2023年のNASCARカップシリーズ第12戦『アドベントヘルス400』が5月5〜7日にカンザス・スピードウェイで開催され、12名による37回のリードチェンジという同トラック最多記録を更新したレースで、トヨタ陣営ジョー・ギブス・レーシングが大記録を達成。終盤、カイル・ラーソン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)との“接触上等”バトルを制したデニー・ハムリン(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)が今季初優勝を挙げ、チームに通算400勝目をプレゼントした。

 デラウェア州ドーバーでの前戦を終え、北米TRDが率いるトヨタ陣営には新たな動きがあり、来季2024年からは“JJ”ことジミー・ジョンソンが共同運営者に名を連ね、同じく“キング”リチャード・ペティ率いるレガシー・モータークラブが、正式にシボレーからトヨタへスイッチすることを表明した。

 今季はノア・グラグソンの42号車とエリック・ジョーンズの43号車を走らせる同チームだが、来季はJGRの4台と23XIレーシングの2台と並んで、同じく2台体制でカップシリーズに参戦し、トヨタとしてはグリッド上のプレゼンスを都合8台に拡大するかたちとなる。

「モーリー・ギャラガー(共同経営者)と僕は、2024年に始まるトヨタやTRDとのパートナーシップに非常に興奮している。我々もトヨタがこのスポーツでビジネスを行っているレベルを賞賛し、尊重し、将来に向けて新しい遺産を築くことを楽しみにしているんだ」と、改めてのトヨタ陣営入りに期待を込めたカップ“7冠”のレジェンド。

「僕らとシボレーがともに成し遂げてきたすべてのことに、いつも感謝している。彼らがずっと前にカリフォルニア出身の子供にチャンスを与えてくれたことに心から感謝しているし、僕らが共有した記録破りの歴史書とその成功を、永遠に記念できることも誇りに思っている」

 現在、チームのレギュラーを務めるふたりも過去にトヨタをドライブした経験があり、ともにクラフツマン・トラック・シリーズではカイル・ブッシュ・モータースポーツから、同じくエクスフィニティ・シリーズ昇格時にはJGRからエントリーしている。

 この発表に際し、現地TRD U.S.A.の社長であるデイビッド・ウィルソンも「レガシー・モータークラブの彼らをトヨタとTRDのNASCARファミリーに迎えることができ、大変うれしく思う」と歓迎の言葉を贈った。

「ジミー・ジョンソンとモーリー・ギャラガーのふたりが共有する、彼らの長期的なビジョンとチャンピオンシップに挑戦できる組織を構築するというコミットメントに、心から感銘を受けたよ。さらに重要なことは、彼らの性格と価値観が、現在のカップシリーズのパートナーであるジョー・ギブス・レーシングや23XIレーシングと一致していることだ」と続けたウィルソン。

「もちろん、古い友人であるエリック・ジョーンズとノア・グラグソンと再会できることも楽しみにしているよ」

 改めてシボレーへの謝意を繰り返しつつ、今回のトヨタとの提携により、現状は陣営内の“カスタマー”に置かれている待遇が「直接、マニュファクチャラーからの支援を受けることが可能」な、いわゆる“ワークス待遇”に変化することこそが、今回のスイッチによる「最大の利点だ」と続けたジョンソン。

■ハムリンが今季初優勝。ジョー・ギブス・レーシングに400勝目をもたらす
「これは本当に理にかなっているクラブの基本的な部分であり、僕らはそうする必要があった。トヨタとのこの深いパートナーシップと提携は、彼らを知り、彼らの情熱と僕らの核となる価値観が、真にどの程度一致しているか。そしてチーム全員が今後何年にもわたって集中して取り組むことを確認するものだ。今回の交渉は短期間でまとまったし、お互いにそのコミットメントを理解する楽しい期間だったよ」

 こうして始まった週末は、そのニュースを祝うかのようにトヨタ陣営のエース格、ハムリンが公式練習で最速を記録。予選こそウイリアム・バイロン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)とラーソンにフロントロウを占拠されるも、おなじみ11号車のフェデックス・エクスプレス・カムリは僚友マーティン・トゥルーエクスJr.(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)らを引き連れステージ1を制覇していく。

 一方のバイロンとラーソンのHMS艦隊は、レースを通じて「全体にルーズ(グリップがない)」な症状に悩まされ、ポールシッターはウォールへの“ブラッシュ”などでトラックポジションを失い、早い段階でラップダウンからのカムバックを強いられる。

 ラーソンも決勝最多の85周をリードしたものの、序盤には他車からのヒットでスピンオフも経験。そして一時は隊列をともに牽引したチェイス・エリオット(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)らが後退し、ハムリンとの一騎打ちになった最後の14周でも「とにかく僕のクルマはルーズだった」と、最後まで有効な対策が取れなかったと明かした。

「できる限りのことをしようとしていたが、最後(ターン2)で本当にクルマを抑えようがなかった。最終的に彼(ハムリン)の方が今日は一枚上手だったということ。リプレイ映像はまだ見ていないけど、明らかに彼は“誰もがそうするように”サイドドラフトを積極的に狙っていた。僕はなんども接触されているように感じたよ」とラーソン。

 一方、最後の神経戦で何度もシボレーの5号車に仕掛けたハムリンは、ホワイトフラッグの最終ラップでラーソンよりわずかに低いレーンを選択。バックストレッチで急接近してプレッシャーを掛けると、わずかにカマロZL1の左後方にヒット。これで姿勢を乱し、ウォールにマシンを擦りつけ失速したラーソンを逆転し、ハムリンが今季初勝利とカップ通算49勝目を獲得した。

「このフェデックスのチーム全体をとても誇りに思っている! 最後は彼(ラーソン)の背後でポジションを取り、シボレーのサイドドラフトを活用しようとしたが、カマロの左後部をクリップしたようだ。でも彼が少なくとも、レースを終えることができてよかったよ」と、その感触を明かしたカンザス通算4勝目のハムリン。

「そしてジョー・ギブス・レーシングが400勝を達成した。彼らにとっても、まさに素晴らしい成果さ!」

 併催のNASCARクラフツマン・トラック・シリーズ第8戦『ヒート・オブ・アメリカ200』は、グラント・エンフィンガー(GMSレーシング/シボレー・シルバラードRST)がカンザス初制覇で通算8勝目をマーク。そして服部茂章率いるハットリ・レーシング・エンタープライズ(HRE)の16号車タイラー・アンクラム(トヨタ・タンドラTRDプロ)は、23番手から挽回を見せトップ10フィニッシュを果たしている。