2026年からホンダのパワーユニットを使用することを発表したアストンマーティン。発表翌日の5月25日には、F1モナコGPのパドックでチーム代表のマイク・クラックが記者会見を行った。この会見に合わせ、アストンマーティンのモーターホームの液晶画面には、ホンダのロゴが映し出されていた。

 会見の冒頭で筆者は、クラックにギヤボックスに関する質問をぶつけた。というのも、アストンマーティンは前身のレーシングポイントを含むフォースインディア時代から、メルセデス製のパワーユニットを使用してきたのに伴って、ギヤボックスもメルセデスから供給を受けてきたからだ。

 ホンダもかつてワークス活動を行っていた第3期の後半はギヤボックスの開発を行ったこともあるが、現在は行っていない。アストンマーティンが2026年からホンダのパワーユニットを搭載してレースを行うには、メルセデスに代わるギヤボックスが必要となる。筆者の質問に対して、クラックは「2026年以降に向けて、リヤサスペンションとともに、ギヤボックスも内製化していくことを目指している」と語り、こう続けた。

「今週末から新しいファクトリーへの引っ越し作業が始まる。新しいファクトリーに移動した後、我々は自前のギヤボックスの開発に取り掛かる予定だ。まだ2年半の時間がある。それまでに準備はできると信じている」

 クラックによれば、「最近のF1のギヤボックスは他のモータースポーツカテゴリーと比べると、パフォーマンスにおける差はほとんどない」とのこと。「確かに新たに開発・製造するのはチャレンジングだが、決して不可能ではない」と語りこう続けた。

「問題はそのコストだ。ギヤボックスにかかるコストは年間800万ドル(約11億円)から900万ドル(約12億円)。ほとんどパフォーマンスに差がないものに、予算制限があるなかで、コストをかける必要はあるのか考え直す時期にきていると思う」

 ちなみにクラックが言う年間800万ドルから900万ドルというのは年間使用可能な4基の2台分8基の値段。つまり、単純計算すると1基あたりのコストは100万ドルにものぼる。もう少し、コストに見合ったギヤボックスにするべきだというのがクラックの主張だ。

 この主張には、クラックならではの戦略も見え隠れする。というのも、これから新たにギヤボックスを開発するアストンマーティンにとって、ギヤボックスの分野で技術的にライバルに追いつくことはあってもリードすることは難しい。ならば、国際自動車連盟(FIA)に働きかてレギュレーションを変更し、ゼロからの競争を行うことでアドバンテージを得ようという戦略だ。

「我々はFIAと、よりシンプルな技術で、よりコストパフォーマンスの良いギヤボックスを開発し、このスポーツ全体をより持続可能なモノとするために、年間で必要な基数を減らしてみてはどうかと議論している」

 かつてBMWがF1にザウバーと組んでワークス参戦していた時代にチーフエンジニアを務め、その後、WEC世界耐久選手権でポルシェのトラックサイドエンジニアリングの責任者を務め、さらにBMWのモータースポーツ部門の責任者としてフォーミュラEやIMSA、GTカーのプロジェクトを率いてきたクラック。アストンマーティン・ホンダでも要になることは間違いない。