4月29日、ベルギーのスパ・フランコルシャンサーキットで2023年WEC世界耐久選手権第3戦『スパ・フランコルシャン6時間レース』が行われ、トヨタGAZOO Racingの7号車GR010ハイブリッド(マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ホセ-マリア・ロペス)が終始安定したレース運びで優勝を飾った。

 シリーズのハイライトとなる6月の第4戦ル・マン24時間を控えた今回のスパ戦には、新たに3号車キャデラックVシリーズ.R(キャデラック・レーシング)と38号車ポルシェ963(ハーツ・チーム・JOTA)が参戦し、最高峰ハイパーカークラスは13台で争われた。

 スパならではの不安定かつ低温なコンディション、ピットアウト直後のコールドタイヤが影響したクラッシュなどにより、レースは荒れ模様となったが、トヨタ7号車はスタートタイヤを適切に選択し、その後も危なげない走りで今季2勝目を飾った。

 全車がオレカ07・ギブソンのパッケージで争うLMP2クラスは、最終盤まで僅差の上位争いが展開されるなか、チームWRTの41号車(ルイ・アンドラーデ/ロバート・クビサ/ルイ・デレトラズ)がクラス優勝を飾った。

 LMGTEアマクラスは、リシャール・ミル・AFコルセの83号車フェラーリ488 GTE Evo(ルイス・ペレス・コンパンク/リル・ワドゥ/アレッシオ・ロベラ)が制し、木村武史のケッセル・レーシング57号車フェラーリ488 GTEエボはクラス8位、星野敏・藤井誠暢が乗り込んだDステーション・レーシングの777号車アストンマーティン・バンテージAMRは序盤に好走を見せるもクラス10位でレースを終えている。

 ハーフウエットの微妙なコンディションで現地時間12時45分に始まった6時間レースは、序盤こそウエットタイヤスタート勢に有利だったものの、すぐにスリックタイヤ勢優勢のコンディションとなり、スリックでスタートした7号車トヨタがレースを支配。

 最初のルーティンピットを終えると、首位7号車から約30秒後方の2番手に3号車キャデラックVシリーズ.R、そこから20秒後方の3番手に予選ノータイムのため最後方からスタートした8号車トヨタ、その5秒後方に6号車ポルシェというトップ4となるが、6号車ポルシェがペースを上げて8号車のセバスチャン・ブエミを逆転し、3番手に立つ。

 この後、2番手のキャデラックがステアリングのトラブルからオー・ルージュで大クラッシュ。さらに6号車ポルシェにもトラブルが発生し、上位勢が相次いで戦線を離脱してしまう。

 レース折り返しとなる3時間経過時点では、ホセ-マリア・ロペスがステアリングを握る7号車トヨタが大きくレースをリード。平川亮の8号車が2番手に続き、3番手には5号車ポルシェ963が浮上してきていた。

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■50号車フェラーリがコールドタイヤの餌食に

 スタートから3時間10分ほどのところでデブリ回収のためFCY(フルコースイエロー)が導入。首位のトヨタ7号車はこのタイミングでルーティンのピットを行う。次の周には8号車平川もルーティンストップ。2スティント目へと突入していく。

 3時間30分が経過したところで、ジャック・ビルヌーブがドライブする4号車ヴァンウォール・バンダーベル680が、LMGTEアマクラスのAFコルセ54号車のフランチェスコ・カステラッチとターン16で接触。セーフティカーが導入される。

 これで7号車と8号車のギャップは数秒にまで詰まり、この時点で3番手以下は全車が周回おくれとなる。

 3時間49分でレースが再開されると、50号車フェラーリのミゲル・モリーナと2号車キャデラックのアレックス・リンによる4番手争いが接近戦に。4台ほどが数珠つなぎとなる瞬間もあるなか、やがて50号車フェラーリが3番手に浮上。さらに51号車も2号車をパスし、残り1時間50分というタイミングでフェラーリが3&4番手へと順位を回復してくる形となった。

