アルバート・パーク・サーキットを舞台に行われた2024年第3戦オーストラリアGPは、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)がマシントラブルによりリタイアとなり、虫垂炎からの復帰戦となったカルロス・サインツ(フェラーリ)が今季初優勝、F1キャリア通算3勝目を飾りました。

 今回はサインツの潜在能力を引き出したメンタリティ、7位入賞を果たした角田裕毅(RB)、そして次戦日本GPのフリー走行1回目(FP1)に出走することが決定した岩佐歩夢(RB)について、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が独自の視点で綴ります。

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 ポールスタートのフェルスタッペンがマシントラブルで早々にリタイアとなる中、サインツが見事なレースを見せました。本人も「まるでジェットコースターだよね!」とコメントしていましたが、まさにそのとおりだと思います。開幕前に今季限りでのフェラーリ離脱が明らかにされ、前戦サウジアラビアGPは虫垂炎で欠場。さらには自身の代役としてF1デビューを飾ったオリバー・ベアマンが入賞果たすという状況で迎えた復帰戦でした。

 人間にはエクストラ(特別)なエネルギーと言いますか、個々に普段は表に出てこない潜在能力があり、その潜在能力が引き出されるタイミングは、ベストコンディションばかりではないと私は考えています。欠場からの復帰戦という、困難な状況下でサインツはエネルギーを爆発させるように、自らの潜在能力を引き出し切ったように見えました。

 今年のF1は全24戦と長いこともあり、F1ドライバーであってもどこかで集中力に緩みが出てしまうケースもある思いますが、復帰戦を迎えたサインツの、この1戦にかける集中力は凄まじいものがあったように感じます。若い新人の活躍や来季のシートが未確定という状況で、サインツにはいい意味でプレッシャーから解放されたかもしれません。また、復帰戦ということもあり、『ダメでも仕方がないよね』というような開き直りも、サインツの走りに繋がったと思います。

 当然、フェラーリのマシンが良かったということもありますが、予選・決勝ともにチームメイトかつ、フェラーリのエースであるシャルル・ルクレールをしっかりと上回ってみせていました。サインツは、いわゆるゾーンに入ることが少ない印象のドライバーです。逆に言えば、常に同じように集中し、常にアグレッシブで、いい意味で安定したドライバーです。その一定した集中やアグレッシブさがいい意味で崩れたのが、今回の好走に繋がったのではないかと思います。

 それだけに、フェルスタッペンにトラブルが起きなかった場合の展開が見てみたかったですね。フェルスタッペンがいてもあの日のサインツなら勝てたのかもしれないと、それほどの走りを見せていました。

 そして、裕毅も予選から素晴らしい仕事ぶりを見せました。裕毅に一発の速さがあること、そして物事の進め方や限られた時間の使い方という点で大きく成長していることは知っていますので、個人的には大きな驚きはありませんでした。『裕毅ならこれくらい行くよね?』という感じです。

 RBのマシンに関してもパフォーマンスが決してないわけではなく、やはり各サーキットに合わせていかに最適化できるかという方が鍵になっています。オーストラリアGPの舞台、アルバート・パーク・サーキットのコース特性がRBのマシンに合っていた部分もあったかもしれませんが、それでもスイートスポットをうまく見つけられたのが今回の好走に繋がったと見ています。

 決勝に関しても、裕毅はいつもどおりの仕事をしていました。その上で、チームがいいマシンを作り、かつ適切なタイミングでミスなくピットストップを終えたことで裕毅の実力が正当に評価される条件が揃い、7位という結果として現れたと思います。これは裕毅にとって非常にポジティブであり、日本GPに向けてもいい流れが作れたかとも思いますね。

 さて、今回のオーストラリアGPではターン6でアクシデントが多発しました。FP1でアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)、決勝でジョージ・ラッセル(メルセデス)がクラッシュし、サポートレースのFIA F2でもクラッシュやコースオフが相次ぎました。

