WEC世界耐久選手権第3戦スパでアントニオ・フォコが起こしたアクシデントを受け、フェラーリは、今季シリーズに導入された『タイヤウォーマーの使用禁止』規則に対し、懸念を表明した。

 フォコは6時間レースの5時間目、ミシュランのスリックタイヤを履いてピットアウトした直後、スパ・フランコルシャンサーキットの名物コーナー『オー・ルージュ』へと向かう下り坂で50号車フェラーリ499Pのコントロールを失った。

 マシンはコース左側のバリアへとクラッシュし、スピンしながらコース上へと戻って停止した。この事故により、第1戦セブリング、第2戦ポルティマオで連続表彰台を獲得していたフォコ/ミゲル・モリーナ/ニクラス・ニールセンは、第3戦のレースからリタイアすることとなった。

 フェラーリのスポーツカー・レーシングディレクター、アントネッロ・コレッタはレース後、タイヤを予熱しておく行為の禁止は「安全性に大きな影響を与える可能性ある」と警告した。

「ルールは誰にとっても同じであり、それを遵守するという前提から出発して、タイヤウォーマーの禁止について我々はじっくりと考えるべきだと思う」とコレッタ。

「この状況が危険なものとなっていることは、ドライバーはもちろん、パドックや専門家の間でも共通の意見だ」

「スパでは、低温や変わりやすい天候の影響を受けた事故や極端な事例が多く、安全性に大きな影響を与えているため、この問題について真剣に考える時期に来ている」

「我々はル・マン24時間という決定的なレースの直前にいる。ル・マンでは夜の間に気温が下がり、しかもスピード域が極めて高い」

 スパでコールドタイヤでトラブルに見舞われたル・マン・ハイパーカーは50号車フェラーリだけではない。予選ではコースイン直後の8号車トヨタGR010ハイブリッドのブレンドン・ハートレーもクラッシュを喫している。

「我々だけの問題ではない」とコレッタは続ける。

「これらのアクシデントは、異なるクラス、異なるクルマ、プロとジェントルマンの両方が運転していたものであり、この状況は少し前から予測されていたことだ」

■FIAとミシュランの見解

 WECのオーガナイザーであるFIA国際自動車連盟とACOフランス西部自動クラブは、ハイパーカー/LMGTEアマへタイヤを供給するミシュラン、LMP2に供給するグッドイヤーの協力を得て作成した開発ロードマップの一部として、今季のシリーズではタイヤウォーマーが禁止された。

 この措置は、持続可能性の観点から、発電機を用いるタイヤウォーマーから発生するエネルギーを削減するために実施されたものと理解されている。

 FIAサーキットスポーツ担当ディレクターのマレク・ナワレッキは、次のように述べている。

「タイヤを加熱することからの脱却は、持続可能性の観点から非常に必要なステップであり、FIAエンデュランス・コミッティが長期的なWECタイヤロードマップの一部として合意したものである」

「すでに何年も前から、タイヤウォーマーに頼らないモータースポーツシリーズが、耐久レースシリーズを含め、世界中にいくつか存在することを忘れてはならない」

「すべての事故の性質は異なっており、結論を出す前にそれぞれのケースを調べる必要がある」

 ミシュランはスパ戦の週末、ハイパーカーのタイヤラインアップを拡充し、セブリングやポルティマオで使用されたものよりソフトな第3のコンパウンドを投入した。この仕様は、ソフト・コールド(あるいはソフト・ロー・テンプ)とも呼ばれ、低温になることが多くタイヤを温めることが難しいサーキットということで、スパに持ち込まれた。

 フェラーリは、フォコがクラッシュしたときに使用していたコンパウンドについて明らかにしていない。

 ミシュランの耐久レースプログラムマネジャーであるピエール・アルベスは、FIAとACOがタイヤウォーマーを禁止するという決定を下したことについて、ミシュランは「この決定に向けて動いた」と語った。

「彼ら(FIAとACO)は、加熱せずに機能するタイヤを作るよう求めてきた」と彼は言った。

「それが、我々のやってきたことだ。もし(競技者が)ウォームアップに問題を抱えているならば、彼らはよりウォームアップを助けるタイヤを使わなければならない」

「我々は解決策を持っている。それはチームの選択、および戦略の問題である」