12月2日、栃木県のモビリティリゾートもてぎの北ショートコースには、F1ドライバーの角田裕毅と、すでに2024年全日本スーパーフォーミュラ選手権(SF)への参戦を発表している岩佐歩夢の姿があった。

 この日は本来、この北ショートコースではF1ドライバーのセルジオ・ペレスを特別講師として招いての『ホンダ・レーシング・スクール鈴鹿アンバサダーセルジオ・ペレス特別講習会』が予定されていた。

 しかし、ペレスが乗る予定の飛行機に遅延が発生してしまった影響で当日の来場が叶わず、急遽、翌日の12月3日にもてぎで開催される『ホンダレーシングサンクスデー2023』の出演のために帰国して会場入りしていた角田と岩佐が講師として招かれ、ホンダ・レーシング・スクール鈴鹿(HRS)カートクラスの生徒ともにとデモレースを含む特別レッスンを行なうことになった。

 角田と岩佐とデモレースを行うという、予期せぬ幸運に恵まれたのは、金子准也、白石樹望、小野原悠、山代諭和、松井沙麗の5人のHRSの生徒。デモレースへ向け、まずは生徒5人が予選を行いアタックを行った。

 その後角田と岩佐も数分の完熟走行を行い、コースサイドで見守る5人の生徒たちにその走りを披露。そしていよいよ行われる10周のデモレースでは角田と岩佐が5人の後ろに並ぶかたちで整列し、スタートが切られた。

 先頭からレースを開始したのは全日本カート選手権に参戦した経験を持つ松井沙麗。最後尾から走り出した角田は、5人の生徒の走りを見守るかと思いきや1コーナーのブレーキングでアウトから仕掛けていきなり2番手へ。岩佐も4番手へと順位を上げ、生徒の目の前で世界レベルの走りを披露した。

 先頭の松井は、2022年FIAガールズ・オン・トラック-ライジングスターズのファイナリストに選ばれたこともある実力者。先頭を走るプレッシャーに負けず、2番手の角田を寄せ付けない見事な走りを見せる。

 迎えた10周目、ラストラップに入った角田は得意のブレーキングで松井とのグッと距離を詰め、インに仕掛けるもまさかのハーフスピン。グラベルにハマってしまった角田だが、後ろからその姿を見届けた岩佐がチェッカーを受けたのちにそばに寄り、マシンから降りて角田を無事救出。角田は生徒5人に遅れて、なんとも予想外なチェッカーを受けた。

 レース後角田は、「カートでのブレーキの感覚を全く忘れてしまって、強く踏みすぎたのでリヤがすっぽ抜けてしまいました。残念ですが、チャレンジした結果ですし楽しめました」とスピンした状況を振り返りながらも、久々のカートでのレースを楽しんだようだ。

 首位で角田とのバトルを演じた松井は、「常に後ろに誰かがいるのは感じていたのですが、抜かれたときに『角田選手だったんだ』と気づきました。少しでも自分の後ろを走ってくれて、嬉しかったです。岩佐選手と角田選手は完熟走行を見ていても一周ごとに速くなっていったので、普段はあまりカートに乗っていないと思うのですが適応能力が高いのだなと感じました」と、同校の卒業生でもあるふたりの走りに感銘を受けた様子だった。

 最後には、マシンを降りた7人とレースの模様を見守った佐藤琢磨プリンシパルも加わってQ&Aセッションが行われた。

『レース走行前のルーティーンはどのようにしていますか』という白石からの質問に角田は、「フィジカル面のウォームアップと、レッドブルでカフェインを摂取して目を覚ますようにしています。レース前にはたまに緊張することもありますが、自分が真剣になっているサインと捉えて普段通りにトレーナーと話したりしながら過ごしています」と回答。

 続いて答えた岩佐は「まずは角田選手と同じくフィジカル面のウォームアップをします。そのあとは、自分やライバルのポジションを踏まえて、レースの流れをなるべくたくさんのパターンをイメージします。そうしないと自分は緊張してしまうので、心配が無くなるまでとにかくいろいろな状況を考えて、不安をクリアにしてからマシンに乗り込むようにしています」と話し、これからたくさんのレースを戦うであろう5人の教え子たちにレース前のルーティーンを教えた。

 Q&Aセッションを終えると、急遽開かれることになった角田と岩佐の特別講習会は閉幕となった。講習を終えた岩佐は「冷えたタイヤでのプッシュなどは、まだまだ伸ばせる部分だなと感じました」と語っていた。5人の生徒らも、スタート直後のふたりの追い上げからは、世界で戦うふたりの技を肌で感じたのではないだろうか。HRSの先輩ふたりからの直接指導は、まだまだ伸び盛りな5人の生徒にとってなによりも特別な経験となったはずだ。