スーパーバイク世界選手権(SBK)に参戦しているトプラク・ラズガットリオグルがヤマハを離脱することと、BMWへ移籍することが5月22日に発表された。彼はヤマハからMotoGPテストにも参加して、2024年からMotoGPへの転向に興味を示していたが、最終的にSBK残留を選んだ。この選択にはどのような背景があったのだろうか。

 SBKに2018年から参戦しているラズガットリオグルは2年間をカワサキで過ごし、2020年からPata Yamaha Prometeon WorldSBKに移籍。2021年は13勝をマークしてチャンピオンを獲得したが、来季からROKiT BMW Motorrad WorldSBK Teamに移籍することとなった。

 そんな彼がなぜMotoGPへの参戦が噂されたかというと、2022年6月にスペインのモーターランド・アラゴンで初のMotoGPテストを行い、さらに4月10〜11日にスペインのヘレス・サーキット‐アンヘル・ニエトで2度目のテストに参加したからだ。さらにMotoGPへの転向に興味を示していた。

 アラゴンでのテストは悪天候のために走行が中断されたようだが、ヘレスでは2023年型のヤマハYZR-M1を走らせて、テストライダーのカル・クラッチローの指南を受けて、MotoGPマシンの走らせ方を学んだ。

 ところが、このテストの結果から、MotoGPへの転向が現実ではないことを判断したようだ。彼はヤマハ離脱のプレスリリース内のコメントで「MotoGPのチャンスもあったけど、MotoGPマシンについてはスーパーバイクのマシンと同じようなつながりを感じることができなかった」と語っている。

 近年、市販車ベースのレースに参戦したSBKや全日本ロードなど出身のライダーたちも、MotoGPにワイルドカード参戦や代役参戦した際も、乗り換えに苦労していた。逆にMotoGP出身ライダーがSBKで活躍する姿は多く見られるのだが……。

 現に、ヤマハ・モーター・レーシングのマネージングダイレクターを務めているリン・ジャービスは、ラズガットリオグルのMotoGPテストについて、4月の時点で以下のように評価していた。

「彼にとって最も重要なことは、MotoGPバイクがどのようなマシンであるか、その要求は何か、それに対するフィーリングを知り、理解することだった。将来において、彼のポテンシャルを確認する良い機会となった」

「総合的に言えば、彼がバイクのフィーリングを掴むのは簡単ではなかった。彼はスーパーバイクで奇跡を起こすことができ、特にフロントエンドから信じられないほど良いフィーリングを持っている。彼のストッピーと信じられないほどのコーナー進入から、そのことを見てきた。これをYZR-M1で見つけることは簡単ではなかった。MotoGPマシンはSBKマシンよりも、はるかに剛性が高いためだ。このバイクでスピードを出すには、ライディングスタイルを大幅に変更する必要があると思う。これらが、この数日間から得た私の結論だ」

 さらにジャービスは「彼は明らかに(MotoGPに)興味を示している」ともコメントしたが、MotoGPマシンとミシュランタイヤのパッケージ、SBKマシンとピレリタイヤのパッケージが大きく異なり、適応するには時間がかかることも説明した。

 このテストからヤマハMotoGPで活躍することが現実に見えなかったラズガットリオグルはSBKへの残留を選択。次に、なぜヤマハに残って2度目のチャンピオンを目指さずに、BMWへ移籍することに決めたのだろうか。

 ラズガットリオグルがヤマハ離脱の際に「来シーズンは新しいチャレンジが必要だと考えている。スーパーバイクに留まるなら、新たな目標が必要だ」ともコメントを残している。

 ヤマハYZF-R1はマイナーチェンジを繰り返しているが、ここ何年も新型モデルを出していない。一方、BMWはS1000RRの新型マシンを投入後、ウイングレットを装備したM1000RR、そして今季からはまったく別のM1000RRを開発してSBKとEWCで走らせている。

 BMWワークスが復帰してから数年で、3機種がお披露目されてレースの現場で開発がなされている。この開発の熱意と勝利への挑戦に興味を示したのだろう。また、そこには契約金額の違いなどもあるかもしれないが、公表されることはないため知る由もない。

 カワサキ、ヤマハと2メーカーで成功させてきたラズガットリオグル。彼は「どんなスポーツでも変化はつきもので、プロフェッショナルにとっては普通のことだと考えている」とも説明しており、3メーカー目となるBMWだが、新天地でもこれまでと同じ気持ちでチャンピオンを目指すことだろう。