5月27日15時に静岡県の富士スピードウェイで決勝スタートを迎えたENEOS スーパー耐久シリーズ2023第2戦『NAPAC 富士SUPER TEC 24時間レース』は、28日15時に24時間レースのフィニッシュを迎え、ST-Xクラスの中升 ROOKIE AMG GT3(鵜飼龍太/蒲生尚弥/平良響/片岡龍也)がチーム初の総合優勝を飾った。

 現在国内で唯一の24時間レースとなり、スーパー耐久シリーズの一戦として6度目の開催となる2023年の富士24時間。今年は8クラス52台がエントリーを行い、多くのチームが助っ人として有力ドライバーを迎えるなど盛り上がりをみせている。

 迎えた決勝日は晴天に恵まれ、気温25度、路面温度35度のなかドライコンディションで開始された。スタートでは2グループに分けられた8クラス52台のマシンが24時間レースのスタートらしくクリーンな出だしをみせる。

 FIA-GT3車両が総合優勝を争うST-Xクラスは、2番手スタートの中升 ROOKIE AMGの片岡龍也がポールスタートのHELM MOTORSPORTS GTR GT3の鳥羽豊を1周目の最終コーナーでオーバーテイクして早くも首位に立つ。

 その後ピットインを行ったST-X各車は、鳥羽からステアリングを引き継いだ平木玲次が駆るHELM GTRが前をいく中升 ROOKIE AMGを上回るペースで周回を続け、65周目のTGRコーナーでオーバーテイクに成功。これでポールスタートのHELM GTRがふたたび総合トップに立つ。

 スタートから8時間経過時点ではフルコースイエロー(FCY)とセーフティカー(SC)がともに1度の導入と落ち着いたレースになっていた2023年の富士24時間だが、18時40分からのナイトセッションに突入すると、レースの様子が一変。まずST-4のシェイドレーシング GR86が火災に見舞われてしまうアクシデントが発生する。

 この処理のためにFCYとSCが導入され、その間にピットインするマシンが現れるなかで首位に浮上したのは中升 ROOKIE AMG。2番手にHELM GTRが続き、その背後にはDAISHIN MPRacing GT-R GT3が迫る。

 トップをいく中升 ROOKIE AMGはナイトセッション中に平良響が好ペースを披露して後続を引き離す単独走行を行うが、DAISHIN MPRacing GT-RはFCY中のピットインが判定されペナルティストップ60秒、HELM GTRは右ブレーキローターが割れてしまうトラブルが発生し緊急ピットインを余儀なくされ後退していく。

 3時30分過ぎ、ST-4クラスのトップを走行していたTOM’S SPIRIT GR86がダンロップコーナーのイン側ガードレールにクラッシュ。このアクシデントでガードレールの修復が必要になったためレースは一時赤旗中断されることに。

 およそ1時間半の中断後、日の出を迎えた5時にSC先導で再スタートを迎えた富士24時間。その再スタートで片岡の駆る中升 ROOKIE AMGはファーストセーフティカーライン前にセーフティカーを追い越したとのことでドライビングスルーペナルティを科されてしまう。これで2番手のDAISHIN MPRacing GT-Rが1周遅れから同一周回に差を縮める。

 そしてレース再開から1時間30分、藤波清斗がステアリングを握るDAISHIN MPRacing GT-Rは中升 ROOKIE AMG GT3を捉え、444周目のホームストレートでオーバーテイクに成功する。その後もペースの衰えないDAISHIN MPRacing GT-Rは、628周目に中升 ROOKIE AMG GT3を周回遅れにする活躍を披露する。

 総合優勝を争う両マシンは、次のスティントでDAISHIN MPRacing GT-RがジェントルマンのJOH SHINDOにドライバーを交代すると、中升 ROOKIE AMGはスーパーGTでも活躍するプロドライバーの蒲生尚弥を投入して形成逆転にかかる。その蒲生は1周あたり3〜4秒ほど速いペースで周回を続け、一時は2周差あったDAISHIN MPRacing GT-Rとの差を1周差に縮めることに成功。

 その後も圧倒的なハイペースで周回を続ける中升 ROOKIE AMGは、さらにDAISHIN MPRacing GT-Rとの差を同一周回とし、レース残り1時間では1分ほどまで差を縮める。そして2023年の富士24時間もレース残り23分、ついに蒲生の中升 ROOKIE AMGはJOE SHINDOのDAISHIN MPRacing GT-R GT3の背後に迫り、グリーンファイト100Rのアウト側からオーバーテイクに成功し、これで総合トップに立つ。

 レースはそのままトップを守り抜いた中升 ROOKIE AMG GT3が24時間のトップチェッカーを受け、今季からST-Xクラスに参戦したROOKIE Racingが2戦目で総合優勝を獲得してみせた。

 最終スティントを担当した蒲生は今回の優勝に「結果的にはこういった結果になりましたけど、そこに至るまでのメカニックさんたちやチームメイトの頑張りが最後の結果に結びつきました」と笑顔をみせた。「僕はレース早々に300Rで他車と接触しスピンをしてしまいました。でもそのときにクルマがどこも壊れずに本当にラッキーで、そこでクルマが壊れてしまっていたらこの結果にもなっていません。正直優勝することができてびっくりしています(笑)」

 今季からROOKIE Racingに加わった平良は「本当に嬉しいです。昨年(ST-2クラスで)優勝したときは“ホッとした”感じだったのですが、今年は展開的にラスト20分での逆転という展開だったので、本当に嬉しさのほうが際立ちます」と優勝を噛み締めている様子だ。

