ル・マン24時間レースの主催者であるACOフランス西部自動車クラブは先週、WEC世界耐久選手権のタイヤサプライヤーであるミシュランとグッドイヤーと協議した結果、来月に行われる100周年記念大会ではタイヤの予熱を許可すると発表した。1戦限りではあるが、今季2023年からシリーズで使用が禁止されたタイヤウォーマーの復活することについて、WECに参戦中のドライバーやメーカー関係者が反応を示している。

 内燃機関を用いてタイヤを予熱するウォーマーの禁止令はサステナビリティー(持続可能性)の観点から導入されたものだが、とくにハイパーカーでは冷えたタイヤで走り始めることの影響に懐疑的であり、先月末に開催されたスパ・フランコルシャン6時間レースでの多数の事故を受けて、ドライバーの安全性に懸念を示す声もあった。

■ウォーマーを使用していない他のシリーズとの比較は不可能

 プジョー・トタルエナジーズ(93号車プジョー9X8)のドライバーであるミケル・イェンセンは、先週末にウェザーテック・レースウェイ・ラグナ・セカで開催されたIMSAイベントの中で、「それは良いアイデアだと思う」とSportscar365に語った。

「多くのキーボードウォリアーが、WECのドライバーは(タイヤウォーマーを使用していない)IMSAに来て、コールドタイヤでのドライブの仕方を学ぶべきだと言っているね。僕も長い間IMSAのレースを戦ってきたが、ここでは問題はないと言える」

「だが、GTPクラス(LMDhカーは参加しているIMSA最高峰カテゴリー)で使用されるタイヤは高温用ソフト(SHT:ソフト・ハイ・テンプラチャー)なんだ。タイヤ配分の関係でダブルスティントが義務付けられているWECのハイパーカークラスで主に使われるミディアムタイヤ(MHT:ミディアム・ハイ・テンプラチャー)は、ここでは使っていない」

「一方、WECではMHTを使わなければならない。スパのコンディションでは(スティント全体で)1分から30秒ほど掛かるが、ダブルスティントには最適なタイヤなんだ。だから使わざるを得ない。そして、このタイヤはウォームアップ時にとても危険になるんだ」

「今後どう改善するのかというのは難しいが、WECとIMSAを比較することはできない。それは良い判断だと思う」

 ポルシェのファクトリーLMDhディレクターを務めるウルス・クラトルはSportscar365に対し、今季のミシュランタイヤで「つねに安心して走れると思っていた」としながらも、タイヤウォーマー再導入の決定には「納得せざるを得ない」と述べている。

 同氏はまた、ル・マン特有の措置としてウォーマーが復活したことは、各チームが急きょ在庫を調整するため、ロジスティクス上の課題が発生することも指摘した。

「FIA国際自動車連盟とACOがタイヤウォーマーを導入することを決定したことは、私たちも受け入れている」とクラトレ。

「ル・マンまでの期間が短いので、どのようにマネジメントするかはこれから動くことになる。ロジスティックな面では明らかに運用面でも変更があり、当初のプランから変更することになるだろう」

「我々は必要な機材を持っているが、正直なところ、もっと前から知っていればもっといい準備ができていただろう。しかし、それはおそらくハイパーカークラスに参加しているすべての人が影響を受けるだろうし、GTチームも同様のはずだ」

■僕自身はコールドタイヤが好き

 ミシュランはハイパーカーだけでなくLMGTEアマの全車両にもタイヤを供給しているが、これらのタイヤはプロトタイプカー向けのものとは異なり、昨シーズンから引き継がれている。つまり、予熱禁止を念頭に置いて新たに開発されたものではないということだ。

 GTEアマクラスのポイントリーダーで、33号車シボレー・コルベットC8.R(コルベット・レーシング)をドライブするベン・キーティングは、今季コールドタイヤでのレースを前提にマシンをセットアップしてきたWECチームにとって、今回のウォーマー再導入は「ダイナミックさを変える」ことになると示唆した。

「(現在のセットアップは)タイヤに熱を伝えるにはとても良いものだが、その場合オーバードライブしたとき、スティント終盤にタイヤを痛める可能性が高くなる」と彼は言う。

「そのダイナミックさが少し失われると思う」

「スパで起きたハイパーカーの事故がその主な原因だろう」

「多くのメーカーが、単純で不必要な事故について不満を述べているが、あのレースでの損害額をすべてを合わせると7桁(ドル/数億円)に上ったのは間違いないとみている」

「しかし、それが(WECが)選んだ方向性であり、我々は皆同じプレイブックに基づいて行動している」

「安全性は第一に考えなければならないと思う。事故が起こるのをただ見ているだけではダメだ。ドライバーをケアし、すべてが安全であることを確認しなければならない。タイヤウォーマーがあったほうが安全なのは明らかであり、それがより安全な選択肢だ」

■ブロンズドライバーにとっては朗報

 スパで優勝したチームWRTのルイ・デレトラズは、ル・マンを走るLMP2ブロンズドライバーは、この変更で恩恵を受けるだろうと考えている。

「ブロンズドライバーにとっては、より安全で簡単なものになるはずだ」と彼は語った。

「僕自身はコールドタイヤが好きなんだけどね。天候が良ければLMP2は大きな問題はなかった。さすがにアウトラップでは3秒から4秒のロスがあったが、これは許容範囲内だ」

「グリップも充分にあり安全だった。しかし、ハイパーカーを捕らえるときは、彼らのアウトラップが遅かったので厄介だった。(ル・マンの)夜中の2時に走らせるのは、あまりいいことではないね」

「冬の間、寒い時期に行ったテストは大変だったので本当に心配していた。しかし、ポルティマオとセブリングは問題なく走れたと思う。スパでは少しトリッキーだったが、さっきも言ったように悪いものではなかった」

「一方でハイパーカーでは良くなかった。問題もあったから、この選択は良い判断だと思う」

“ガレージ59”の特別枠からル・マンに出場するマイク・ロッケンフェラーは、この変更がGTEアマに匹敵するレベルに達すること目指す“NASCARガレージ56プロジェクト”の目標に影響を与える可能性があると指摘した。