第107回インディアナポリス500マイルレース(インディ500)の決勝を5月28日に控え、カーブデイと呼ばれる最後のプラクティスが金曜日に行われた。ちなみにカーブデイというのは、キャブレーションデイと呼ばれていた名残りだ。この日が最後の走行となり、後は日曜日の決勝スタートまでインディカーのマシンが走ることはない。

 この最後のプラクティスをトップで終えたのがチップ・ガナッシ・レーシングの佐藤琢磨だった。2時間のセッションで序盤から好調なスピードを刻み、21周目に227.855マイルをマーク、スコアリングパイロンのトップに琢磨のカーナンバー『11』が躍り出た。

 もちろん1周の最速ラップで計測されたタイムであり、トゥと呼ばれる前を走るマシンの空力の影響でタイムが縮まることもあるが、セッションの最後までこの琢磨のタイムを上回るドライバーは現れなかった。

 タイムが表しているとおり、今日の琢磨の走りは力強かった。パック(集団)のなかに入るとストレートからターン1、ターン3の進入でズバッと前のマシンを抜き去り、さらに加速して前のマシンに追いついていく。気温や路面温度ともクルマがうまくマッチして好調なペースなのが良くわかった。さらに周回数も86周と多い。

 予選では8番手。最後の予選ファスト6にも進めず、スターティンググリッドは3列目の真ん中。「望んでいた結果ではなかった」としきりに悔やんでいたが、決勝に向けて気持ちを切り替え、レース用のセッティングに集中すると月曜のプラクティスでも3番手のタイムをマークしていた。

 そのプラクティス後「今年のエアロパッケージを含めていろいろと考えて、大きく二通りの方向性が選択肢として残って、どちらも一長一短です。まだ決め切れていません」と、タイムシートとは裏腹に最後まで満足の行く状態ではなかった。

 火曜日、水曜日とマシンの走行はなかったが、インディアナポリス市内の小学校へ行って子どもたちと触れ合ったり、インディ500の伝統らしい時間を過ごし、木曜日のメディアデイで、ふたたび我々の前で質問に答えてくれた。

「マシンが走行しない時間でも、エンジニアのエリック(・カウディン)とゆっくりデータを見直して、わかったことがいくつかあって、少し方向が見えてきました。明日(金曜日)のカーブデイでは、大きな方向性を決めたなかで、いくつか細かいことを試したいです。もしそれがうまく働かなかったとしても、修正はすぐにできるので」と最後のカーブデイに向けての意気込みを語った。

■期待膨らむ琢磨の3度目のインディ500制覇「レースは思いっきり行ける」
 そのカーブデイの朝はやや冷え込んでいたが、プラクティスの開始時刻11時には燦々と照らす太陽が気温を上げ、場内に詰めかけたファンの熱気も相まって、エンジンが始動するとさらにヒートアップする。

 琢磨はグリーンフラッグが振られた後、ひと呼吸おいてからコースインした。そして冒頭のように段々とペースを上げていくと、21周目と早い段階でトップに出た。

 他のマシンはパックのなかで自分のマシンのフィーリングを確かめながら、抜きつ抜かれつを繰り返している。なかでも琢磨のチームメイト、スコット・ディクソンはマクラーレンのパト・オワード、フェリックス・ローゼンクヴィスト、チームメイトのアレックス・パロウらと走りつつ、227.285マイルを11周目にマークしていた。

 ディクソンもカーブデイ走行後「他のマシンと一緒に走って興味深かったけど、まだいくつか見直すところがあると思う」と感想を語っている。

 琢磨だけに限らず、チップ・ガナッシのドライバーは速いだけでなく探究心も旺盛で、それに応えるエンジニアたちもデータの解析に余念がない。膨大なリソースを持つこのチームの強さを、この2週間の間で垣間見た。

 そして残すは500マイルの決勝レースのみとなった。琢磨はカーブデイの走行後に「今日試したいと思っていたことは、ほぼやることができて、90%の仕上がりです。理想のかたちに近づいていて、最後の10%は確認する作業で、それはレースでも修正できます。ですので、やりたいことは全部できたと思っています。準備としては整いました」

「過去と比べてみて、2017年(アンドレッティ・オートスポーツ在籍時)は、チームのアドバンテージとしては今年を上回っていると思いますけど、自分たちのやりたいプログラムを消化できたという意味では、2017年を上回りました。今のマシンをインディ500のレースに向けて最適化できたという自覚はあります。レースは思いっきり行けると思うので、そこに賭けるしかないですね」

 昨年デイルコインからの臨んだインディ500では、セッティングで一か八かの選択をせざるを得ず、最後まで悩んでレースに臨んだが、今年は全方位OKという余裕が見える。これが名門チームのマシンに乗るということなのだろう。

 プラクティスから予選まで常にトップ10内を維持し、いよいよ迎える決勝レース。状況は2017年のようでも、2020年のようでもあるが、琢磨の顔に見える余裕は明らかにそれを上回っている。