5月3日に静岡県の富士スピードウェイで行われた2023年スーパーGT第2戦の予選。3月末の富士での公式テスト、そして第1戦岡山がいずれも雨絡みのコンディションとなったため、多くの陣営にとっては久々のドライ路面での走行となった。また、「ドライの富士を走るのは今年初」となったチームもあった。

 そんななか、周囲からも、そして当事者にとっても注目だったのが、車両にモディファイを施してきたGT300規定陣営のパフォーマンスだ。

 今季からスーパーGT・GT300クラスを走るGT300規定の車両には、フロアとボディに関して『2023年規定』が導入された。

『スーパーGT公式ガイドブック2023』で詳解されているとおり、フロアではフラットボトムの面積が縮小され、フロントにキール形状のアイテムの設置が許可、リヤ側では傾斜プレート(ディフューザー)の立ち上がりポイントが前進するなど、基本的な空力性能は上がる方向の反面、これまで“グレーな領域”だったリヤホイールハウス底面内側のスペースが傾斜プレートとして規定されたため、その部分のいわゆる“トリックディフューザー”で稼いでいた”車両にとってはマイナスともなりうる規定変更だ。

 また、ボディ上面では『基本車両と同様の外観を維持する』方向の規定が盛り込まれ、“レーシングカーならではの空力追求”という面では、やや牙が抜かれてしまった感もある。

 これら新規定はボディ、フロアのふたつの領域ごとに採用するかどうかが各チームの判断に委ねられたが、ふたつのうちいずれかが2022年規定のままで参戦する場合、2023年シーズン中のアップデートが許されないことになっている。

 このため、各陣営はそれぞれのアプローチでこの規則に完全に適合させたり、一部を見送ったりしている。ここでは、予選で上位に食い込んだGT300規定車両のうち、3台の状況を取材した。

 予選11番手となったSyntium LMcorsa GR Supra GTでQ1を担当した河野駿佑は、2023年仕様に合わせたGRスープラの仕上がりに手応えを感じ、安堵しているようだった。

「2月はまったくクルマが仕上がっていなくて、(3月中旬の)岡山の公式テストでも、フルパッケージにはなっていなかったんです。富士テストではいよいよフルパッケージで走行、と思っていたのですが雨、開幕戦も雨で(笑)。そんな状況でしたが、チームが一昨年・昨年のデータをしっかり分析して持ち込みセットを作ってくれたので、今日は最初から“ベースのレベルが高い”感覚で走り出せました」

 昨年からフロントマスクを刷新、今季は2023年規定に対応させつつ、フロントフェンダー、リヤフェンダーともに凝った造形としているが、「昨年いろいろとやって、それが別に悪かったわけではないのですが、バランスが取れていなかった」と河野。レギュレーションが変わるタイミングに合わせてその部分を「イチから見直した」結果、「ダウンフォース量はあまり変わらないと思いますが、バランスが取れるようになり、フロントもリヤもうまく機能するようなセットアップになってきた」という。

「今年のクルマはバランスが取れているので、アンダー(ステア)/オーバーというところでいえば、ニュートラルに近いところに来ています」と、昨年の低迷からの脱却も狙えそうな雰囲気だ。

 同じくGRスープラで戦う埼玉トヨペットGB GR Supra GTの吉田広樹は、「エアロの部分では、進化というよりは“(2023年規則により)できなくなったこと”を取り戻す作業がメインになってしまっていますね」と現状を語る。

 その“取り戻す作業”については、予選日一日で一定の成果を感じられたようだ。吉田によれば、ダウンフォースの絶対値としても、クルマのバランスとしても、昨年の感覚にだいぶ近づいているという。

「公式練習の感じだと足りない部分もあったり、いろいろ試しているなかでカウルが外れたり、その前もいろいろと(問題が)あってピットインしなくてはいけなかったりと、僕らの走り方も含めてちょっとバタバタしてしまいました。ですが、午後に向けてはいろいろとまとまり、(Q2担当の川合)孝汰も最後にいいアタックをしてくれたので、自分たちが思っているよりも決勝を戦えることになりました」

 予選は4番手。過去の実績からみても富士は好結果が狙えそうだ。「次の富士(第4戦)までには重くなってしまうと思うので、ここはしっかり勝ちたいな、という思いはあります」と吉田。

「ただ、勝てそうなチームが予選上位には来ているので、そんなに余裕があるとこにはいないと思います」

 この埼玉トヨペットGB GR Supra GTに次ぐ予選5番手となったのが、muta Racing GR86 GTだ。新加入の平良響がQ1・B組をトップで通過し、堤優威へと繋いだ。

 今季のmuta Racing GR86 GTはインギングとムーンクラフトのジョイントにより、風洞実験によりオリジナルのエアロを開発。とりわけフロントフェンダー後方は個性的なデザインとなっている。

 渡邊信太郎エンジニアは「狙いどおりの結果とドライバーのコメント、データがきっちりと反映できているので、そこはいいかなと思います」と予選までの走りを評価している。

「ただ、特性的にシビアな部分があって、それこそポーパシング的というか、走行シーンを見てもらえればわかるとおりちょっとバタバタしているので、そこをマイルドにしてあげることが、いまの課題かなと思います。一発は出るのでいいのですが」

 予選までは、選択したタイヤスペックも良かったという。決勝のロングランに関しては「今朝(公式練習)の周囲のタイムが“本当”なのであれば、ウチは結構いいペースということになりますので、そこは決勝でも期待したいとことですね」と相対的なポジションを気にしつつも、仕上がりは悪くないようだ。

 ようやくドライコンディションでの本格走行がスタートしたということで、彼ら“アップデート組”はようやく実質的な“開発競争の成果”を知ることになる第2戦。450kmの決勝でも、彼らの走りに注目していきたい。