大きな責任を担うF1チーム首脳陣は、さまざまな問題に対処しながら毎レースウイークエンドを過ごしている。チームボスひとりひとりのコメントや行動から、直面している問題や彼のキャラクターを知ることができる。今回は、レッドブル・レーシングのチーム代表クリスチャン・ホーナーに注目した。

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 F1シーズンを戦うチームにとって、23戦すべてが重要ではあるものの、そのなかでもとりわけ大きな意味を持つ週末があるものだ。レッドブル・レーシングとチーム代表クリスチャン・ホーナーにとって、マイアミGPはそういうグランプリのひとつだった。

 マイアミ前の4戦、レッドブルは圧倒的な強さを示してきた。スプリント・フォーマットのアゼルバイジャンではフェラーリのシャルル・ルクレールが2回の予選を制したが、勝利を手にしたのはいずれもレッドブル。従って、マイアミでもマックス・フェルスタッペンとセルジオ・ペレスが他を圧倒するものと、誰もが予想した。そういう状況下でありながら、ホーナーは通常よりも高い緊張感を持って、マイアミの週末を迎えた。商業的ないくつかの面で、今回のレースは絶対に落とせなかったからだ。

 その理由のひとつは、レッドブル社が北米でのエナジードリンクの売り上げをできる限り伸ばすという目標を持っていること。さらにレッドブル・レーシングの活動資金の大部分を担うタイトルスポンサーであるテクノロジー企業オラクルの拠点が、アメリカにあることだ。ビッグスポンサーのホームレースで、最高のパフォーマンスを見せなければならないというプレッシャーは当然のことながら、チーム全体にかかっていた。

 今年レッドブルは、オラクルとのパートナーシップのもとで、アメリカでの3戦において、ファンがデザインしたマシンカラーリングを採用するという企画を立ち上げた。その最初のグランプリがマイアミで、シーズン後半のオースティンとラスベガスでも、スペシャルカラーのマシンを走らせることが決まっている。

 マイアミのサーキットにはオラクル社の幹部が姿を見せていた。

「(オラクルの)ラリー・エリソン(会長)とサフラ・キャッツ(CEO)がここに来てくださったのは素晴らしいことだ」とホーナーはコメントした。

「我々の参戦するレースに彼らが訪れたのはこれが初めてであり、サフラにとっては初めてのグランプリである。彼らがグランプリを訪れて、この週末を経験してくれることは、F1とオラクル・レッドブル・レーシングにとって、大きな宣伝効果につながるだろう」

 レッドブルがアメリカで勝たなければならないもうひとつの理由は、将来のパートナー、フォードのホームでもあるからだ。今年の新車発表会において、レッドブルは、パワーユニット部門レッドブル・パワートレインズが2026年に向けてフォードと提携することを発表した。その場に登場したフォードの社長兼CEOジム・ファーリーは、マイアミにも来ていた。

 もちろんこれらはすべてポジティブなプレッシャーではあったが、簡単に対処できるものではない。そんななかで、フェルスタッペンが9番グリッドから優勝、ペレスが2位と、1−2を飾り、チームは最高の結果を出した。

「アメリカで勝つことには大きな意味がある」とホーナー。

「ここ(マイアミ)での2回目の優勝、今シーズン5回目の優勝、シーズン4回目の1−2を達成、しかもそれをポールポジションと9番グリッドから成し遂げた。非常に良いパフォーマンスを見せることができた」

 現時点でのレッドブルの圧倒的な強さから考えて、今シーズンの全グランプリで勝利を収めても不思議ではない。しかし一方でそれは、優勝して当然、優勝以外は敗北であることを意味する。重要なマイアミGPが後者の結果に終わらなかったことに、ホーナーは心から安堵していたに違いない。