 さらに鵜飼は「僕自身今季初めてST-Xクラスに参戦するので、かなりプレッシャーがありました。ですが、このチームのプロドライバーなど、チーム力に助けてもらい、何とかやりきった結果が総合優勝に繋がったので、本当に感謝しています。チーム力が本当に素晴らしかったです」とチーム全体を称賛。

 さらにチーム監督兼ドライバーである片岡も「素直に嬉しいです。このチームは優勝を目指すために立ち上げられたチームです。早くも一番大きな富士24時間の総合優勝を獲得することができて本当に嬉しいです」と喜びを語り、以下のように今季の目標を続けた。

「もちろんシリーズチャンピオンを目指します。メンバーも普段スーパーGTでメルセデスAMG GT3に乗っている僕と蒲生、さらに最近の若手のなかで勢いのある平良、そして急成長中のジェントルマンドライバーである鵜飼選手がいるので、チーム全体が力を合わせれば十分チャンピオンを狙えると思っています」

■ST-ZからST-5まで好バトルが展開。山野哲也&OHLINS Roadster NATSも復活
 GT4規格マシンで争われるST-Zクラスは、レース序盤にシェイドレーシング GR SUPRA GT4 EVOがポールスタートの埼玉トヨペット GB GR Supra GT4をかわすものの、シェイドレーシング GR SUPRAはペナルティや接触の影響で後退。終始トラブルと無縁だった埼玉トヨペット GB GR Supra GT4(山﨑学/吉田広樹/服部尚貴/川合孝汰/野中誠太)が優勝を飾った。

 2位争いはこの富士24時間に本山哲とジュリアーノ・アレジを迎えたPorsche EBI WAIMARAMA Cayman GT4 RS CSが優勢に立っていたが、レース終盤に他車との接触の影響でラジエターから液漏れを起してしまう。これで順位を上げたベンチャー投資のファンディーノ Audi R8 LMSが2位、シェイドレーシング GR SUPRA GT4 EVOが3位に続いている。

 開発車両が参加するST-Qは、予選から好走を披露したニッサン/NMCのニッサンZ・レーシングコンセプト(平手晃平/佐々木大樹/高星明誠/松田次生)が他を圧倒。大きなトラブルなく24時間を走り切り、ST-Qクラストップとなる総合8位でフィニッシュを果たした。

 ORC ROOKIE GR86 CNF ConceptとTeam SDA Engineering BRZ CNF Conceptの“ライバル対決”については、今回もGR86に軍配が上がる。しかしBRZも2周差で食い下がり、それぞれ総合22位、23位でチェッカーを受けている。

 今大会が初の液体水素デビューとなるORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptはレース途中で車体側のポンプ交換を行うために長時間のピットストップを行う場面があったものの、初となる他車同様のピットレーンでの“給水素”を行い、総合47位で完走。こちらも今回が初の24時間レースとなるMAZDA SPIRIT RACING MAZDA3 Bio conceptは途中ハブボルトが折れてしまうトラブルがあったが、修復を行い総合43位でレースを終えた。

 そして2023年の富士24時間から参戦を開始したTeam HRCのホンダ・シビック・タイプR・CNF-Rは、途中マイナートラブルやギヤ系トラブルにより3時間ほどガレージで作業を行う場面があったが、最終的にコース復帰を果たし520周を走破。総合44位でデビュー戦を終えている。

 ST-1は予選後のペナルティで5グリッド降格を科されたシンティアム アップル KTM(井田太陽/加藤寛規/吉本大樹/小林崇志/高橋一穂)が、ライバルのD'station Vantage GT8Rに37周差をつけてクラス優勝を飾った。

 ST-2はレース中盤までリードしていた新菱オートDIXCEL夢住まい館エボ10が夜間走行中にガレージでの作業を強いられる。代わってクラストップを走行したのは昨年の富士24時間を制しているKTMS GR YARISとなったが、終盤にミッション系トラブルに見舞われてしまい緊急ピットイン、最終的にENDLESS GR YARIS(花里祐弥/石坂瑞基/伊東黎明/岡田整)がレースを制している。

 ST-3はポールスタートの15号車岡部自動車フェアレディZ34が夜間走行中にフロントエリアにダメージを負ってしまい後退、これで16号車岡部自動車フェアレディZ34とヒグチロジスティクスサービス RC350 TWSの争いとなったが、レース残り1時間で16号車岡部自動車フェアレディZ34がリペアエリアでの修復作業を余儀なくされたことにより、ヒグチロジスティクスサービス RC350 TWS(近藤説秀/石森聖生/鶴賀義幸/尾崎俊介/石塚崇宣)が優勝となった。

 ST-4は夜間走行中に上位を争っていたシェイドレーシング GR86およびトップのTOM'S SPIRIT GR86が脱落、さらにライバルのWeds Sport GR86、odula TONE MOTUL ROADSTER RF、エアバスター WINMAX GR86 EXEDYにも相次いでトラブルが発生したことで、ペナルティを受けながらも生き残った全薬工業 G/MOTION'GR86(塩谷烈州/瀬戸貴巨/山本謙悟/ピストン西沢/窪田俊浩)が制している。

 最多12台がエントリーしたST-5は、クラスポールを奪ったLOVEDRIVE ロードスターをかわしたDIXCELアラゴスタNOPROデミオ(西澤嗣哲/大谷飛雄/小西岬/野上敏彦/山本浩朗/上松淳一)がクラストップに立つと、ほぼノートラブルで24時間を走破して優勝を飾った。2位争いはレース終盤に白熱の様相を呈し、前戦大クラッシュのOHLINS Roadster NATSを駆る山野哲也がポジションを守り抜き、復活レースで2位表彰台を獲得してみせた。