3月2日に行われたWEC開幕戦カタール1812kmレース。2023年シーズンに7戦中6勝を挙げ、ドライバーとマニュファクチャラーの両タイトルを奪ったトヨタGAZOO Racingの2台のGR010ハイブリッドは、6位と9位という結果に終わった。

「正直、結構歯が立たなかったなと」

 7号車のドライバーでありながら、チーム代表職も兼務する小林可夢偉は、決勝から数日後、そう振り返った。

■チームの士気は「上がった部分もある」

 すでにレースウイーク中から話題にあがっていたとおり、トヨタの2台は初開催のルサイル・インターナショナル・サーキットでタイヤをうまく機能させることができず、開幕前テスト『プロローグ』の段階からグレイニング(ささくれ摩耗)に苦戦。これには、第1戦向けのBoP(性能調整)で与えられた1089kgというハイパーカー9車種のなかでもっとも重い車両重量、そしてコース特性の影響が大きかったと可夢偉も見ている。

「(車重が比較的重い)フェラーリも苦戦していたので、これはほぼタイヤだなと。要するに、クルマが重い順に苦しんでいるんだなと。プジョー、ポルシェに関しては結構軽いので、それが影響した感じはしますね」

 中高速コーナーが続くルサイルのレイアウトは、「荷重はかかるけど、グリップしない。タイヤが溶けるのではなく、削れるような状態」になってしまっていたと可夢偉。コース特性、そしてアスファルトの異なる他サーキットに行けば状況は異なるとも予想できるが、「それは行ってみないと分からない部分もあります」と楽観視はしていない。

 トヨタ陣営としては2023年11月にもルサイルでテストし(可夢偉は不参加)、シミュレーションも重ねて乗り込んできたわけだが、「ここまで差が出るようなシミュレーションではなかった」とのことで、タイヤを機能させられなかったという部分についてはまさに“想定外”の事態だったようだ。

 昨年までテクニカル・ディレクターを務めたパスカル・バセロンは今年TGR内で新たな役職に就き、新たにデビッド・フローリーが同職を引き継ぐという新体制のもと始まった2024シーズンだが、「まさかパスカルがいなくなって最初のレースで、これだけタイヤでハマるとは思いませんでした」と、バセロンが以前にミシュランでエンジニアを務めていたことを引き合いに出し可夢偉は苦笑する。

 とはいえ、チームとしては「ミスなくしっかりとポイントを取れたし、いまのBoPを見ると全戦勝つなんてほぼ不可能。そういうときでもポイントを獲れたのは大きいと思う」と可夢偉は開幕戦でのポジティブな側面を強調した。

「BoPもあるし、みんながいまの状況は理解しています。だからチームの士気は下がっていません。僕らがなぜダメなのかという部分や、チームのみんなを働きやすくするといった環境の部分、そして疑問に思う部分などについては、コミュニケーションをしっかりとり、働き方とパフォーマンスを上げるためのアクションを素早くやることによって、なんだったらチーム自体の士気は上がった部分もあると思います」

■「助かった部分もある」BoPルールには“不安”も

 そのBoPについては、今季、毎レース変更になる可能性をシリーズは示している。昨年のように、『プラットフォーム(LMH、LMDh)内での個別BoPはル・マン後までは変更しない』といった決まりごとはない状態だ(実際にはその決まりを破る形で、ル・マン直前に変更が行われたが)。

「『毎戦、(一定のパフォーマンス)ウインドウに入っていなかったら変わる可能性がある』と(シリーズからは)言われています。今回の結果をみると、僕らは完全にウインドウから外れていたので……そういう意味ではちょっと助かった部分もあるなと思うんですよね」と可夢偉は第2戦に向けてBoPが改善されることに期待を抱く。

「ただ、戦い方を結構変えないと、厳しい方向にいく可能性もあるので、今回(シリーズが)どういうアクションを取るのかというところでは、僕らも出方をうかがわないといけないなと思っています」

 当然ながら、毎レースでBoPが変更されるとなれば、いわゆる“三味線”、本来の性能を隠す陣営も出てくることが予想される。第4戦ル・マン24時間は獲得ポイントが倍になるだけでなく、イベントとしてのバリューも極めて高い。そこへ向けて、ハイパーカー・マニュファクチャラーの各社が“駆け引き”を始めかねない状況とも言えるのだ。

 この件について聞くと、「そうなんですよ、僕らはそれを言っているのですが、まぁ彼らが選んだ道なので……」と、可夢偉本人もシリーズの行方を憂慮している様子。

 決勝前の取材では、「BoPがあるからこそ、これだけのマニュファクチャラーが参入してきてくれている」とポジティブな側面にも光を当てていた可夢偉だったが、今回トヨタが見舞われたタイヤの件など「シミュレーションの数字以上に、いろいろな要素でタイム差が出てくる」ため、9マニュファクチャラー間の調整はあらゆる意味で難しいものになっているようだ。

「とはいえ、そういう苦しい状況でもいいクルマを作り続けるということが、僕らがWECにいる理由でもあります。こんな状況でも、僕らはしっかり勉強できました」と可夢偉はブレない姿勢を示す。

「自分自身、いままでにないくらい苦しくて……ちょっとプッシュしたらタイヤがグレイニングを起こしてダメになるみたいな状況でした。そういうなかでも、『どうしたらタイヤをちょっとでも労われるか』みたいなことも運転側ではしっかり学ぶこともでき、決勝でもそこそこいい走りができたので、学びはたくさんあったと思っています」

 今季増えたアルピーヌ、BMW、イソッタ・フラスキーニ、ランボルギーニといったライバル勢は、開幕戦では上位進出とはならなかったが、「みんな、なんだかんだ(10時間レースを)走り切ったので、そういう意味ではすごく走り込んできたのかなというふうには感じました。ちょっとのミスもできない、ミスするとうしろに下がってしまい上がってこれないので、予選からずっとスプリントレースをやり続けなきゃいけないという緊張感はすごくあります」と、2024年のハイパーカークラスの戦いが激しいものになっていることは間違いないようだ。

「ポルシェはだいぶ良くはなっていると思うけど、まだまだフェラーリも速いんじゃないかと僕は思っていて、そういう意味ではポルシェとフェラーリとの戦いになるかな」と開幕戦時点の勢力図を俯瞰する可夢偉。まずはポルシェ、フェラーリに戦いを挑む“きっかけ”をつかみたいところだ。