 ターン6は左に曲がりながらブレーキングし、200km/h以上のスピードに乗ったまま右コーナー(ターン6)に入っていくにも関わらずランオフエリアがほぼないこともあり、ミスを犯しやすい区間です。続くターン7の立ち上がりからほぼストレート区間なので、ターン6の出口からスピードを乗せておきたいということもあり、できるだけ縁石を使いたくなるのですけど、限界を3〜5cm超えてしまうとアルボンのように車体下面を擦ってコントロール不能に陥ってしまいます。

 決勝でのラッセルのクラッシュに関しては、前方を走っていたフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)に対し、それ以前にターン6に入った時よりも、問題の周では100m強早くリフトしていたとして、レース後に20秒のタイムペナルティが科せられる結果となりましたが、これはきわどいですね。

 あの状況だと、ターン8のDRS区間を終えた先のターン9〜10で抜かれてしまうことはアロンソもわかっていたでしょう。そこでターン6のブレーキングを遅らせて、立ち上がりでスピードを乗せていく。そして後ろから迫るラッセルとの距離を縮めることで、ラッセルを乱流の中に入れてスピードを落とすということはテクニックのひとつではあると思います。

 アロンソへのペナルティは、ターン6へのブレーキングがいつもより早すぎた、極端すぎたという点が理由ですが、内容としては私はきわどいと思います。F1では目に見えないところでこのような駆け引きが繰り広げられていますし、ポジション争いの最中ではみんながやっていることですからね。

■F1公式セッションデビューを迎える岩佐歩夢へ

 さて、次戦は第4戦日本GPです。日本GPといえば、これまでシーズン終盤の秋開催でしたが、環境への配慮等の理由から史上初の春開催となります。鈴鹿サーキットは各マシンのポテンシャル差や特性の違いがわかりやすく出てしまうサーキットです。開幕から4戦目での開催ということもあり、シーズンの行く末を占う意味でも注目の一戦になるでしょう。今後、この鈴鹿での日本GPはその意味合いも変わってくるように思います。

 そして、日本GPではダニエル・リカルドに変わり、歩夢がフリー走行1回目(FP1)でRBのマシンに乗ることが発表されました。歩夢は2020年からヨーロッパに行き、F1に行くという強い意志を持って戦い、結果も出し、周りの評価も上げてきました。2024年は全日本スーパーフォーミュラ選手権に参戦していますが、F1に一番近い日本人ドライバーは歩夢だと私は思いますし、それに相応しい能力を持っています。

 そんな歩夢がF1日本GPで、鈴鹿に集った観客の前で走るということは、やはり特別なことだと思います。歩夢のF1に対するモチベーションもより確固たるものになるでしょうし、今後に向けては非常にポジティブな機会です。

 そして、歩夢はリカルドのマシンで出走するので、FP1では裕毅と歩夢が同じチームから、同じマシンで出走するということになりますから、鈴鹿は金曜日から大いに盛り上がるでしょうね。このような機会は歩夢だけではなく、日本のモータースポーツ界にとっても意味のある機会になると思います。

 ホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS)で育成に携わらせて頂いている私としては、これほど嬉しいことはありません。スクール出身のふたりが同じチーム、同じマシンで鈴鹿の同じセッションを走るなんて、夢にも思っていなかったですね(笑)。でもこういったことも現実に起こるということは、今後もっと素晴らしい可能性が広がることに繋がってくると思います。

 こういった事実を見て、今スクールに来てくれている若いドライバーたち、スクールを卒業したドライバーたち、そして今後スクールに挑戦しようとしている若いドライバーたちも、何かを感じ取ってくれるといいなと、そう思います。辞めずに戦えば、夢は実現するものだと思います。そういった可能性を感じ取ってほしいと心から願っています。

【プロフィール】
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS)のバイスプリンシパル(副校長)として後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24