アメリカでホンダ/アキュラブランドのモータースポーツ活動を担ってきたホンダ・パフォーマンス・デベロップメント(HPD)は2023年12月に名称を変更し、ホンダ・レーシング・コーポレーションUSA(HRC US)となった。

 これによりHRC USは、日本のHRCと連携しながら、F1を含むグローバルな四輪モータースポーツ活動に携わっていくことになる。

 2024年1月25〜28日にアメリカ・フロリダ州のデイトナ・インターナショナル・スピードウェイで行われたIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権開幕戦のデイトナ24時間レースは、この体制変更後のHRC USにとって最初のイベントとなった。最高峰GTPクラスにエントリーするアキュラARX-06(ウェイン・テイラー・レーシング・ウィズ・アンドレッティ)の2台は『HRC』のロゴをまとい、スタッフウェアも一新されていた。

 そんな体制変更を象徴するように、日本でHRCの代表取締役社長を務める渡辺康治氏もデイトナに姿を見せた。ここでは渡辺氏に、今回の体制変更の狙いやその波及範囲、気になるWEC/ル・マンへの挑戦や次期GT3車両、ドライバー育成など、幅広い話題についてインタビューを行った。

■F1におけるHRC USの担当は「電動系」相乗効果に期待

──デイトナに来た主目的は何ですか?

渡辺康治HRC社長(以下、KW):今シーズンから北米でレースをやってきたホンダ・パフォーマンス・デベロップメント(HPD)とHRCの協力関係を強化するためにHRCのワン・ブランドでやって行くことになりました。HPDからHRC USに社名を変え、さらに連携を深めてきました。その体制での第一発目のレースがデイトナということで、これまで彼らの活動をずっと見てきたので、その成果をしっかりと見届けようということで現場に来ました。

──昨年9月に新体制になると発表。HRC USはF1を含むホンダの世界のモータースポーツに関わって行くということでしだが、HRC USは新たに何を担当していくのでしょうか?

KW:F1で言うと、パワーユニットの中の特に電動系のところの開発、及びサポートに入ってもらうことになっています。しかし、まだHRCとHRC USが始まったばかりなので、そこには少人数しか入っていません。今後、そこを徐々に拡大して行くことを考えています。グローバルで、どのレースに参戦していくとか、それをどちらがどのように担当していくとか、お互いの位置付けをちゃんと明確にした上で、日本側はこういうことをやる、HRC USはこういうことをやるというのを、しっかりと役割を決めていくつもりです。私は担当責任者としてグローバルな活動を見て、そこでの人、物、資金の配分を見ていきます。

──F1の電動系をHRC USに、となった理由は?

KW:HPDはインディカーの電動系の開発をやってきました。HPDには内燃機関の実績もありますが、日本側としては、電動のところに知識とマンパワーが欲しいということで、当然日本の開発部門がメインでやっていくのですが、そこに加わってもらうことでアメリカサイドのレベルも上がっていく。相乗効果に対して非常に大きな期待をしています。

──昨年、HPDがインディカーのハイブリッドシステムを開発することになった。それが重要な技術の蓄積につながったんですね。

KW:そうなんです。HRC US側もF1をサポートすることで、彼らのレベルが上がることを非常に期待しているんですよ。そして、もうすでに実際にそうなっています。一緒にやることで、いろいろと勉強になる、という話が聞こえてきていて、やって良かったと感じています。

──昨年までだと日本からHPDにエンジニアが行って、駐在することで技術の連携をしていたと思いますが、今はそれよりもずっと大きなレベルで技術交流を行うようになったということですね。今後は両サイドともに人員増などが考えられますか?

