2023年のWEC世界耐久選手権第3戦スパ・フランコルシャン6時間レースは、4月28日金曜にベルギーのスパ・フランコルシャンサーキットで、フリープラクティス3、および予選のセッションを行なった。

 赤旗中断もあった予選では、トヨタGAZOO Racingの7号車GR010ハイブリッドをドライブする小林可夢偉が最速タイムをマークし、決勝を先頭からスタートすることとなった。

 予選を終えたスパのパドックから、各種トピックスをお届けしよう。

■ストフェル・バンドーンがプジョーに帯同

 93号車プジョー9X8をドライブするジャン・エリック・ベルニュは、予選でもっと速いタイムを出すことができたが、大きくポジションを上げるほどではなかったと見ている。93号車はトップから2.4秒おくれの予選9番手だった。

「これ以上(ポジションが)よくなるとは思っていなかった」と彼は語った。

「公平に言っても、おそらく僕のラップにはかなりのロスがあったが、それはコンマ5秒以上ではなかった。タイヤ性能のベストラップでイエローフラッグが出て、ポルシェのトラフィックがあったんだ」

「その後のラップはクリーンだったが、タイヤのパフォーマンスはもう失われていたよ」

 なお、今年2月に発表されたリザーブドライバーとしての役割の一環として、今週末はストフェル・バンドーンがプジョー・トタルエナジーズチームに帯同している。

■初陣のハーツ・チーム・JOTAが健闘

 ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツは、6番手および10番手となった予選でのパフォーマンスを「不思議なこと」であると表現した。

「我々はハッピーか? いや、我々が望んでいたところではない」とファクトリーLMDhディレクターのウルス・クラトレは語った。

「ライバルたちのタイヤ選択を理解する必要がある。誰がソフトタイヤを履き、誰がミディアムタイヤを履いていたのかが分かれば、全体が見えてくる」

 木曜日のフリープラクティス2でアンドレ・ロッテラーの6号車ポルシェ963を襲ったハイブリッドシステムの問題は、クラトレによるとさらなる分析が必要とのこと。

「ハイブリッドシステムのパートナーであるボッシュとウイリアムズと連絡を取りながら、何が起こったのかを探っているところだ」

「これは我々がこれまでに経験したことのないものであり、おそらくボッシュやウイリアムズ、またはそれらのコンポーネントとは関係ない。 クルマかサーキットか、どちらかに関係しているものだ」

 クラトレはまた、ウィル・スティーブンスがアタックし、6番手のファクトリーカーからコンマ6秒遅れの7番手で予選を通過した、カスタマーチームのハーツ・チーム・JOTAのパフォーマンスを賞賛した。JOTAはこの週末、納車されたばかりのポルシェ963で初レースに臨んでいる。

「JOTAのみんなは、我々のカスタマーカーでスタートしたばかりなのだから、本当にいい仕事をしてくれた。おめでとうと言いたい」

 ハーツ・チーム・JOTAのチーム代表であるディーター・ガスは、38号車が8日前に初めてロールアウトしたばかりであることを考えると、スティーブンスの予選結果は「とても立派なもの」であると述べている。

■“ゴールドの2台”の見分け方
 今回からのハイパーカークラスへのエントリーにより、LMP2と2クラスで戦うことになったJOTAは、38号車ポルシェ963と、28号車オレカ07・ギブソンの『見分け方』をSNS上で公開した。

 ハーツやシンガーなど、各種スポンサーロゴが異なるほか、ハイパーカーでは黒く塗られたバックミラーがLMP2では赤に、またハイパーカーでは黒色のホイールナットがLMP2では黄色となる点などが、識別ポイントとして指南されている。

■ポルシェ963の特別リバリー公開

 予選後、ホームストレートではル・マン24時間レース向けのポルシェ963の特別リバリーがアンベイルされた。

 ポルシェのWECドライバーに加え、IMSAウェザーテック・スポーツカー選手権でのポルシェのエース、フェリペ・ナッセもこの公開に立ち会った。ナッセはル・マンで追加される75号車をドライブする。

「僕はそもそもにヨーロッパにいたので、みんなはどうしてるかなと思って立ち寄ったんだ」とナッセ。

「(カラーリングは)とてもユニークで、ポルシェがル・マンで走った非常に伝統的なクルマに回帰するというのが、すべてのアイデアだと思う。ポルシェの75周年とル・マンの100周年を祝う、とてもユニークな機会だよね」

■マックス・ウエイトの悲哀

 コルベット・レーシングは、33号車シボレー・コルベットC8.Rが搭載する45kgのサクセスバラストの効果を実感している。ベン・キーティングは、GTEアマ予選でこのクルマを4番手につけた。

