現在のF1トップチームのためにも、“不適切な行為”があったとされるクリスチャン・ホーナーの行動に関する調査がどのような形であれすぐにでも終わることを願うが、レッドブルの創設者でありチームが自主的に運営されることの素晴らしさを信じていたディートリッヒ・マテシッツの死後、ホーナーが密室で起こっていた途方もない権力闘争に負けたことは明らかなようだ。

“ディディ”ことマテシッツ氏の生前、ホーナーは加入するエンジニアを選ぶなど、ファクトリーとレースチームに関する重要な決定を自由に行うことができた。一方、競争相手であるヘルムート・マルコは、基本的にオーストリアの会社が所有する両チームのドライバーラインアップを決定していた。またベテランの彼は、マテシッツとの長年にわたる密接なつながりを最大限に利用し、必要に応じてより多くの資金を投資するよう彼を説得していた。

 16カ月前に億万長者のマテシッツが亡くなったとき、ホーナーは組織の頂点に立つ唯一の人物となって最終的にマルコを解任し、レッドブルのF1運営を完全にコントロールするチャンスだと考えた。彼はまた、新たなボスとなったオリバー・ミンツラフがマルコにやりたい放題させるつもりがないことをすぐに感じとり、レッドブル共同オーナーであるチャルーム・ユーウィッタヤーが彼の大ファンであることを知ったため攻勢に出た。

 しかし、当然ながらミンツラフには独自の計画があり、彼は取締役会とF1プロジェクトの間の単なる仲介者になることに関心はなかった。実際、かつてレッドブルのサッカーチームのマネージャーを務めていた同氏は、オーストリアから運営をコントロールしたいと明言している。

 ミンツラフは、レッドブル・レーシングとレッドブル・パワートレインズの日々の運営をホーナーに任せているが、重要で費用の掛かる事項については自身が最終決定を下すことを要求している。このためマルコとホーナーがかつて持っていた裁量は干渉を受けることになる。

 ル・マン24時間レースでの優勝経験を持つマルコは、レッドブルとの新たな契約条件を受け入れたようだが、ホーナーはユーウィッタヤーを味方につけようとしたことから、ミンツラフとの軋轢を生んでいる。ユーウィッタヤーは生前の父親の面影を保ってはいるが、いかなる内部の争いにも関与したくないようだ。そのためホーナーは、自分がオーストリア側の運営から孤立していることに気づいた。これは彼が勝てない戦いだ。

 現在の危機的状況を乗り越えたとしても、レッドブルF1チーム代表兼レッドブル・パワートレインズCEOとしてのホーナーの地位はひどく損なわれており、ホーナーは以前ほど社内で影響力を及ぼすことはできなくなるだろう。

 したがって彼は、たとえ社会的に好ましくない行為がなかったとしても、過去19年間に保持していたものよりも脆弱なポジションに留まることを望むのか、それとも豊富な報酬パッケージをポケットに入れて、F1での他の役割を目指して立ち去ることにするのか、決断を下さなければならないだろう。