KW:実際にHRCの人間をHRC USに、あるいはHRC USの人間を日本に駐在をさせるかはわからないですが、(栃木県さくら市に位置する)HRC Sakuraには定期的にサンタ・クラリータ(カリフォルニアにあるHRS USの本拠地)から人が入って来ていますし、お互いに出張ベースにはなりますが、交流は拡大しています。

 HRC USは、IMSAのいろいろなデータの管理に、Sakuraが作り上げたソフトウェアを使っていますが、そのソフトウェアは日本からアメリカ側に展開された後、アメリカでさらに進化したものです。最初はF1用にソフトウェアを作ったので、パワーユニットだけの管理をしていたのですが、IMSAでは車体側の管理もしていかないとならないので、そちらへと能力を広げたソフトウェアにしたのです。

──HRC USという会社のスケールは今後大きくなっていく可能性がありますね?

KW:あまり広げすぎても良くありませんから、効率重視で行きます。F1ではコストキャップ規定が導入されているので、昔のように人を配置して、設備も入れて……というようにはできません。いかに効率的に、少ない人数で、プロフェッショナルを集め、短期開発をして行くか。そういうことでないと、お金がどんどん膨らんでいってしまうので。そういう意味では、アメリカの電動系のプロが入ってくれると効率的に良いのです。もうプロしか要らない。

──F1ではHRC USの活動もチェックするんですね?

KW:当然ですね。ガラス張りになっています。

■現時点では「ない」が「検討すべき」WEC参戦計画

──ホンダの四輪モータースポーツとしてはF1、インディカー、IMSA GTP、日本のスーパーGT、スーパーフォーミュラなどが大きなところだと思いますが、今後HRC USはホンダのモータースポーツでより大きな領域を司る……みたいなことになる可能性もあるのでしょうか? あるいは、今までよりもどの分野においてもアシスト率が上がる、といった感じでしょうか?

KW:今が第一ステップで、将来的にはHRC USがグローバル・レースに出て行く可能性もあります。たとえば、現在我々に計画はないですけれども、世界耐久選手権(WEC)に仮に出て行くなんていうことになると、当然IMSAでやって来たような経験が役に立つでしょうから、HRC USが担当する……というように。これはたとえなので、現時点で我々にWEC参戦の計画は全然ないですよ。でも、そういうステップに向かって行けるように、私としてもしていきたいな、と思っています。

──現状、WECへの参戦計画はないんですね。

KW:ないです。ただ、非常に興味はあります。今の優先順位としては、2026年からのF1をしっかりと準備していくことが一番です。今のところ、ではありますが、そのプライオリティが高いと思います。しかし、そこに目処が付いてくると、今度は全体、グローバルで見た時にどういう風な参戦をしていくのかを自分たちの中で議論したいですね。

──WEC及びル・マンは、まだ検討も始まっていないのですか?

KW:そうです。まだ始まっていません。

──HPDの時代にIMSAのプロトタイプに参戦し始めて、昨年から車両規定がLMDh=GTPに変わり、WECへの出場が可能になりました。キャデラックやポルシェといったライバル勢はすぐさまWECへの出場を開始し、BMWとランボルギーニも今年からWECに参戦します。HPDとしても「チャレンジしたい!」という思いがあったのでは?

KW:当然、全体の流れはそうだし、我々はそこを検討すべきですよ。だから、今後そうなっていくと思います。ただ、勝てないレースに出てもしょうがないので、その辺もしっかり見極めていきたい。

──WEC、ル・マンはハイパーカーとの混走ですからね。ところで、渡辺社長ご本人はル・マンで活躍した好きなマシン、ドライバー、記憶にあるレースといったものはおありですか?

KW:私はホンダの人間としてル・マンに一番たくさん行っているんです。あの長いル・マンのコースも自分で実際に走って確認したこともあります。サルト・サーキットは自分の足で歩いたこともあります。そういう意味では、ル・マンはとても好きです。NSXが出ていた4年間は、その担当をしていました。だから、ル・マンに対する思い入れというのはありまくりです。

──では、ル・マンを戦ったマシンで好きなのはホンダNSX?

