「そう調整する感じなのですか!」

 思わずその驚きでツッコミを入れてしまった、auto sport本誌編集部の仮屋です。何の話かと申しますと、今週末開催のスーパーGT開幕戦岡山でGT300デビュー戦を迎えるVELOREX FERRARI 296 GT3。そのスワンネック式リヤウイングの吊り下げ部には、レーシングカーでよく見かけるような角度調整用のホールなどは見当たりませんでした。

 では、一体どのようにセッティングの変更しているのかなと、不思議に思っていると「アジャストは“下”で行いますよ」と優しいメカニックの方。この“下”とは、エキゾーストがすぐ真横に通っているウイングステーの根本部分のことで、なんとウイング全体を傾けることで角度調整が可能という、予想外の構造になっていたのです。

 さらに、その根元部分にアクセスするためにはバンパー、リヤウイング、ディフューザー、そしてエキゾースト後端が一体となったアッセンブリー一式を取り外さなければならないという驚きの仕様……。角度調整用の機構をウイングから取り除くことで、空力への悪影響をできるだけ避けたいというフェラーリの意図があるようでした。

 すぐにセッティングを変更するのが大変ではないのかな、走行直後にメカニックの方は火傷しないのかなと、素朴な疑問もありましたが、昨年のニュルブルクリンク24時間や、今年1月に行われたデイトナ24時間(GTDプロクラス)を制したフェラーリ296 GT3の速さと強さの理由は、このような徹底した細かな部分での性能追求のこだわりに宿っているのかもしれないと感じました。

 そんな2024年注目の黒船の一台ですが、その速さ以外にも“今季”向きなのではないかと、感じたポイントがありました。

「前後重量配分は昨年のアウディR8 LMSに対し296 GT3はフロント寄りでリヤタイヤにやさしく、フロントのウォームアップは改善されそうです」そう解説してくださったのはTeam LeMansの古場博之チーム代表。

 今シーズンの最大トピックのひとつである、GT500クラス、GT300クラスともに予選Q1とQ2、決勝の第1スティントを1セットのタイヤで戦う新規則。さらにGT300クラスでは新たに“順位入れ替え”ルールが採用され、auto sport5月号(No.1595)『スーパーGT非公式ガイドブック』でも、TGR TEAM WedsSport BANDOHの坂東正敬“先生”に授業していただきました。

「Q1をトップで終えたとしても、最終結果では20番手まで落ちる可能性がある」

 複雑な新ルールの意味を理解するのにメモ帳に図を書き出しながらでしたが、今まで以上に上位をキープすることが難しくなっていることが伝わりました。加えて、予選3番手以内でポイントを獲得できるという要素もあり、タイヤマネジメント+速さが求められ、ドライバーとエンジニアのさまざまな試行錯誤がいまだ続いているようでした。

 タイヤに優しく温まりにも自信をのぞかせ、またアッセンブリー式のエアロを採用するなど耐久レースを意識して作り込まれているのかもしれないと、感じることができた296 GT3。“新たな”スーパーGTとのマッチングはいかがなのか。注目して見てみようと思います。

 さらに、注目のもう“一隻”の黒船といえば、エボ仕様となってカムバックを果たしたD’station Vantage GT3。D’station Racingが投入するこの車体は「アジアでの納車第1号です」と、藤井誠暢選手。「GTEマシンっぽく」変化した外観だけでなくマシンの挙動も別物となり、とくにピッチ制御やリヤのスタビリティが大幅に進化したと、解説していただきました。

 さらにリヤが安定したことで、リヤウイングは前モデルよりも寝かせることも期待できるそうです。岡山のバックストレートエンドやダブルヘアピン、第2戦の舞台となる富士の1コーナーといったブレーキング競争で今後どのようなバトルが展開されるのかと、未知数な部分の多いポテンシャルが明らかとなる開幕がますます楽しみになりました。

 そしてIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権やWEC世界耐久選手権などで実績のあるこの“黒船艦隊”に、秘密のベールを未だ被ったままの新型Zをはじめとする日本車勢がどう立ち向かうのか。『土曜日から緊張感MAX』になることは、間違いなさそうです。

●auto sport 2024年5月号(No.1595)電子版
https://www.as-books.jp/books/info.php?no=AST20240329