世界の主要なシリーズに合流し、各国各地域を転戦してきた新生TCRワールドツアーもいよいよ最終戦、豪州大陸連戦から3週連続開催となる11月16〜19日に、伝統のマカオ“ギア・レース”で決着のときを迎えた。

 週末に集った登録18台中、タイトル決戦は2012年のWTCC世界ツーリングカー選手権王者ロブ・ハフ(コムトゥユー・レーシング/アウディRS3 LMS 2)と、2020年と2021年のWTCR世界ツーリングカー・カップ“連覇”を経験するヤン・エルラシェール(リンク&コー・シアン・レーシング/リンク&コー03 TCR)が同率選手権首位で並び、同じく2019年WTCRチャンピオンであるノルベルト・ミケリス(BRCヒョンデN スクアドラ・コルセ/ヒョンデ・エラントラN TCR)がそれを1点差で追う緊迫の三つ巴に。

 ここで予選から好調な速さを披露してレース1でのポール・トゥ・ウインを決めたミケリスが、逆転での初代ワールドツアーチャンピオンを獲得し、自他ともに認めるマカオ通算11勝の“スペシャリスト”ハフは、ライバル陣営の巧みな戦略や「これまで見たなかでもっとも残念で汚いこと」と批判する動きにも翻弄され、ボンネット解放からウインドスクリーン破損というまさかの事態で終戦となった。

 文字どおり“横一線”で迎えた難攻不落の市街地決戦に向け、タイトル候補を抱える各マニュファクチャラーも万全のサポート体制でマカオ入りを果たし、アウディ陣営はTCRヨーロッパでランク2位を獲得したジョン・フィリピ(コムトゥユー・レーシング/アウディRS3 LMS 2)を招聘。同じくヒョンデもTCRイタリアからマルコ・ブティ(エボルブ・レーシング/ヒョンデ・エラントラN TCR)を呼び寄せ、双方ともに3台目の“手札”を揃えた。

 一方、前戦バサーストですでにチームタイトル獲得を決めたリンク&コー・シアン・レーシングは、テッド・ビョーク、サンティアゴ・ウルティア、そして中国出身マ・キンファの経験豊富なレギュラー3名がエルラシェールを後押しする総力戦の様相で臨んだが、走り出しのFPから唯一のコンペンセイションウエイト40kgを課された同車は最高速で伸び悩む苦しい展開に。

 対照的にマンダリンからリスボアに掛けて明らかなアドバンテージを披露したヒョンデ・エラントラN TCRは、予選でもミケリスと僚友ミケル・アズコナ(BRCヒョンデN スクアドラ・コルセ/ヒョンデ・エラントラN TCR)がフロントロウを固める展開に。この時点でポイントを加算したポールシッターのミケリスが、2列目3番手で喰い下がったエルラシェールに6点差、そして最終フライングラップでアズコナに“ブロックされた”ことを示唆し、5番手に留まったハフに10点差として逆転のランキング首位に躍り出た。

■レース2でウルティアの後部にハフが追突。ボンネット破損で後退
「結局のところ、彼(アズコナ)に対するペナルティは何もない。なぜなら彼はチャンピオンシップ争いに参加していないからだ。だからおそらく彼は良い仕事をしたと言えるだろう」と、予選中における『他車への妨害行為』で3グリッド降格の処分を受けたライバルに言及するハフ。

「僕が愚かなのかもしれないが、彼が意図的にそうしたのではないと思いたい。 もしそうだとしたら、それは絶対に嫌なことだと思うから。今季は滑りやすいコースで見られたように、今週のアウディにはフロントエンドのグリップが不足している。ただ予選では苦戦しても、レースでは状況が変わることもある。どうなるか見てみよう」

 こうして迎えたレース1のオープニングでは、併催TCRアジアチャレンジの招待ドライバーに関わるイエローこそ発生したものの、ポールシッターがレースを支配。昇格3番グリッド発進となったネストール・ジロラミ(マックプロ・レーシング/FL5型ホンダ・シビック・タイプR TCR)を振り切ったミケリスが“ライト・トゥ・フラッグ”を達成してみせた。

