大きな責任を担うF1チーム首脳陣は、さまざまな問題に対処しながら毎レースウイークエンドを過ごしている。チームボスひとりひとりのコメントや行動から、直面している問題や彼のキャラクターを知ることができる。今回は、アルファロメオのチーム代表フレデリック・バスールに注目した。

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 時々こう思うことがある。「F1のチーム代表を務めたいと思う人間がなぜいるのだろう」と。F1チームを運営するプレッシャーはただでさえ大きいが、長く疲弊するシーズンの終盤に、何百万ドルもの賞金をかけて戦わなければならないのだ。本当にきつい仕事だ。

 コンストラクターズランキング争いの注目は上位戦いに集まりがちだが、少ない予算のなかで参戦している中団チームにとっても、ひとつでも上でシーズンを終えて、できるだけ多いプライズマネーを手に入れることが極めて重要だ。

 シーズン終盤、アルファロメオ代表フレデリック・バスールは、コンストラクターズ選手権6位をめぐって戦うアストンマーティンとのポイント差が少しずつ減っていくなかで大きなプレッシャーを感じていたに違いない。第19戦アメリカGP終了時点でついにその差は3点に縮まったのだ。

 メキシコ、ブラジルでバルテリ・ボッタスが10位と9位を獲得したことで、ブラジルGP後の時点で選手権6位のアルファロメオは、アストンマーティンとの差を5点に広げて、最終戦に向かうことができた。だが、シーズン終盤はアストンマーティンのマシンの方が速かったため、最終戦で逆転される恐れは十分にあった。

 それでなくてもプレッシャーが高まる最終戦で、バスールは他の問題も抱えていた。イタリアメディアが、アブダビGP直前に、フェラーリのマッティア・ビノット代表が更迭され、バスールが後任として選ばれる見込みだと伝えたのだ。フェラーリはこれを否定する声明を発表したものの、当然のことながら、ビノットとバスール、そしてそれぞれのチームは、メディアから質問攻めに遭った。バスールは報道陣を避け、この報道に驚いたアルファロメオのチームメンバーたちの動揺を沈めなければならなかった。

 難しい状況のなかでバスールは見事にチーム内の集中力を取り戻した。決勝中、周冠宇がセバスチャン・ベッテルとランス・ストロールを可能な限り抑え続けたことも助けとなって、アルファロメオはノーポイントながら、ランキング6位を守り切ったのだ。

 フェルナンド・アロンソとルイス・ハミルトンがリタイアしたことで、レース終盤、ストロールは8番手、ベッテルは10番手に繰り上がった。これ以上ポジションを上げられてしまったら、選手権6位の座はアストンマーティンに奪われてしまう。バスールをはじめとするチーム首脳陣には、祈りながら展開を見守ることしかできなかった。ベッテルが前を行くダニエル・リカルドを抜いたらすべてが終わる。リカルドが9位を維持してくれれば、アルファロメオのランキング6位が確定する……。

 結局、リカルドはベッテルを抑えきってフィニッシュ、一躍アルファロメオのヒーローになった。アルファロメオとアストンマーティンは同点。しかしボッタスがイモラで5位を記録したことで、アルファロメオが6位の座を射止めた。

 プレッシャーから解放されたバスールは、チームメンバーたちを約束どおり港に飛び込ませて、自分は皆の携帯やパスを預かって、ずぶぬれではしゃぐ彼らを見守りながら笑っていた。



 レース後、バスールは自分の将来についての質問は受け付けなかった。チームの喜びに水を差したくなかったからだ。間違いなく彼はザウバーにおいて誇るべき成果を築き上げた。2026年にアウディと提携することが決まり、チームの将来は明るい。バスール自身がその時もこのチームにいて、ステップアップするチームを率いているのかどうかは、いずれ明らかになるだろう。