2024年開幕戦バーレーンGP直前に、バーレーン・インターナショナル・サーキットを舞台に行われた3日間のF1プレシーズンテストでは各チームの新車が入念な走りこみを行いました。各マシンの挙動や勢力図、そして先日電撃発表となったルイス・ハミルトン(メルセデス)の2025年フェラーリ加入について、元F1ドライバーでホンダの若手育成を担当する中野信治氏が独自の視点で振り返ります。

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 3日間のプレシーズンテストを見るに、引き続きレッドブルもフェラーリも悪くはなさそうですし、そこにメルセデスやマクラーレン、アストンマーティンが食い込んでくるのではないかと思います。ただ、依然としてレッドブル優勢は変わりませんね。個人的にはレッドブルのマシンパフォーマンスを測る意味でもセルジオ・ペレス(レッドブル)がこのテストでどれほどの走りを見せてくれるのかが興味深かったのですが、印象としてはレッドブルは昨年同様、もしくは昨年以上のペースは出しているかなという感じです。

 例年どおりプレシーズンテストは燃料搭載量を含めて明確にはわからないことも多いため、本当の実力を予測しにくいのですが、マシンの挙動だけに絞って見ると、レッドブルの車両は非常にいい動きをしています。基本的な部分で昨年のマシンを継承しているようで、目にみえる挙動に大きな変化はありませんが、目に見えない領域や空力面での進化もあってか、ストレートスピードやダウンフォースの確保という部分で進化を遂げているように見られます。

 フェラーリも一発の速さは健在で、こちらも昨年と同じ印象を受けました。コーナリングでの挙動に関してもフロントはしっかりと入っていくのですが、引き続きピーキーさを抱いているように見えましたね。一発は出せるクルマなだけに、あとの課題はロングランです。テストでは燃料搭載量も含め、実際にはどうなのかが垣間見えないこともあり、開幕戦の決勝でどういうレースラップを見せるのかは楽しみです。レッドブルとフェラーリの差は縮まっているのか、そこは開幕戦の注目ポイントのひとつだと思います。

 また、レーシング・ブルズ/RBのマシンの挙動も良かったです。昨シーズン序盤のレッドブルの動きにも少し似た印象を抱きました。それだけにすごく乗りやすいクルマかどうかといえば、そうではないかもしれません。ただ、昨年のレッドブルに近い動きであれば、タイヤには優しいクルマになっていると思います。

 その分、一発のタイムを出しに行くにはピーキーさもあるので、慣れが必要かもしれません。実際に、昨年序盤ではマックス・フェルスタッペンもそのピーキーさに苦しんでいましたが、その挙動に慣れるとフェルスタッペンは予選でも速さを見せつけていました。ただ、それも含めて私的には非常にいい動きに見えましたので、今年のレーシング・ブルズのマシンは、大きな期待とまでは言えないかもしれませんが、ぜんぜん悪くはないと思います。

 また、アストンマーティンもレースペースがすごく良さそうです。一発の速さは5〜6番手かもしれませんが、サーキットによってはレースペースの良さで表彰台争いに食い込んできそうです。昨年のマシンの良さを継承しつつ、抱えていた問題に対する答えも見つけられたのではないかと思います。あと、個人的にはステークのマシンの挙動も悪くないように見えました。3日目も周冠宇(ステーク)が3番手タイムを記録していたので、ここも楽しみな存在ですね。

■ハミルトン電撃移籍の影響

 プレシーズンテストの前にもF1関連のニュースはたくさんありましたが、なかでもルイス・ハミルトン(メルセデス)の来季フェラーリ入りのニュースには私も驚きました。これは、同時にカルロス・サインツが今季を持ってフェラーリを離れることが決定したということでもあります。

 ハミルトンが40歳でのフェラーリ入りを決めた本当の理由は本人のみぞ知ることですが、ドライバー目線で考えてみると、もう40歳を迎えF1で第一線を戦えることも長くはないこともわかったなかで、まったく新しいチャレンジに挑むことは、ハミルトンにとってもかなり魅力的だったのではないかと思います。

 また、ここ数年苦しんでいるメルセデスを離れたいという思いも少しはあったかもしれませんが……それよりもフェラーリというF1の象徴的なチームで走るというステータスに魅力を感じた方が大きかったのではないかと思います。また、現在のフェラーリのチーム代表は、ハミルトンとともにF3、GP2時代を過ごしたASM/ARTグランプリ創業者のフレデリック・バスールです。

 バスールが代表を務めていることが必ずしも移籍の大きな理由ではないとは思いますが、馴染みのバスールがいることで、対シャルル・ルクレールを考えた際の、チーム内でのやりやすさのようなものも期待しているのかもしれませんね。いずれにしても、ハミルトンにとっては非常にポジティブな移籍だと思います。

 対するサインツにとっては非常に厳しい状況です。フェラーリにとっては自社の価値を上げるという意味で、ルクレールかサインツのどちらを残すのかを考えた際にルクレールを選んだと思います。この両者に大きな実力差はなかったかもしれませんが、この後の伸び代と人気も考えた上での判断だったのでしょう。やはり、ブランディングのうまいフェラーリらしい判断かもしれませんね。実際にハミルトン加入が発表され、フェラーリの株価がぐんと上がっています。

 ハミルトンの加入でフェラーリにも新しい風が吹くかもしれませんが、バスールと関係が深いハミルトンの加入は、フェラーリのナンバー1ドライバーの座を揺るがすという意味でもルクレールにとってはすごくやりづらいでしょう。

 また、サインツにとっては1年後にはフェラーリを離れることが決したなかで迎える2024年シーズンとなります。サインツは移籍先が決まっていないですので、次へ繋げるためにもルクレールをいかに倒し、自分自身の価値を高めることができるのかが勝負になるでしょうね。追い込まれている状況の中で見せる、火事場の馬鹿力ではありませんが、今季はいつも以上の走りを見せてくれるかもしれません。そういった意味でもサインツの走りにも楽しみにしたいですね。

 さて、まもなく開幕戦です。レッドブル優勢、フェラーリがそれを追うという構図は変わらないかもしれませんが、どのチームが3番手、4番手なのかはいまだに明確にはなっていません。いったいどこのチームがレッドブルとフェラーリを追う急先鋒となるのか、そこが各チームの実力があらわになる開幕戦の一番の楽しみです。

 最後になりましたが、私は2024年も引き続きDAZNでF1解説をさせていただきつつ、ホンダの若手育成に携わらせていただきます。ホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS)でともに育成に携わる佐藤琢磨がホンダ・レーシング(HRC)の『エグゼクティブアドバイザー』に就任しましたが、引き続き私も琢磨とともに若手育成を含め、意見交換やアドバイスを重ね、物事を進めてまいります。エグゼクティブアドバイザーとなった琢磨には、才能のある若いドライバーたちによりチャンスが広がっていくような流れを作っていただきたいですし、私もその力になりたいと思います。

【プロフィール】
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS)のバイスプリンシパル(副校長)として後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24