 ここで首位7号車がルーティンピットに入り、可夢偉へとドライバーチェンジ。ピットアウト後、次の周のターン1へのブレーキングではロックアップする場面も見られた。

 7号車から遅れること3周、暫定首位に立っていた8号車平川がピットへと向かい、ブレンドン・ハートレーへとマシンを託す。7号車の前でピットアウトしたハートレーだったが、コールドタイヤではポジションは守れず、可夢偉にトップの座を明け渡すが、2台は数秒の差で周回を続ける。ピットシークエンスがオフセットしている2台のフェラーリは、ハートレーの13秒ほど後方だ。

 4時間23分、3番手でルーティンピットに飛び込んだ50号車フェラーリが、ピットアウト直後にオー・ルージュへと向かう下りで突如コントロールを失い、左側のガードレールに激しくクラッシュ。コース上に戻ってストップしたため、セーフティカー導入となってしまう。自力でマシンから降りたアントニオ・フォコは、コース脇で頭を抱えた。

 このとき、4番手の51号車フェラーリはピットへと向かっていたものの、エマージェンシー給油しか許されず、4番手へと順位を落とした上に改めてフルサービスのピットが必要となってしまう。

 これにより、2号車キャデラックがまたしても3番手へとポジションアップを果たし、さらにセーフティカーを利用してトヨタ2台とのギャップも縮めることに成功した。

■最終ラップに3位が入れ替わる

 4時間42分のところでセーフティカーが解除となると、3番手の2号車、4番手の51号車らはそのままピットイン。これにより、5号車ポルシェのフレデリック・マコウィッキが3番手へとポジションを上げた。

 前方では首位7号車の可夢偉に、8号車のハートレーがコンマ差でくらいつく展開となる。

 残り47分、ハートレーに対し5秒弱のリードを保ったまま、首位7号車の可夢偉が最後のピットイン。燃料補給とタイヤを交換してコースへと戻る。続いてハートレーがピットへと向かい、給油と左側2本のタイヤを交換してピットアウト。ラディヨンの頂上でアウトラップのハートレーに追いついた可夢偉は、右側のコース外からパスし、首位の座を奪い返した。

 この走路外走行が審議対象となり、ファイナルラップに入ったところで7号車に対し「走路外から8号車をオーバーテイクした」として、「次のピットストップで静止時間5秒追加」というレースコントロールの文字情報が流れるも、最終ピットストップを終えていた7号車にこのペナルティを消化する機会はないまま、フィニッシュ時間を迎えた。

 可夢偉は最終スティントでハートレーとの差をじりじりと広げ、トップチェッカー。7号車は開幕戦セブリングに続く今季2勝目を飾った。なお、8号車は当初、16.637秒差の2位でチェッカーを受けたが、チェッカー後40分経過時点では、タイミングモニター上で2台のギャップが11.637秒へと改められていた。その後、正式結果上でも7号車はレースタイムに5秒が加算されたが、順位に変動はない。

 3位争いは終盤、5号車ポルシェのマコウィッキに51号車フェラーリのジェームス・カラドが急接近。最終ラップのケメルストレートエンドでオーバーテイクに成功し、51号車が3位表彰台を得ることとなった。

 4位に5号車ポルシェ、5位に2号車キャデラック、6位に38号車ポルシェが入っている。

■LMP2は最終盤まで接戦が続く

 クラスポールからスタートしたのは、ユナイテッド・オートスポーツ23号車のトム・ブロンクビスト。しかし4周目にセーフティカーが導入されたときは、プレマ・レーシング63号車のドリアーヌ・パンが首位へと浮上、ユナイテッド23号車、チームWRT31号車と続くトップ3のオーダーとなっていたが、リスタートでブロンクビストが首位を奪い返す。

 3スティント目に入ると、23号車は後続に40秒以上の大きなギャップを築き、2番手にはインターユーロポル・コンペティションの34号車が浮上するが、3番手以下はプレマ63号車、WRT31号車、WRT41号車、ユナイテッド22号車、プレマ9号車、JOTA28号車らによる混戦模様となる。

 2時間経過を前にしたセーフティカーにより23号車のリードは霧散するが、再開後もブロンクビストは首位をキープし、2時間が経過した直後に自身のスティントを終えた。

 各車が3回目のストップを終えると、WRT31号車のロビン・フラインスが首位に浮上するが、その背後にはJOTA28号車のピエトロ・フィッティパルディがピタリとつける展開に。