 ニッキー・キャツバーグは、「僕らはそれで苦労しているが、彼ら(オーガナイザー)は理由があってこの仕組みを導入したのだ」と語っている。

 ウエイトが最も効く場所について、キャツバーグは次のように説明した。

「すべての加速ゾーンだ。セクター2が僕らにとってのベストセクターだと思うけど、最終コーナーの立ち上がり、ターン1の立ち上がり、上り坂……加速ができないんだよ。重すぎるんだ。それが僕らを苦しめている。でも、ピットストップや戦略を考えれば、いい結果を残せると思う」

 なお、45kgはGTEアマ車両が搭載できるサクセスバラストの最大量である。15kg、10kg、5kgのバラストは、前戦の上位3名、その前のレースの上位3名、チャンピオンシップランキングの上位3名に与えられる。

■フェラーリの交換用シャシーがイタリアから到着

 走行初日の木曜日にクラッシュしたLMGTEアマのAFコルセ21号車フェラーリ488GTE Evoの代替シャシーは、イタリアからの長旅ののち、金曜日の15時30分頃にパドックに到着した。

 車両は準備中のため予選は欠場したが、ディエゴ・アレッシ/ユリス・デ・ポー/シモン・マンは土曜日の決勝レースに参加する予定だ。

 チームマネージャーのロン・ライヒェルトは、フリープラクティス2で衝突した21号車と54号車のフェラーリをレースに使えるようにするために尽力したAFコルセのメカニックを賞賛した。

 彼はまた、21号車のクルーが木曜日の夜に54号車のクルマの修理を手伝い、54号車のクルーは今晩その“お返し”をする予定であると語っている。

■カツカツで911を運用するプロトン

 チーム・プロジェクト1は、予選でのラディヨンでのアクシデントにより、レースへ出場を断念した。彼らがスパで撤退するのは、2年ぶり2度目となる。

 今回の56号車ポルシェ911 RSR-19のPJ.ハイエットの事故は、2021年にエジディオ・ペルフェッティが予選でクラッシュした場所と同じ場所で発生した。

 また、プロトン・コンペティションは、先週バルセロナで行われたヨーロピアン・ル・マン・シリーズのレース中にポルシェ911 RSR-19の1台を失ったため、6月のル・マン24時間に向けたシャシー割り当てについて「限界に達している」という。

 チームのボスであるクリスチャン・リードは、ポルティマオのオープニングラップで複数の車両が絡む事故に巻き込まれ、77号車に大きなダメージを受けた。

「(あの)シャシーはダメになってしまった」とリード。「ポルシェからシャシーを調達するのに苦労しているんだ。(WEC開幕戦)セブリングでは(ライアン・)ハードウィックが1台失い、今回はこの1台だ」。

 プロトンは現在、ル・マンに出場する6台(自社で4台、アイアンリンクスで2台)すべてにクルマを提供することができるが、その間に1台が大きなダメージを受けた場合、問題が発生する可能性があると、リードは付け加えている。

■『三度目の正直』か『二度あることは三度ある』か

 アクシデントがあったセブリング、ブレーキ・バイ・ワイヤの問題があったポルティマオと思うようにいかないレースが続いているフェラーリAFコルセの51号車フェラーリ499P陣営。アレッサンドロ・ピエール・グイディは「クリーンなレースをするのが待ちきれない」と語っている。

 ル・マン前最後のレースとなるスパで、トラブルなく走ることがいかに重要かという質問に対して、ピエール・グイディはこう答えている。

「それはそのとおりだが、ル・マンがチャンピオンシップを左右することは周知の事実だ」

「僕らはそこで、できる限り競争力を発揮したい。正直なところ、ル・マンに勝つことができれば、他のすべてのレースを失ってもいい」

 なお、パフォーマンス、シミュレーション、テクニカルレギュレーションマネージャーのマウロ・バルビエリによると、フェラーリは499Pの将来のジョーカー・アップデートの可能性を「すでに研究中」だという。

 しかし、彼らはシーズン後半になるまで変更が必要かどうかを判断するつもりはないようで、バルビエリは次のように語っている。

「何かを決める前に、もう少しレースをこなし、マシンを適切な方法で機能させていることを確認する必要がある」

■2024年に向けBMWも準備万端

 BMW Mモータースポーツ・ディレクターのアンドレアス・ルースは、スパのパドックに姿を見せている。

 2024年からWECハイパーカークラスに参入するのBMW Mチーム WRTは、来月からBMW Mハイブリッド V8のテストを開始する予定だ。

 また、BMWファクトリードライバーのマキシム・マルタンもスパに姿を見せている。彼は過去にアストンマーティンのGTE車両で2シーズンWECを戦い、2019年にはスパでGTEプロクラスを制している。

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 WEC第3戦スパ・フランコルシャン6時間レースは、29日土曜日の12時45分(日本時間19時45分)にスタートが切られる。