ハイパーカーデビューを飾る51歳のジャック・ビルヌーブ。ヴァンウォールは「90年代のF1マシンを思い出す」
■「ストレスを感じているヒマはない
1997年のF1ワールドチャンピオンであるビルヌーブは、トム・ディルマン、エステバン・グエリエリとともに4号車ヴァンウォール・バンダーベル680で3月17日のセブリング1000マイルに出場し、WECへのデビューを果たすことになっている。
長年にわたって部分的にレースに参戦するだけだった彼は、今回フロイド・ヴァンウォール・レーシングチームのドライバーとして起用されたことにより、レース活動へフルタイム参戦で戻るという野望を実現することができたと語った。
現在51歳のビルヌーブは近年、デイトナ500に参戦する一方で、NASCARウェーレン・ユーロシリーズ、イタリアGT選手権、ポルシェカレラカップ・スカンジナビアなどのレースにも参戦してきた。
「何年もの間、僕はあちこちのレースをこなすだけだった」とビルヌーブは言う。
「優勝したこともなければ、チームと完全に協力したこともない。それが、僕がずっとやりたかったことなんだ、完全にやり遂げたいんだ」
「NASCARに挑戦していたときは、あちこちでほんの数レースに出ただけだった。(単発のレースで)いきなりマシンに乗り込むというのは、いつも少し違ったものになってしまうんだ」
「(クルマが)自分に合っていて速さを発揮できるか、またはそうでないかのどちらかしかない。自分が望むようにするために努力する時間というものがないんだ。だからこそ、フルシーズンプログラムに参戦できてうれしかった」
彼はF1だけでなく、アメリカのレースでも豊富な経歴を持ち、インディ500も制しているが、セブリング・インターナショナル・レースウェイにおけるレース経験はなく、難しい状況へと飛び込んでいる現状を認めている。
「インディーカーのテストではセブリングを走ったけど、それは古いコースで、タイトなヘアピンの後にちゃんとした左右のシケインがあるものだった」とビルヌーブ。
「そのコースのことは知っているけど、この耐久レース仕様に存在する3つか4つの追加コーナーのことは知らない。ただ、バンピーであることは分かっているし、暑くなるということも知っている」
「ひとたびそこに放り込まれたら、ストレスを感じているヒマなどない。でも大丈夫、トムとエステバンはたくさんこのクルマを走らせてきてから、いいベースを見せられるはずだ」
プロローグでは147周の周回にとどまり、タイムでも上位から離される状況のなか、ビルヌーブはこれから始まるシーズンの目標に明るい気持ちを持ち続けている。
「自分が何をしたいのか、そして何がしたいのか、それは前方で戦えるようになりたいということだ」と彼は語った。
「目標はチャンピオンシップとル・マンだが、自分たちの立ち位置はまったく分からない」
「何か問題があった場合、僕らは小さなチームなので、大きなチームと比べるとそれに対処するのは難しくなる」
■バンダーベル680は「手に余る」
ビルヌーブはまた、ヴァンウォールのギブソンV8エンジン搭載ハイパーカーは、現代のF1マシンと比較した場合、より運転が難しい車であると述べている。
彼は昨年、世界タイトル獲得から25周年を記念したテストで、2021年のF1マシン、アルピーヌA521をドライブしている。
バンダーベル680についてビルヌーブは「運転は手に余るもので、刺激的なものだった」と語った。
「9月にアルピーヌのF1マシンを運転したが、あれはこれより運転しやすいクルマだった。F1マシンは、高速リムジンを運転しているようだった。WECのマシンに飛び乗ったとき、90年代の古いF1マシンを思い出したよ」
「実際、ずっとクルマと戦っていたし、少し不安定だったから、大変だった。それは多くのセットアップ作業を意味するけど、それは楽しいものだった」
ビルヌーブは10年以上プロトタイプレースから遠ざかっており、プジョーから参戦した2008年のル・マン24時間レースで総合表彰台を獲得したのが最後の参戦となる。
長期のキャリア中断にもかかわらず、開幕戦の1000マイル(8時間)レースでは比較的早くスピードを取り戻せると彼は期待している。
「同じようなレース、同じようなクルマで走ることになる」とビルヌーブは指摘する。
「耐久レースで最後に大きな勝利を挙げたのは、ル・マン前にプジョーから出場したスパのレースだった」
「アルピーヌF1を走らせたときにも感じたことだが、記憶がよみがえるんだよ。F1マシンに乗っていて、第1コーナーに差し掛かったら、数秒後にはすべてが自然になっている。同じようなことを(スポーツカーでも)期待しているんだ」