 3時間経過目前、31号車のハプスブルクが41号車デレトラズをパスし、実質の首位に浮上するが、その後JOTA28号車のオリバー・ラスムッセンが首位を奪う。

 さらに5時間目のセーフティカー解除後、ケメルストレートエンドでプレマ63号車がトップに立ち、背後に31号車を従える格好に。残り1時間10分の時点でもトップ6が11秒以内にひしめき、最終盤の激戦を予感させた。

 残り38分、最終バスストップシケイン進入で41号車ルイ・デレトラズが31号車フラインスをオーバーテイク。この2台の背後に迫り、実質上位争いに加わっていたプレマの63号車には、SC手順違反により3分のストップ&ゴーペナルティが発出され、戦線離脱となってしまった。

 残り32分、暫定首位のプレマ9号車アンドレア・カルダレッリが最後のピットへ。3番手へとポジションを下げる。これでユナイテッドの23号車が暫定トップに立ち、ここに41号車のデレトラズがコンマ差にまで追いつくと、残り12分で2台は同時にピットインする。

 ここで41号車が先にピットを離れ、逆転に成功。2台はともに9号車の前でコースへと復帰すると、デレトラズは数秒のギャップを作り、安全圏へ逃げ切った。

 しかしその後方では、9号車カルダレッリはタイヤが厳しくなったか最終盤にペースが落ち、背後から迫ったインターユーロポル・コンペティションの34号車に3位の座を明け渡してしまった。

 カルダレッリはクラス4位でフィニッシュ。5位にユナイテッド22号車、6位にはWRT31号車が入っている。

■LMGTEアマ:最終ラップまで続いた白熱の2位争い

 日本勢では、クラス8番手スタートの777号車アストンマーティン・バンテージAMRでは藤井が、ケッセル・レーシングの57号車はクラス9番手から木村武史がスタートを担当したLMGTEアマクラス。

 4周目のセーフティカーまでに、コルベット・レーシング33号車シボレー・コルベットC8.Rのベン・キーティングがクラス首位、その背後の2番手には藤井の777号車がジャンプアップを果たしてきた。木村もこの時点で5番手へとポジションを上げている。

 藤井はさらにリスタート直後にキーティングをパスし、クラストップに浮上。開始1時間のところで藤井がピットへ入ると、暫定首位にはアイアン・デイムスの85号車ポルシェ、サラ・ボビーがポジションを上げ、2番手にはポールポジションからスタートしたORT・バイ・TFの25号車アストンマーティンがつける展開となった。

 777号車は2スティント目も藤井が走行を続け、ふたたびポジションを回復。ボビーをパスし、自力でクラス首位を奪い返した。

 3号車キャデラックのクラッシュによりセーフティカーが導入されると、いくつかのチームが5秒間の燃料補給のみが許されるエマージェンシーストップを行った。

 再開後、首位を走る藤井にまさかのストップ&ゴー・ペナルティが下る。ボビーを1コーナー立ち上がりでパスする際に、接触したことに対してのペナルティとなった。

 このあと、3時間経過時点では、リシャール・ミル・AFコルセの83号車フェラーリ488 GTE Evo、2番手にはプロトン・コンペティションの88号車ポルシェ911 RSR-19がつけ、3時間30分過ぎのセーフティカーでは3番手にアイアン・デイムス85号車が浮上。

 その後は2番手に33号車キャデラックが再浮上を果たしてくる。レース終盤も83号車がクラス首位を堅持する一方、残り10分を切って2番手コルベットのニッキー・キャツバーグに25号車アストンマーティンのチャーリー・イーストウッドが接近。最終ラップまでテール・トゥ・ノーズの白熱の争いとなるが、ポジションは変わらず。

 この結果、83号車フェラーリがクラス優勝、コルベットが2位、3位に25号車アストンマーティンとなった。

 なお、クラス9位でフィニッシュしたDステーション・レーシングの777号車アストンマーティンは、キャスパー・スティーブンソンのドライブタイムが最低運転時間の1時間45分に届かず、審査委員会の裁定により不足分の1分17秒549が競技結果に加算された結果、正式リザルトでは10位へと順位を下げている。

 2023年のWECはこれで3レースが終了。次戦はいよいよフランス、ル・マンで行われる24時間レース。第1回の開催から数え100周年の記念イベントは、大きな盛り上がりを見せることが期待される。