大型連休後半戦、恒例のゴールデンウイーク開催となった2023年スーパーGT第2戦、富士スピードウェイでのGT500決勝は、予選6番手発進だった36号車au TOM'S GR Supra(坪井翔/宮田莉朋)が、前週ともに優勝を争い合ったスーパーフォーミュラでの勢いを感じさせる逆転劇で、ノーミスの完璧な100周を走破して今季初優勝。名門TOM'Sのエースカー、36号車を表彰台の頂点に押し戻す活躍を演じて見せた。

 天候不順が波乱のドラマを呼び、レース距離75%走破ながら都合3度の赤旗で終了となった開幕戦岡山を経て、今季も450km戦となった5月4日(木・祝)のサーキットには前日の予選日に続く快晴の爽やかなコンディションに恵まれた。

 約3年にわたって我慢を強いられてきた感染症対策も個人の判断に委ねられ、上空同様に晴れやかな気分で迎えたレースデイは、決勝前売り券もファンの高まりに高まったボルテージを反映し完売御礼。サーキットには午前のサポートレースからグランドスタンドを埋める大勢の観客が詰めかけた。

 誰もが待ち望んでいたドライ路面の真っ向勝負で雌雄を結した予選では、100号車STANLEY NSX-GTがQ2担当、牧野任祐のフルアタックでポールポジションを獲得。フロントロウには昨季最多ポール獲得の19号車WedsSport ADVAN GR Supraが並び、その背後には16号車ARTA MUGEN NSX-GTと14号車ENEOS X PRIME GR Supra、そして5番手には一時ポール争いにも加わった24号車リアライズコーポレーション ADVAN Zが並んだ。結果的に、ホンダ、トヨタ、ニッサンの3メーカーに、ブリヂストン、ヨコハマのタイヤ銘柄が入り乱れる上位グリッドとなった。

 昨季同様、今回の450km戦では決勝レースのスタート直後からフィニッシュまでに『最低2回の給油』が義務付けられており、持ち込み時点で昨季より1セット削減されたタイヤをどのように活用し、給油タイミングや量、ドライバー交代の順番や担当スティント割り、さらにアクシデント発生時のFCY(フルコースイエロー)やセーフティカー(SC)に対する突発的な判断と対応など、各陣営が戦略面でどのような戦いぶりを見せるかにも注目が集まった。

 正午12時より実施された決勝向けのウォームアップ走行を経て、GT500の全15台のうち14台がグリッドへと向かい、予選13番手だった38号車ZENT CERUMO GR Supraは、昨日Q1でのタイヤダメージを受けてピットスタートを選択する。

 午後13時30分を前に気温は22度、そして路面温度は週末最高の38度にまで上昇。そんな条件のもと、静岡県警先導のパレードランを経てフォーメーションラップから1コーナーへ突入した隊列は、タイヤチョイスの影響もあってか4番手発進の14号車ENEOS X PRIMEの大嶋和也がブレーキングでわずかにオーバーシュート。その内側を24号車リアライズ佐々木大樹がすり抜けていく。

 さらに後方から、10番手発進の開幕勝者23号車MOTUL AUTECH Zがジャンプアップを決め、ロニー・クインタレッリが6番手へと躍進。その一方で2番手にいた19号車WedsSport ADVANの国本雄資は、タイヤのグリップ発動特性からか4番手に後退。さらに5周目にはオープニングの余波で位置が下がっていた36号車au TOM'S GR Supra坪井翔が猛然とポジションを回復し、ホームストレートを駆け抜け8号車ARTA MUGEN NSX-GTと19号車をも仕留め、4番手に進出していく。

 10周目を迎えるとポールシッターの100号車STANLEY牧野と、背後につけた16号車ARTA福住仁嶺が接近。続く周回では最終コーナーでインサイドラインを取った福住がサイド・バイ・サイドで並びかける。

 ここをしのいだ牧野は、その後も秒差圏内で首位を堅持すると、今度は3番手争いが激化。前日から単独300km/h台の最高速を記録してきた24号車に対し、GRスープラの坪井がスリップストリームも活用して304.225km/hまで伸ばし、1コーナーでのブレーキング勝負を仕掛けていく。

 その決着は20周目まで持ち越され、立ち上がり重視のラインで2コーナーへ向かった36号車auは、高速コカ・コーラでついにZ攻略に成功。3番手へと浮上する。一方、6番手の19号車以降、13番手の39号車DENSO KOBELCO SARD GR Supraまでが数珠繋ぎのトレイン状態となっていた集団内では、同じくターン3でニスモ/ミシュラン陣営同士のバトルで3号車Niterra MOTUL Zの千代勝正が前に立ち7番手とする。

 ここでフューエルのウインドウが開いていることや、予選装着タイヤのライフやペースも鑑みてか、単独5番手走行を続けていた8号車ARTAの野尻智紀が真っ先にピットへ。ドライバー交代なく給油とタイヤ交換を済ませて38.8秒の静止時間で復帰していく。同じくトレインを先導していた19号車国本も、続くラップでピットレーンへと向かう。

 これでNISMOのZ艦隊が率いることになった隊列内では、チャンピオンの1号車MARELLI IMPUL Zと、37号車Deloitte TOM'S GR Supraもそれぞれポジションを上げ、27周目にはその笹原右京もピットへ向かうと、ここも交代せず連続スティントへ。続いて29周目突入でタイヤ交換に向かった23号車MOTUL AUTECH Zも、クインタレッリのままピットアウトしていく。

