードに交換したハミルトンのペースが思いの外上がらず、タイムが落ち始めたラッセルも結局その後すぐにピットに入りハードに交換してしまいました。ラッセルに関しては、最初のピットインをあと数周我慢して先にハードに替えたハミルトンのペースを見てから判断していたら、どうなったか分からなかったと思います。

 その点、ダニエル・リカルド(マクラーレン)がまさにそういった作戦で、ミディアムタイヤスタートで45周目までピットインを引っ張って、後半はソフトタイヤに交換しました。リカルドの後半の走りを見ていると決して悪い戦略ではありませんでした。

 そのリカルドはメキシコでは久しぶりにキレッキレの走りをしていましたけど、残念ながら角田裕毅(アルファタウリ)とターン6で接触してしまいました。裕毅にとってはいい走りをしてただけに、怒り心頭だと思います。実際ターン6はオーバーテイクのできるコーナーではないので、リカルドは間違いなく強引ではありました。ですが、リカルドはソフトで走りはじめたばかりでイケイケの状況だったということと、その手前のコーナーから裕毅はブロックのためにラインを潰していたのでターン5からの加速が圧倒的にリカルドは良かったです。

 こういったサーキットはレコードラインやクリッピングポイントを取らないと路面がすごく汚れています。ですので、後方を走行しているドライバーからしたら、逆に相手のラインを外したいという思いがあります。接触したときのように、インを牽制して入っていくことで裕毅のラインを潰すことができます。

 あのときの裕毅は、リカルドは入ってこないと思っていたはずです。リカルドが入ってきたときにミラーで見ていたら裕毅はあの角度でターンインしていかないはずです。もしミラー見ていたら、接触はしたと思いますけど、そこまでクルマは壊れることなく、そのまま走り続けることはできたと思います。そういった意味では、ターンインするところで『リカルドは来ないな』というような気持ちが裕毅にあったのだと思います。

 対するリカルドは百戦錬磨のドライバーですし、今年一番と言っていいくらいの勢いがある最中でしたけど、あの接触もブレーキングが間に合わずにぶつかってしまったというわけではありません。普通にマシンをコントロールしながらターンインしていました。結果としては、あのコーナーは追い抜ける場所ではなく本当に強引に行きすぎたことが第1印象でした。ただ、接触して裕毅はレースをリタイアしてしまった。いい走りをしていただけに本当にもったいないことをしました。

 ただ、今振り返ると、手前のコーナーを立ち上がったところで一度インにマシンを寄せて牽制していれば、リカルドのあそこで入ってくることはなかったのかなとも思います。レース後にそんなこと言っても仕方がないことで、瞬間の判断はそんなに簡単なことではありません。それでも今後に向けて裕毅の方で何かやれることがあるとしたら、ターン6は追い抜きのポイントではないけれども、万が一のことを考えて、その手前のコーナーを立ち上がったときに、一度しっかりインに寄って後ろのリカルドに『入れさせないよ』と牽制するべきでした。

 今回の接触は裕毅が悪いという話ではなく、今後に向けて同じような場面は起きると思いますし、強引に入ってくるドライバーも絶対にいると思います。今回は結果論なのでこうして言うことができますけど、何よりレーシングドライバーとしてはリタイアは避けなければなりません。

 裕樹と同じような場面で、エステバン・オコン(アルピーヌ)は同じようなバトルをしているときには、しっかりとブロックラインを通っていました。同じようにインに寄って自分の方が加速しないことは分かっているので、出口でわざとゆっくりと加速して抜かされないような走りをしていました。そういった図太さやズルさというのは今後、裕毅がさらに上に上がっていくためにはあってもいいのかなと思います。今回はリカルドが強引だったということもあるのですけど、それだけだと成長していくことはできません。厳しい見方をすると、そういったことも必要だと僕的には思います。

 それでも裕毅はアメリカとメキシコに関してはチームメイトのピエール・ガスリーを上回る走りをしていたので、この2連戦は本当に100点に近い仕事をしてきていると思います。この2年間、F1の舞台で走り、本当の意味で成長していることが誰でも分かるような走りを見せています。今回のリタイアは悔しいと思いますけど、この結果をいろいろな意味でプラスにしてほしいですし、そういった意味も込めて僕的には少し厳しめのコメントをしています。調子がいいときだからこそ、次回はさらに上を目指して欲しいですね。




中野信治(なかのしんじ)
1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長として後進の育成に携わり、F1インターネット中継DAZNの解説を担当。
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