 その背後では、再三にわたるリスボアでのサイド・バイ・サイドをしのぎ切り、アズコナを封じ込んだハフが3位表彰台に滑り込み、スタートの大失策で6位に終わったエルラシェールを含め、チャンピオン候補3名全員が日曜の最終戦に向け可能性を残す状況となった。

 明けた日曜もシーズンフィナーレらしい荒れた幕開けとなり、グリッドで失速した前走車に突っ込んだTCRアジアチャレンジのアウディがサスペンション損傷でスタックすると、マンダリンでワイドになった古豪ギャリー・ロジャース・モータースポーツ(GRM)所属のベン・バルグワナ(プジョー308 TCR)がバリアに激突して大破。ここでセーフティカー(SC)が導入される。

 そのリスタート後も、予選トップ10リバースでポール発進だったウルティアが好スタートを切り、フレデリック・バービッシュ(コムトゥユー・レーシング/アウディRS3 LMS 2)やビョーク、ハフらを抑えて序盤のリードを維持していく。

 全11周の勝負も終盤に差し掛かろうかという8周目。マンダリンの大外からウルティアをパスしたバービッシュが首位に浮上し、その背後ではハフもビョークを仕留めて3番手へ。そのまま隊列が山間セクションに入ると、左中速のドナ・マリア・ベンドで事件が起こる。

 車載映像からは減速したウルティアの後部にハフが追突。アウディのコクピットで抗議のハンドサインを送った直後、ハフの視界は突如開口したボンネットに遮られてしまう。この衝撃でフロントガラスも割れたイギリス出身の元世界王者は、修理のためピットインする以外に選択肢はなく、これで同地通算12勝目とタイトル挑戦への望みは絶たれてしまった。

■怒りを露わにしたハフに対し、批判には当たらない見解を示すウルティア
「僕もプロのツーリングカー乗りとしてここに20年ほどいるが、このレースでサンティアゴ(・ウルティア)がやったことほど汚いことは見たことがない」と、専門サイト『TouringCarTimes.com』の取材に対し怒りを露わにしたハフ。

「首位のフレッド(バービッシュ)は、僕が追いつくためにスピードを落としてくれたことは確かだ。でもドナ・マリアの出口で彼は完全にブレーキを踏んだ。アクセル全開の場所だし、まったく予想していなかったから当然ぶつかってフロントを破損した」と確実に“意図的なブレーキテスト”だったと主張するハフ。

「彼はここマカオで3周にわたる大規模な決勝戦を台無しにした。誰もが大いに楽しめる可能性があったが、それが最大の損失だと思う。時間を掛けてここに来てくれたファンからその価値を奪い、お金を使い、家族を連れて出掛けてくれた皆の気持ちをフイにし、最大のライバルであるヒョンデにチャンピオンシップを譲った。僕らは適切な決勝に値するドライブをしたが、残念ながら今日はひとりのドライバーがそれを阻止した」

 一方、そのウルティアも異なる見解を示し、批判には当たらないとする態度を見せた。

「インシデントに関しては、うまく抜け出すためヘアピンでさらに少しスピードを落としただけさ。前にバービッシュがいたから全開にもできなかったし、そこで後ろからハフにヒットされたんだ」

 勝者バービッシュに続き、2位でフィニッシュしたウルティアの背後には、僚友と順位を入れ換えても「タイトルには届かない」とポジションを守ったエルラシェールが続き、さらに後方でアズコナ、ブティを従えて8位でチェッカーを受けたミケリスが、ふたたびツーリングカーの世界戦で頂点の座に戻ってきた。

「ここはマカオだ。僕らはこれまで多くのことが起こり得るのを見てきたが、前日は本当に素晴らしい展開で、ちょっと夢のようだった」と週末を振り返ったTCRワールドツアー初代チャンピオンのミケリス。

「最終日はほぼすべてのシナリオを紙の上で用意していたが、細部に対して完全に準備ができていたわけではないし、レース中はトラブルだけは避けたかった。完走できないことだけは避けたかったんだ」

「マカオは僕にとって特別な場所で、2010年にここで初めて世界ツーリングカー選手権のレースで優勝し、お気に入りの場所のひとつになった。そして今、レースに勝つだけでなく、ここでチャンピオンシップを獲得することは本当に特別なことだと感じているよ」