 一方、コース上では首位を行く2台のNSXにヒタヒタと近づいた36号車auの坪井が、31周目のターン1で、先のオーバーテイクをリプレイするかのように仕掛けると、ターン2までに16号車ARTAを仕留めて2番手へ。

 これを見てか、首位を行く100号車と16号車が同時にピットへ飛び込み、ここでもドライバー交代なく牧野は43秒ジャストの作業静止時間でピットを後にする。当然これに坪井も反応し、続くラップで同様のフルサービスを受けると、ここでの静止時間を40.7秒に抑えてトラック上でのポジションを奪取。実質的首位に立つ。

 36周目の3号車からドライバー交代を伴うルーティンに転じ、千代は高星明誠にステアリングを託す。同じ周回で入った64号車も、続く37周目の1号車MARELLI IMPUL Zも、それぞれ太田格之進、平峰一貴にチェンジする。

 残すは3台がこの時点でピット作業を終えていない状況となるなか、40周目には24号車リアライズが佐々木から平手晃平へ、同じ周回で入った39号車DENSO KOBELCO SARD GR Supraも関口雄飛から中山雄一へ。そして41周目に最後の大トリとなった17号車Astemo NSX-GTが松下信治から塚越広大にスイッチし、連続スティントはもちろん、タイヤ戦略の面でも幅広い選択肢を残して後半戦へと向かっていく。

 最初の作業が一巡し、坪井を先頭に8号車ARTA野尻、100号車STANLEY牧野がトップ3を形成し、16号車ARTAの福住、そしてドライバー交代組から24号車リアライズの平手が追うトップ5に。レース距離も半分を過ぎ、56周目以降は19号車、38号車もドライバー交代へと向かう。

 続いて60周目に突入した段階で23号車MOTUL AUTECH Zも松田次生にスイッチ。続くラップで3号車は高星がルーティンを済ませ、さらに長いミドルスティントを戦った8号車も野尻から大湯都史樹にスイッチし、最後のスティントを託す。

 首位争いも同様に64周目の同一周回で最後のピットへ向かい、36号車auは36.3秒で宮田莉朋へ、100号車STANLEYは37.3秒で山本尚貴に。しかし4番手にいた16号車は最初のピットで作業違反があったとして、ここで無情のドライブスルーペナルティを宣告され、ライバルと同じタイミングでレーンを通過。続く65周目にもう一度ピットエントリーに向かう事態となり、表彰台への勝負権が遠のいてしまう。

 この時点で2度目のピットを終えていない上位4台、首位の24号車リアライズから17号車Astemo、1号車MARELLI、そして39号車DENSO KOBELCO SARDは全車がドライバー交代を終えているため、最後のストップをどんな条件で給油が出来るか、そしてタイヤ交換の選択肢まで残される状況のなか70周を過ぎ、74周目にまず1号車がピットへ。ここで4本のタイヤ交換と義務給油を終え、コースへと戻っていく。

 続く75周目には39号車も最後の作業に向かい、続いて17号車もピットへ。79周目には24号車が最後のタイヤ交換と義務給油を終え、全車がルーティンを終えた80周目には首位の36号車au、2番手の100号車STANLEY、そして3番手で復帰した24号車リアライズと、ふたたび3メーカー直接対決のラストスティント勝負の舞台が整う。

 ここまで1度もFCYやSCが介入しないクリーンなレースを締め括る90周を前に、37号車Deloitte TOM'Sをパスして以降、各セクターでファステストを記録しながら猛然とスパートを掛けた17号車Astemo塚越が、3号車Niterraの高星、そして陣営内の8号車ARTA大湯と白熱の3WAYバトルを展開する。

 一度はヘアピンの縁石で姿勢を乱し、後方へ下がった塚越は、ふたたび3号車に仕掛けてコカ・コーラをサイド・バイ・サイドでクリア。ここでひとつボジションを奪取する。

 そしてチェッカー目前、残り5周となった最終セクターではなんと3番手表彰台圏内を走行していた24号車リアライズの平手が、GT300クラスのマシンと絡んで左フロントを破損。そのままピットでレースを終えるというまさかの事態が発生する。

 これで8号車ARTA対17号車Astemoのラストバトルは、そのまま最後のポディウム争いに転じると、今度はファイナルラップを目前にして8号車ARTAが力尽き、最終コーナー手前でスローダウン。あとわずかな距離が届かなかったガス欠か、そのままピットへとマシンを進め、塚越が大逆転の表彰台を獲得。

 そして450kmを最速で駆け抜けた36号車au TOM'S GR Supraが今季初優勝。宮田が昨年に続いて富士の耐久戦を制し、坪井とのタッグで名門のエースカーを頂点に押し上げたばかりか、前週のスーパーフォーミュラ鈴鹿ラウンドでの初優勝に続き、2週連続のトップカテゴリー制覇を成し遂げた。最終的に2位の100号車、3位の17号車とホンダ陣営がポディウムの両脇を固め、4位には残り4周の段階でニッサン陣営の3号車を1コーナーで刺していた14号車ENEOS X PRIMEの山下が続いている。