KW:そうです。私はヨーロッパでも長いこと働いていたのです。私のホンダ人生の中で日本の次に長く過ごしたのがヨーロッパなので第二の故郷といった感じで、ル・マンに対しての興味も大いにあるわけです。あとは優先順位の問題で、個人的にはやりたいと考えています。

──もし、WECに参戦するとなったら、そこで佐藤琢磨はドライバー候補に入りますか?

KW:やるとなったら、検討の候補には入ってくるかもしれませんね。

──彼に耐久レースをやる意思があるかも不明ですが。

KW:ル・マンに出るという話を彼としたことがないので……。

■「日本人ドライバーに海外で活躍する場を提供していく」必要性

──今年のアキュラはウェイン・テイラー・レーシング・ウィズ・アンドレッティからGTPカテゴリーに2台が参戦していますが、そこに日本人ドライバーを送り込む計画はどうでしょう? HPDでは昨年からアメリカのフォーミュラカー・シリーズ・チャンピオンをスーパーフォーミュラに奨学制度で参戦させる……ということが行われて来ていますが?

KW:具体的な計画はまだないのですけれども、我々の日本以外のレースというと現在はF1になってしまいます。F1に日本のドライバーを乗せたいという思いは、当然続いていきますが、それだけでは足りません。日本人ドライバーに海外で活躍する場を提供していく、準備していくということは必要なので、その具体的な検討に入りたいな、と考えているところです。

──その場がIMSA GTPになる可能性はあるのでしょうか?

KW:そういうことになるでしょう。我々のやっているレースというと、そこになるので。

──「ぜひインディカーで走りたい」という熱意を持つ若い日本人ドライバーがいるという話を聞くことは少ないのですが、スーパーGTをやっているドライバーたちの中に「GTPにチャレンジしたい」という人はいるのでしょうか?

KW:いると思います。速度の違う多種のクルマが一緒に走っているレースはスーパーフォーミュラだけをやっている人には非常に難しいと思いますが、日本のGT300とGT500がある混走のレースでしっかりとマシンが操れる人であれば、アメリカのレースでもうまくドライバーとして務め上げることが可能でしょう。ぜひトライさせてみたいな、と思います。

──日本人ドライバーのGTP参戦が実現するとしたら、それは来シーズンからですか?

KW:来年からやります、とは言い切れないですが、なるべく早いタイミングでやりたいとは考えています。

──鈴鹿のレーシングスクールから海外のレースまで……というつながりを作っていく、といった構想でしょうか?

KW:スクールからはフォーミュラカーでステップアップをして行くので、そこは今までと変わらないと思います。F4からF3、F2、そしてF1へ……というホンダ・フォーミュラ・ドリーム・プロジェクトというものは変えません。しかし、フォーミュラ・ドリーム(・プロジェクト)やスーパーGTで活躍したドライバーたちにも次のステップ、世界での戦いの場というのを作っていきたいという感じです。

■次期GT3車両計画は白紙。NSXは長くても2025年まで?

──ところでホンダの次のGT3用の車両に関して、計画はどうなっているのでしょうか?

KW:今はないです。ないので、どうするか、という感じですね。NSXの出場は、基本的には2024年シーズンいっぱいでおしまいですね。延長申請すると2025年まで出ることができるか……というぐらいです。その後のベース車両がないので、そこをどうしていくか、というところです。

──HRC USはHRCにとってのアメリカでの拠点となるわけですが、ヨーロッパにも拠点を作る計画ですか?

KW:F1が始まると、パートナーのアストンマーティンはイギリスの会社ですので、何かしらの拠点は必要になると思っています。2026年からのパワーユニット供給に向けて、必要なタイミングで拠点を立ち上げようと考えています。その拠点の主目的はF1ですが、そこが何か別なのことをやってはいけないというわけではありません。その拠点に何かやるべきことがあれば、活動範囲を広げていくということはあり得ることです。